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グッドナイト

夕食が終わり、それぞれが布団を敷いて寝る準備をする。


男子と女子の間には仕切りの代わりに、机を並べて毛布をかぶせてある。


そして会議室の中央で二人、腕を組んでいるものがいた。


その表情は真剣そのもの。


まるで合戦に行くかのような気迫さえ漂わせている。


「美羽ちゃんと佑季ちゃんはスレンダー。桜ちゃんはバランス型。葉月ちゃんと小夜ちゃんはグラマー。どれも乙なものよ。」


「ウス。」


「女子は会議室横の給湯室で着替えることになるだろう。さすがに仕切りがあるとはいえ男子のいる部屋で着替えるとは考えにくいし、反対側の放送室は徹が見張りで使っているからな。」


「じゃあ、行くッスか?」


「そうだな。早くしないとショータイムがおわっちまう。」


二人は立ち上がり、会議室から立ち去る。


楽園を求めて………。







「着替えってこれ……?」


部屋で着替えを始めた女子。


といっても、もともと災害用に蓄えられていたためか、量は在ったものの女物のパンツは無く、男物のトランクスとシャツがあるだけだった。


「着替えって言われても……それにお風呂にも入れないし。」


葉月がぼやく。


お風呂に入れないというのは女子にとっては死活問題で、ゾンビに襲われた時よりも死にそうな顔をしていた。


一刻も早くちゃんとした着替えが欲しいものだ。


「わぁーー……。」


桜が感嘆とも諦念ともつかない声を上げる。


「ん?どうかしたか?」


小夜が聞く。


そこで小夜は桜が自分の胸と小夜の胸を見比べていることに気付く。


「ああ、これか。」


「うー……。羨ましいです。」


悔しそうな顔をしている桜がおかしく、小夜は少し笑う。


こうしているとまるでゾンビが溢れ返っているなんて考えられない。


「葉月ちゃんも凄いし……。」


「でも、桜ちゃんの方がバランス取れてて良いと思うんだけどな……。こうだと、男子からの視線も凄いし。」


「う~ん。でも、生き残ってる男子も、そういう目で見てくるって感じる?」


「まぁ、今の人たちは無いかな。まぁ、和馬先輩は例外だけど。」


「あの人ってなんか残念なイケメンって感じだもんね。」


そして話がどんどん盛り上がっていく様子を見ていた佑季と美羽。


「…………。」


「…………。」


二人とも無言で見つめあうと、ガシッとお互いの手を掴んだ。


ここに強固な結束が誕生したのは間違いないだろう。








「いいか、大樹。」


「ウス。」


「この通気口を通っていくんだが……。」


「通気口なんて通れるんスか?」


「ああ、この学校の通気口はかなり広いし通れる。給湯室の天井が低かったから、しゃがめる位のスペースはあるだろう。」


そういうと、机を組んで通気口のふたを開ける。


通気口に頭を突っ込むと、左右に明かりが二つ見える。


右側が放送室だから、目指すのは左だ。


大樹に手で合図をすると、そのままスルスルと通気口の中に入っていく。


匍匐前進の体勢で進んでいくと、声が聞こえ始める。


女子の声だ。


素早く通気口の反対側に回り込むと、通気口を挟んで大樹と顔を突き合わせる。


予想通り、しゃがむ位の隙間はあった。


「よし、覗くぞ。」


「ウス。」


小声でやり取りをして通気口を覗き込む。


その瞬間。


ガコン、と音がして通気口が開いた。


「え?」


間の抜けた声を大樹と和馬が発した時には、ごつごつとした手が二人の顔面を掴み、部屋の中に引きずりいれていた。


「うわわぁ!?」


二人が地面に激突する。


「いてて……。」


顔を上げると、そこに立っていたのは巧だった。


「た、たっちゃん……?」


正確にいうと、そこに立っていたのは巧ではなかった。


堂々と仁王立ちしている姿は眼前に立つものを残らず叩き潰してしまう様なオーラを放ち、顔は阿修羅のようになっている。


「お前ら……。覗きとはいい趣味だな。」


「ひ、ひぇぇっ!?」


大樹が腰を抜かした。


「な、なんで?確かに声はこっちから……。そもそもなんで覗くなんて解って……。」


ゴトッ、という音と共に、黒い物体が地面に落ちる。


和馬の携帯だ。


「俺の携帯で会話を……。」


「長い付き合いだ。お前の考えていることなど手に取るようにわかる。何か、言い残すことは……。」


ナ、イ、カ━━━?


恐らく、そこに立っているのが感情を持たぬゾンビだったとしても、恐怖に慄いたか、生きることを諦めただろう。


だが、和馬も男だ。


自分の信念を曲げるつもりはない。


いわば、これは男同士の譲れぬ思いの衝突なのだ。


例え自分の身が灰燼に帰すとしても、これだけは言わないといけない。


「俺はッ……純粋にッ……女の子の裸が見たかったんだぁーーッ!」







まさか、こんな方法を取るとは思っていなかった。


そう徹は思う。


実は、放送室は厳密にいうと一部屋ではない。


放送をするための機器がある部屋と、学校祭などのラジオの放送用に使うスタジオがある。


徹は放送機器のある部屋に居て、女子はスタジオにいる。


スタジオは防音で、カーテンを閉めればこちらから覗くことは出来ない。


『女の子の裸が見たかったんだぁーーッ!』


覗きに命を懸けた男の魂の叫びを聞きながら、徹は音楽の音量を上げた。


「……グッドナイト。」



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