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火葬と夢想

グラウンドに100体近くの死体が並んでいる。


表現し辛いくらいに壮観な光景だが、これでも八分の一にすぎないのだ。


そう思うと、この学校の規模の大きさを改めて感じさせられる。


「似てるな……。」


徹は思わず呟いてしまう。


昔、スイカを買った時のことを思い出したのだ。


母が自分の目の前でスイカをぱっくり割った時、何の加工もされていないのにもかかわらず、ピシッと種が一列に整列していた。


あの時は、種が並んでいる、と言って燥いだものだったが、今並んでいるのは死体で、燥ぐのはあまりに場違いだ。


どのくらい場違いかというと、映画祭で観客が『ブラボー!』と言って立ち上がる所で、会場全体に響く声で『わっしょい!』と神輿を担ぎながら叫ぶくらい場違いだ。


ポリタンクから流れる液体が、死体の服を湿らせていく。


鼻に付くような独特な匂いが、その液体が灯油であることを知らせてくれる。


今からこの死体を燃やすのだ。


「龍。もっと一杯かけた方がいいよ。レアとかミディアムとかは勘弁だからね。」


「解ってるって。俺は肉ならレア派だけどよ、ゾンビに関しては炭派なんだよ。」


そういってポリタンクを傾け、さらに灯油をかけていく。


もったいない気もするが、生焼けよりはよっぽど良い。


肉だって、生焼けが一番危ないと言うではないか。


関係ないが。


職員室の引き出しから持ってきたライターが着火するかどうかを確認し、灯油が全体にかかっていることを確認して、灯油に火を灯した。


見る見るうちに種の行列が火に呑まれていく。


まるで赤い、化け物の舌が人を舐め回すように、最初は小さかった炎が徐々に大きくなり、死体を焦がしていく。


「南無阿弥陀仏……。」


龍がそういいながら胸の前で十字を切る。


……大事なのは宗派ではなく、気持ちなんだろう。


パチッ、と火の粉が飛んできた。


人の燃え滓だと思うと触りたくないがそれを振り払う。






人は水分が多い。


よって完全に燃やすにはそれなりに火力が必要になる。


しかし、そんな施設も火力もないので、時間を掛けてゆっくり燃やすしかない。


となれば、やはりガソリンや灯油を得るのは必須だろう。


校庭に生えていた木の枝を切り取って棒状にしたものを、地面と死体の間に差し込んで、死体をひっくり返す。


既に黒焦げになってはいるもの、骨にはまだまだ程遠い。


この百体を燃やし切るのにもかなり時間がかかるだろう。


徹は顎に手を添えて、これからのことを考える。


一番安全な物資調達場所はどこか。


ショッピングモールはゾンビが多すぎるだろうし、略奪にあっているかもしれない。


他の避難所に行っても、当然物資は分けてはもらえないだろうし、そこで暮らすにしても、直に感染が起こるだろう。


なら、自分がこの学校に来る前に通ってきた商店街はどうか。


疎らにゾンビがうろついては居たものの、特に略奪があったような跡は見られなかった。


物資はある。だが、商店街は基本的に一本道だ。


挟まれれば生きて帰れない可能性が高い。


ここはまた皆から意見を聞かなければいけないかもしれない。


そして気になるのはあの赤い化け物だ。


どうやって生まれたのか、そして、どんな能力を持っているのか。


思わぬ隠し玉があるかもしれない。


縛られているが、何れ再生し、暴れだすかもしれない。


今焼いてしまえば楽だが、貴重な実験台ゆえに、殺すこともあまり選びたくない。


化け物の対処も深刻な問題ではある。


後は、音に反応しないゾンビだ。


何故音に反応しないのか解らない。もしかしたら、あの化け物みたいに突然変異したため、耳が聞こえなくなったのかもしれない。


最後に、食料の安定供給だ。


まず、畑は必要だ。


石臼が器材倉庫にあった気がするので、小麦を育てて、パンを作るのもいいかもしれない。


野菜も、作ればある程度自給できるだろう。


しかし、問題なのは肉だ。


肉ばかりは、畑で増やそうというわけにもいかない。


暫くは大豆で賄うしかないかもしれない。


だが、それも何時まで持つか……。


何処かから豚や牛を番で持ってきて、繁殖させてみるか、と半ば本気で思う。


となると、このグラウンドは牧場になるのか。


そう思うと、少し笑ってしまう。


生徒が運動していたグラウンドを動物が運動する場所に変えるなんて、何ともユーモア溢れる話だ。


でも、悪くは無いかもしれない。


グラウンドの砂を少し掘って、学校中の花壇の土と、ホームセンターか何処かから持ってきた土でグラウンドを覆い、農場兼牧場にしてみるというのも中々愉快な話だ。


そう思うと、草の青々とした匂いが体の中に取り入れられる感覚がしてくる。


残りの問題は水だ。


ゾンビは恐らく体液感染。


水の安定供給は川に頼るのがいいのだろうが、もし川にゾンビが浸かっていたら、水を飲んだ瞬間に全員ゾンビだ。


水際にバリケードでも張る他に方法は無いか。


巨大な音を鳴らし続けて、ゾンビを別の方向に引き寄せ続けるというのも無理のある話だ。


電気が止まるのももうすぐだろう。


とすれば、音楽機器による発音は出来なくなる。


よって、引き寄せられない。


……そういえば、病院には自家発電装置が付いているというのを聞いたことがある。


いや、そもそも太陽光発電だって立派な発電装置じゃないか。


パネルを付けて、発電機も取り付ければ、明かりぐらいは何とかなるかもしれない。


問題は山積みだが、少しウキウキしてきた。


そんな徹を嘲笑うかのように、パチッ、と音を立てて火の粉が飛んだ。

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