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トラック旅団

「こちら、下井町優成学園代表の冴島徹です。」


『こちらはトラック旅団代表の柊仁ひいらぎ じんだ。声から察するに、まだ若いと思うのだが?』


「はい、高校一年生です。」


『……しっかりしている。そちらの人数は十五人で間違いないか?』


「はい。一応、ゾンビの侵入は……あ、感染者のことをゾンビって呼んでるんですけど。とにかく、侵入は無いです。」


『そうか。こちらは十四人で、四両編成だ。現在地は美島町。』


美島町と言えば、温泉で有名な都市で、よくテレビでも取り上げられる。


だが、ここ下井町からは数県遠い。


「温泉でも楽しみましたか?」


『ふっ。まさか。……だが、そろそろ衛生的にも問題があるから入浴すべきだろうな。』


「確かに、入浴はこちらでも大きな問題になっていますよ。」


『まあ男は大して何も言わんのだが、どうも女子がな……。』


「ははは。こっちもですよ。で、どうしますか?」


『救助が必要であれば微力ながら救助させてもらうが、聞いたところは大丈夫そうだな。』


「今の所は。まあ問題は多いです。幸い電気はまだ来ていますが、何時切れるかも分かりませんし。今は発電機が欲しいですかね。あと、水と食料の安定供給。」


『こっちはガソリンだ。……おいおい、引っ張るなって。』


「どうかしましたか?」


『いや、生存者と通信できたという話を聞きつけた子供がな……。おい、離せって。』


「楽しそうですね。……どうでしょう、この回線は繋いでおいて、お互いの交流を図るというのは?」


『名案だな。ストレスの解消にもなるかもしれない。それに、情報交換も可能だ。距離が遠いから、要請が無い限りそちらに行く事は無いと思うが、お互い頑張ろう。』


「はい。……ところで、銃の取り扱いに詳しい人は?」


『俺は警察の人間だからな。一応の取り扱いは分かるぞ。手に入れたのか?』


「いえ、まだですが、物資の確保の為に学校の外で物資の調達をしようかと。」


『そうか、気を付けてな。』


「そちらこそ、雪で滑らないように。じゃあ、後は交流させます。そちらも交代して頂ければ。」


『了解。』


ヘッドセットを外す音が聞こえ、すぐに元気な女の子の声が聞こえてくる。


『もしもしー?』


声から推察する限りは、小学校低学年くらいか。


龍に手の空いている者を一人ずつ呼びに行かせて、女の子の相手をすることにする。


「お名前は?」


『うんとね、美沙みさは美沙だよ。』


何ともちんぷんかんぷんだ。


とにかく、美沙というのだろう。


「美沙ちゃん。初めまして。僕は徹っていうんだ。そっちはどう?」


『あのね、あんまりお風呂に入れないからきもちわるいの』


「そっか。こっちもだよ」


『それにね、みんなケンカをよくするの。仁が止めるんだけどね、金髪のおにーちゃんとね、眼鏡のおじさんがね、言い合いばっかりしてるの。』


どうやら、十四人の中に、不良と実直な男性が居て、ことあるごとに口論になっているらしい。


ずっとトラックで移動しているなら、ストレスも溜まって当然だ。


仁が回線を開けておくことについて二つ返事で了承したのも納得だ。


「どんな感じで住んでるのかな?」


『美沙はね、つうしんしゃって言うのに乗ってるの。てっぺんに大きなあんてなが付いてるの!』


たどたどしく説明するその声は、正に子供だ。


『でね、仁とね、りくが乗ってるの。』


「りく?」


『うん。運転しているおにーちゃんなの。おんがくが好きなおにーちゃん。仁と仲がいいの。』


「美沙ちゃんみたいな年の子はいるのかな?」


『ううん。でもね、あいりおねーちゃんは十四歳なんだよ。あとはみんなおとなの人なんだよ。』


「あいりおねーちゃんは優しい?」


『うん!』


美沙という子の女の子にも理解者がいるようで良かった。


そこに、美羽がやってきた。


「生存者と通信が繋がったと聞きましたが……。」


「ああ、はい。代わりますか?」


「ええ。お願いします。」


美羽と席を交代する。


「もしもし、私は清水美羽と言います。」


『みうおねーちゃん?』


ピクッ、と美羽の身体が跳ねる。


そしてゆっくりと、徹に部屋から出ていくように促した。


徹は怪訝に思いながらも部屋から出る。


それを確認すると、美里は通信を再開した。







「通信が繋がったって聞いたんスけど……。ん?」


なにやら声が聞こえてきた。


まるで、何かの歌のようだ。


アマチュア無線部という張り紙がしてあるドアを大樹が開ける。


そこには、とんでもない光景が広がっていた。


『~~~♪』


女の子の歌声と。


「わぁ~!凄いね!上手だね!」


……え?


果たして、この人物は美羽なのだろうか。


普段の冷静な表情は無く、母性を感じさせるそれはそれは純粋な笑顔で会話をしていた。


「あ、あの、美羽先輩……ッスよね?」


ビクッ、と美羽の身体が硬直すると、いきなり椅子から立ち上がった。


「美羽先輩……?」


美羽は大樹の横を通り抜けると、部屋の扉に鍵を掛けた。


「ミマシタネ……。」


殺気。


心臓が縮み上がりそうなほどの、圧倒的な殺意が、美羽の体から発散されていた。


「じ、自分、何も見てないッスよ!」


しかし、美羽はゆっくりと大樹に近づいてくる。


「ほ、本当ッスよ!ちょっ、ま……。」


体が壁にぶつかる。


行き止まりだ。


美羽の影が段々大きくなる。


「ワスレロ…………。」


「う、うわあああああああああああああああああああああ!!!」


大樹の叫び声が学校中に響き渡った。





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