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ご飯を食べよう

そろそろ限界か、と巧は思う。


皆息が切れてきたようで、肩を上下させている。


体力の切れ目が集中力の切れ目だ。


「一度引き上げる。」


カーボン製の矢を引き抜きながら会議室まで後退しようとした、その時。


ジリリリリリ、とベルが耳を切り裂くように聞こえてきた。


「何かあったようだ。急ぐぞ。」


少し息を切らせながら会議室に辿り着く。


扉を開けると、赤い塊にナイフを振るっている怜と、倒れている大樹を囲むようにしている葉月と美羽の姿があった。


「何があった?大樹は無事か?」


怜が振るっていた手を止め、こちらに向く。


「こいつが上から降ってきたんですよ。」


「上?」


天井を見ると、天井には大きな穴が開いていた。


ビクッと赤い塊が体を震わせる。


「ああ、こいつ、まだ生きてるんで気をつけてください。」


何だろう、この違和感は。


確か、怜はもっとおどおどした性格だと記憶していたのだが。


もしかしたら、この化け物との戦いで一回り成長したのかもしれない。


それがいい方向に成長したのかはわからない。


「とりあえず、手足の腱を切って動けなくしてから縛り上げます。殺し方が解らないので。大樹は無事です。引っ掻かれていないので感染はしてないです。」


頷きながら部屋を見渡す。


一人足りない。


山下桜だ。


「桜は?」


「気分が悪くなったんでスタジオで寝てますよ。安蘇先輩も一緒です。」


「和馬が!?しまった!」


急いでスタジオに向かう。


アイツは獣と遜色のない男。


気分が悪くなっている女に何をするかは目に見えている。


そしてスタジオの扉を蹴破った。









「和馬先輩……。」


あくまで病弱な振りを忘れないように心掛ける。


一瞬だ。


何処かに咬みつけば、その瞬間この男は私の手下になる。


その後でゆっくりと食べればいい。


「大丈夫かい?顔色が悪いぞ~。」


和馬が一歩歩くごとに笑いを堪えられなくなる。


あと数歩。


「少し、辛くて……。」


わざと科を作って誘うようにする。


まるで、気難しい黒猫が甘く擦り寄ってくるかのように。


そして和馬はそんなことには到底気づかない。


和馬が一歩踏み出す。


今だ━━━。


私が飛び掛かる様に身を起こしたのと同時に、スタジオの扉が吹き飛んだ。


「和馬ぁぁぁぁッ!」


立っていた。


何がって鬼が。


「たたたたたた、たっちゃん!?どうした!?」


しどろもどろになった和馬に、巧の視線が突き刺さる。


「お前……桜に何をしようとした。」


「な、何もしてないしする気もねぇよ!なぁ、桜ちゃん。」


私はそっぽを向いた。


自分が飛び掛かろうとしていたのを、巧は少なからず目撃しているはずだ。


ならば、ここで襲われそうになっていたことにでもしておけば、逃げようとしていた風に見えるかもしれない。


「和馬……貴様……。」


殺気が頂点に達する。


「ちょ……俺は何も……。」


直後、巧の右ストレートが和馬の顔面に減り込んだ。








暫くすると、徹達がゾンビを運んできた。


見事に簀巻きにされたゾンビは、身を捩ることもできず、猿轡の間からくぐもった呻き声を出すだけだった。


真二が大きく頷き、自分の考えを肯定するようにする。


ゾンビの顔面は酷く食い荒らされていたため、誰かは定かではないが、恐らくこの中の誰も知らない人だろう。


少し廊下ですれ違った程度だと思われる。


「取り敢えず、こいつは給湯室に転がしておきます。えっと、じゃあ、怜が見張っててくれるかな?」


徹が聞くと、怜は大きく頷いた。


「あれ?安蘇先輩は?」


巧は無言で後ろを指差す。


「…………。」


壁にボロ雑巾がかかっているように見えたのはきっと気のせいなのだろう。そうに違いない。


大樹は部屋の隅に寝かされている。


「それじゃあ、取り敢えず昼食を取りますか。」


缶詰をそれぞれに配布するが、何だかんだ言っても、缶詰の消費量が早いように感じる。


少し切り詰めた方がいいかもしれない。


少なくとも、この学校内の掃討が終わったら会議をしなくてはいけないな、と思う。


自分たちは決して余裕がある状況ではないのだ。


それに缶詰の食事になると、どうしても喉が乾いてしまう。


飲み水の確保も重要なことの一つだろう。


「あの、ひとつ言っておきたいんですけど。」


怜が口を開いた。


怜が自分から話を始めるのは非常に珍しいが、怜が話す理由なんて一つしか見当たらない。


「あのカエルのこと?」


「そう。で、もしかしたらこのゾンビが蔓延した元は狂犬病じゃないのかなって思ったんだ。」


「狂犬病、か……。」


「水を見た途端に痙攣して動かなくなったから。恐風症状は無かったみたいだけど。もしかしたら神経が通ってないのかもしれないんだけどね。」


「それじゃあ、ゾンビはどうなるんだよ。」


誠治がむくれて答える。


本人は別にむくれてはいないのだろうが、その口調と鋭い目から、そんな印象を受ける。


「多分ですけど、目が白濁してるからだと思います。」


「目?水に何の関係があるんだよ。」


「恐水症状っていうのは、水が怖いんじゃなくて、水が光を乱反射するから怖いらしいんです。だから、目が見えてないゾンビには意味がないのかもしれません。」


「それも、実験でわかることだ。」


真二が眼鏡の位置を正しながら言う。


実に御尤もな意見だ。


しかし、人が説明しているときに遮るのはどうだろうか。


怜は少し不満を覚えた。

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