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先を見据えるということ

「ん……。」


龍は目を覚ます。


手元の携帯を見ると、時刻は五時半。


冬が近いからか、かなり暗い。


夜と見紛うくらいだ。


体に力を入れて伸びをした後、息を吐きながら体を弛緩させる。


隣を見ると、怜がぐっすりと寝ていた。


少し早く起きすぎたか。


その時、放送室の明かりがついていることに気付いた。


誰かが見張りをしているのか。


気になったので覗くことにした。






「あ、龍。起きたんだ。」


徹がスマホと睨めっこをしていた。


「あれ?そのスマホって…。」


どこかで見覚えがあるスマホだ。


「これ?怜のを借りたんだ。」


「何してるんだ?」


スマホの画面を覗くと、『味噌の作り方』というページを見ているようだった。


「味噌?」


「うん。何時ネットが使えなくなるか分からないからね。いつも使う物で作り方が解らない物は今のうちに調べとかないと。」


そういう徹の前には、シャーペンとルーズリーフが十枚ほどあり、丁寧に内容がまとめられていた。


やはり徹は常人ではないのだろう、と龍は思う。


長期戦になることを予期して様々な物の作り方を調べておくというのは中々思いつかない。


それも、この状況下で思い付いたのなら相当頭の回転が速いのだろう。


最初はどこか抜けている感じの印象を受けたが、実はそうでもないらしい。


「しかし、こんなに仕事して、ちゃんと寝てるのかよ?」


「まぁ、見張りがてらだったし、他の人が見張ってるときは仮眠取ってたから寝不足ではないと思うよ。」


「……自衛隊とか警察は壊滅したのか?」


「ん?」


「いや、昨日はそれなりに聞こえてた銃声とかもあんまり聞こえないし。」


「まぁ、ゾンビの軍団相手にあんな装備で戦えって方が無理があるだろうしね。多分今頃は、むやみに逃げ回って咬まれたゾンビと、家に引きこもって難を逃れてるけど時間の問題っていう人が凌ぎを削ってるだろうね。」


「学校の掃除が終わったら町で武器を集める方がいいかもしれないな。」


「んー。あんな拳銃でも無いよりはましか。」


「いや、案外特殊部隊とかも居たかもしれねぇし、武器を積んだ装甲車もあるかもしれない。ま、何にせよ食料確保のためには、絶対に行かないとだな。」


今ここにある食料でこの冬を越すのは難しい。


徹の前にあるルーズリーフの束には、農業のやり方の項目もあったようだが、ここではビニールハウスなどの設備がないため、少なくとも今年の冬は農業が出来ないだろう。


水は、学校の貯水タンクの水と、自動販売機の飲み物が無くなった場合、学校の裏手にある川から汲む事になると思うが、感染者が川に入ると不味いことになる。


全員感染してお陀仏だ。


となると、川にバリケードを張り巡らさないといけない。


食料と飲料水の定期的な確保が当面の目標となる。


それと、必要なものと言ったら灯油か。


この学校は平成だというのにまだ煙突ストーブを使っているため、灯油が必要になる。


衛生面においても、感染者の焼却などで使うだろうから、在るに越したことはない。


問題は山積みだ。


「手伝うぜ。」


ドカッとパイプ椅子に座った龍は、自分のスマホで『手製爆弾の作り方』を調べる。


こういった武器も後々必要になってくるはずだ。


放送室には、シャーペンを奔らせる音だけが聞こえていた。





午前七時。


会議室に全員が揃い、作戦を話し合う。


「取り敢えず、掃討を続けよう。掃討班はそのまま。物資調達班は掃討に加わろうか。」


すると、真二が口を開く。


「サンプルを回収しよう。」


「サンプル?」


「ああ。我々はまだ敵を知らなさすぎる。ゾンビを数体、縛るか何かして確保すべきではないだろうか。」


もっともな意見だ。


だが、ここで問題が生じる。


皆が同じ不安を抱いたようなので、徹が全員の思っているであろうことを代表して言う。


「つまり、この学校の生徒のゾンビを実験台にするということですか?」


「そうだ。薬品類が効くのかどうかや、どこが弱点か、また有効な対処法を知るためにもやらなければならない。」


その場に居る全員が押し黙る。


いくらゾンビとはいえ、友達や知人を実験台にすることが耐えられるだろうか。


昨日までは普通に生きていた人々を自分たちが実験台にして良いのだろうか。


殺して楽にしてやるべきではないのか。


ここにきて、多くの者に良心的な呵責が伸し掛かる。


しかし、いずれやらなければならないことは確かだ。


ゾンビの弱点を知ることはもちろん、もっと違う習性も明らかになる可能性がある。


どうすべきだろうか。


決断を下さなければならない。


今は悩むことは、周りの不安を煽るだけだ。


「……そうしよう。そのかわり、ここに居る誰ともなるべく面識の無い人をにしよう。皆もそれでいい?」


徹が聞くと、それぞれ複雑な表情をしながらも賛同してくれた。


今この状況で欲しい物は良心ではなく、生き残るためにできることをやる行動力だ。


例え、後に罪悪感に苛まれることになっても、だ。

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