エコな発電方法
自分たち以外にも生存者が居て話ができることは、この高校の生徒たちに大きな活力を与えた。
それはまるでこの世界という名の地獄にたらされた一本の糸。
だから、何とか無線を維持しようと、発電方法を考えようと必死になるのも無理はなかった。
「というわけで、発電方法を考えたいんだよ。取り敢えず、災害時用の自家発電機は遠征の際に確保するつもりなんだけど、何時までもそれに頼る訳にはいかないし。」
今の所まだ電気は来ているが、何れ来なくなってしまうだろう。
かといって、発電所を作る訳にもいかない。
今すぐにでも作り始められ、そして燃料を使わない物を作るべきだ。
「なら、自然エネルギーがいいんじゃねぇか?」
「水力は、裏手にある川じゃ勢いが足りないよな。」
「太陽光……パネルが無いか。」
「とすれば、風力発電、か。」
風力発電。
日本であまり普及していない理由は、平地が少ないことだ。
だが、無線をつなぐのに必要な分だけなら、小さい物でも事足りる可能性はある。
「発電機の製作は時間がかかるから、今は別の何かで代用するにしても、風力発電なんてどうやって作ればいいんだ?」
「技術室の鉄板で何とか作るしか無いかもしれない。とすると、少し難しいぞ。」
「フライパンとか、ああいう器みたいなものは無理?」
「厳しいかもしれないけど、とりあえずやってみよう。水力、風力二つを試そうか。じゃあ、巧先輩と和馬先輩、純先輩は鉄板での加工をやってみて下さい。荘田先輩と大樹と僕で器型を試してみます。龍と大樹はダイナモになりそうなものを探してみて。翼先輩と誠治先輩は水車作りで。」
「あれ、そういえば女子は?」
そう言って大樹が辺りを見回す。
広い会議室には、男しかいなかった。
「……皆通信中だ。」
苦々しい顔で巧が答えた。
「美沙ちゃんはどんな食べ物が好きなのかな?」
『うんとね、オムライス!』
その返答で、黄色い歓声が湧き上がる。
次に葉月が質問する。
「じ、じゃあ嫌いな食べ物は?」
『えっと、トマトとね、ピーマンとね……でも、美沙はぜんぶたべれるよ!』
またもや黄色い歓声が上がる。
「…………。」
佑季はこの黄色い歓声を上げる集団を、まるで異星人を見るかのような顔つきで遠巻きに眺めていた。
「ダイナモってなんぞ?」
「ええっと、ダイナモっていうのはね……。」
一方、会議室に残った龍と怜はダイナモを探そうとしたが、そもそも龍がダイナモが分からないと言い出したので、怜が解説することになった。
「……とまあ、かいつまんで言えば発電するのに必要な機構で……。」
「なるほど。」
「……わかった?」
「わからん。」
怜は大きく溜息をついて、龍の横に座った。
「でも風力発電なんて面倒くせぇな。俺は発電って言ったから自転車を漕ぐものとばかり……。」
「ッ!龍、今なんて言った!?」
「え、だから自転車を……。」
「それだよ!はははっ、何で気づかなかったんだろう!」
「どうしたんだよいきなり。」
「自転車のライトって漕ぐと点灯するだろ?てことは、あれにもダイナモは付いてるはずなんだ!これでダイナモは完成だ!」
「おお!なら早速取りに行こうぜ!」
二人は転がるように会議室を飛び出した。
「じゃあ、取り敢えず器っぽい物でも探そうか。」
徹が器状の物を探すのを、真二は冷めた目で見つめていた。
自分が指揮を執れないのは何故だ。
本来なら、このコミュニティの指揮は当然生徒会長である自分が執っているはずだ。
なのに、自分以外の、それも一年生が指揮を執っているなど、馬鹿げている。
自分こそがふさわしい。
自分こそ――。
いや、待て。
少し考えれば分かる事じゃないか。
これまでの歴史を振り返れば、どうすべきかなど一目瞭然。
転覆を謀ればいいのだ。
つまり、クーデターだ。
目の前のこいつを嬲り殺し、自分が頂点に立てばいい。
この世界は弱肉強食で、そして無法だ。
仲間を集めなければならない。
武器を集めなければならない。
まただ。
どうも自分は事を焦りすぎる傾向がある。
クーデターを起こした所で、徹の下の者が黙ってついてくるとは限らない。
下手に抵抗されて死んでしまうかもしれない。
だとしたら実に滑稽だ。
武力で制した者は武力に制される。
つまり、武力ではいけない。
知能を使うのだ。
なるべく自然に徹を消し、自分が頂点に立つ。
とすれば事故死だ。
しかしそんな機会があるか?
……ある。
商店街遠征だ。
その時に何とか徹を殺す。
若しくは、ゾンビに食べさせる。
そうなれば、自分が頂点に立つのは確実だ。
計画を練らなければならない。
緻密な計画だ。
誰にも悟られず、気取られず、自然に死を与えよう。
これは試練だ。
僕の能力が試されている。
……ぽっと出の一年如きが図に乗るなよ。