エスケープ・フロム・ザ・マンション1
「ど、どうしよう…。避難所ってどこだっけ……。」
僕は慌てて部屋中を駆け回る。
「こっからいちばん近い避難所って……やっぱ高校だよなぁ~~!」
頭を掻きながらリュックサックを担ぐ。
「取り敢えず、缶詰とか、冷凍食品とか持ってかないと……あ、飲み物もいっぱい持っとかないと。」
冷蔵庫の中身をすべて外に放り出しそうな勢いで漁り、リュックサックに放り込んでいく。
ドン!ドン!
ドアを叩く音がだんだん大きくなってきた。
破られそうな勢いだ。
「うわわわぁっ!?どどど、どうしよう!どうしよう!」
ふと目に入ったのはベッド。
「そ、そうだ。シーツでロープを作って、下の階に降りよう!」
急いでシーツをはがす。
そしてベランダの戸を開け、シーツの端を結び付ける。
ドンドンドンドンドン!
戸がミシミシいいはじめた。
もうもたない。
「ここ、六階なんだよなぁ~!」
冷たい風が体を包み込む。
落ちたら即死だろう。
「や、やっぱりやめようか……。」
ドォン!
「ひぃッ!急がないと!」
シーツを股に挟み込むようにしてゆっくりと下に降りようとする。
その直後、バァンと音がして、扉があいた。
その瞬間、僕の部屋が変人たちに埋め尽くされる。
「ひええ~~~!」
あまりの光景に手を放してしまった。
「お、落ちッ……!」
視界が逆転する。
だが、股でシーツを挟んでいたため、何とか落ちずに済んだ。
「ウゥゥゥウウアアアアああ……。」
上体を起こしかけた時、ベランダからこちらを覗いている顔と目があった。
今度のヤツは目がちゃんとついてる。
でも……でも!
「顔半分ないじゃんかぁ~~!」
頭蓋骨が見えている。
まるでゾンビみたいだ。
ズリズリと、不格好ながらも下に降りていく。
だが、ベランダから除く顔から目が離せない。
「なんなんだよ……ホントに!」
そうこうしている間に、下の階のベランダに辿り着いた。
これをあと三回繰り返さなくてはいけない。
「骨が折れそうだなぁ……。」
ベランダの戸を開ける。
「お邪魔しま~す……。」
ゆっくりと中に入る。
手にはサバイバルナイフを持っている。
「誰かいませんか~……?」
反応はない。
あの変人たちがいる気配もない。
「よっと……。」
取り敢えず、テーブルやら椅子やらを戸の前に積み上げ、バリケードを作る。
「さて、シーツシーツ……。」
それぞれの階でロープの代わりになるものを探さなくてはいけないというのも面倒ではある。
だが、命には変えられない。
襖で仕切られた寝室を開ける。
「ッ!!」
そこにあったものは、ここに住んでいたであろう家族の死体だった。
父親と思われる人物が握りしめた包丁は、深々と自分自身の心臓に突き刺さっている。
そして母親と、姉妹はその包丁で滅多刺しにされて死んでいた。
少し飛び出た目が僕を凝視する。
「うっ!おええぇぇ!うぼぉええええええ!」
あまりに凄惨な光景とその臭気に思わず吐いてしまった。
だが、そんな血にまみれたシーツも、ロープにしなければいけない。
口の中が酸っぱくなるが、何とかこらえてシーツを取る。
そしてそれをまたベランダにかけてゆっくりと下に降りていく。
ヒュウウウッ!
突風が吹き、左右に揺さぶられる。
「うわわわぁっ!?」
必死にしがみつき、なんとか耐えることができた。
ホッとして下の階のベランダに降りる。
「ウゥゥうううぅう……アアア。」
中に女性の変人がいて、こちらに迫ってきた。
だが、中にロープ代わりになるものを探しに行かないといけない。
「戦うしかないのか……?」
サバイバルナイフを構える。
変人がガラスを叩き始めた。
見る見るうちにひびが入る。
「こ、こっちからいってやるぞ!」
窓ガラスに思いっきり蹴りを入れる。
「ウェぇぇ………」
変人が後方に吹き飛ぶ。
だが、すぐに起き上った。
まるでゾンビみたいだ。
いや、ゾンビなのだろう。
「来るなら来い!ゾンビ野郎!……あ、野郎じゃないかな……。」
ゾンビが両手を前にしてこっちに歩いてくる。
「せ、正当防衛だぞ!てやぁっ!」
ナイフで腕を切りつける。
だが、全く効いていない。
「痛みを感じないのか!?」
あわててテーブルの反対側に移動する。
すると、ゾンビはテーブルを体で押しながら直進しようとしてきた。
「頭は悪いのか?」
いつまでもいつまでも、ただ我武者羅に。
白濁した目で進む姿はやはりゾンビそのものだ。
さほど大きなテーブルではないので、自分が思いっきり手を伸ばせば心臓を狙える。
「届け!」
サバイバルナイフを心臓めがけて突き刺す。
「アァ……?ウウゥゥえええぇぇ」
「効いてない!?」
つまり心臓は動いていないということか。
正にゾンビ。
ナイフを素早く抜いて、暫し考える。
(心臓以外の重要な個所……脳?)
まずは実践である。
ナイフで滅茶滅茶に顔面を切りつける。
だんだん顔がえぐれ、原形をとどめないのも担っていく。
血で持ち手が滑り始め、吐き気もこみあげてきた。
だが、ここは我慢だ。
「早く死ねよ!死ね死ね!」
だが、ここである事態に気付く。
(あれ?頭蓋骨ってナイフで切れるのか?)
切れる切れない以前に刃こぼれするか。
そこでナイフを持っている手を止め、まっすぐに構えて、首めがけて伸ばした。
ズブッ。
嫌な感触がし、ナイフが首に刺さる。
「そら!」
刺したナイフを斜め上にさらに押し込む。
すると、ゾンビがビクリと震えると、動かなくなった。
「やっぱり、脳が弱点か……いや、脊髄か…。多分両方だ。うんきっとそうに違いない。」
一人合点をしながら次のロープを探し始めるのだった……。