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男の画策

会議室の扉が開き、ドヤドヤと人が入ってきた。


物資調達班だ。


どうやら成功したようで、怜はホッとする。


徹は物資を分けておくように指示すると、放送で掃討班に物資の回収が終わったことを伝えた。


掃討班も、ある程度区切りが付いたら帰ってくるだろう。


僕は背凭れに全体重を預け、ふうっ、と息を吐く。


そこでようやく自分が緊張していたことに気付いた。


確かに、自分がへたれて動かなかったことにより誰かが死んでしまったら良い夢は見れないだろう。


「とりあえず、机と椅子を掃けて、スペースを作りましょう。」


徹の指示で僕らは机といすを片付け始める。


徹は凄い、と心から思った。


上級生が居て、しかも自分の指示が人の命に関わる事であっても的確に指示する。


しかも、それぞれの意見を取り入れながら、だ。


少し前までは名前ぐらいしか知らなかった彼のことを、いつの間にか誇りに思っていた。


そして諦めも。


自分は到底ああいう風に離れないという諦めだ。


『世の中には二種類の人間がいる。』という例えをよく聞く。


そして、その後に続く言葉は聞いた回数分違うのだが、僕はこう思う。


『使える人間』と『使えない人間』だ。


使える人間というのは、きっと僕の言うような人間を言うのだろう。


勿論、それは僕が優秀という意味じゃない。


この場合の『使える』は、社会の歯車として『使える』だ。


きっと僕はこのまま勉強して、大学に行って、会社に入って、そこそこの地位について老後を迎えていた。


それが正しいのだろう。


自分が歯車ということにすら気づかずに、若しくは気づいてもそれをどうにかしようともせず、歯車としての生を全うするのが社会にとっての『使える人間』。


でも、徹は違う。


彼はきっと『使えない人間』なんだ。


常識に囚われず、その場にあるものと、自らのアイデア、周りの意見を全て取り入れ、誰も想像もつかないことを手品のように編み出していく。


きっと彼のこの才能は、社会においては発揮されないし、発揮しても疎まれるだけかもしれない。


でも、今この非常事態、歯車が残らず砕け散って世界でこそ、彼は『使えない』を『使える』に変えることができるんだ。


もしかしたら、僕と彼は似ているようで全く違う人種なのかもしれない。










掃討班が帰ってきたので、全員で夕食を摂ることにする。


皆昼飯をまともに食べていないことと、明日も重労働をするということを加味して、全員に配布する食料は多めにした。


皆それとなく打ち解けてきているようで、徹は一先ず安心する。


「えっと、では。」


徹が口を開くと、話し声が消え、静寂が部屋を包む。


ちなみに、ゾンビはこの会議室の真反対の方で音楽を鳴らし続けているため寄ってこない。


「見張りを決めたいと思います。」


「見張り?」


「はい、見張りです。今からここで雑魚寝になるんですが……あ、もちろん女性は女性で固まりますので、安心して頂いて大丈夫です。」


皆が噴き出す。


良い雰囲気だ。


「夜中、何らかの事情で音楽が止まったり、ゾンビが来たりした時にやはり見張りが必要かなと思います。なので。」


徹はホワイトボードに時間を書き込んでいく。


「このホワイトボードに、時間を書いてもらいたいです。あと、一応男子だけで回るようにはしてるんですけど、もし見張りやりたい人が居たら女性でも結構です。では、食事を続けてください。」


徹が夕食を再び食べだすと、大樹が声をかけてくる。


「おい、徹?」


「ん?何?」


「ちょいちょい……。」


大樹が徹を引っ張る。


「おい、何だよ?」


「いいからいいから。」


大樹に手を引っ張られて、和馬の所まで連れてこられた。


「お、徹もか!同志が増えて俺は嬉しいぜ!」


「同志?」


徹は首を傾げる。


だが、どこかにやけ顔の大樹と、悪い笑みが浮かんでいる和馬先輩を見て、どうやら面倒くさいことに巻き込まれそうな予感がし始めた。


「ほら、女子着替えるだろ?」


和馬がクイクイと腕を動かす。


まるで、察しろと言わんばかりだ。


「あー。なんとなく解りました。」


というより、この二人の頭はピンクに染まっているから、そうとしか考えられない。


覗きだ。


「僕はパスですよ。」


当然だ。


この期に及んでそんな行為をすれば、信頼はガタ落ちになるし、これ以上変なことをして美羽からの視線が冷たくなるのは耐えられない。


「マジかよ!お前それでも男か?」


「何で僕が軟弱者みたいに言われないといけないんだ。とにかく、やめておいた方が身の為だと思うよ。」


徹はそう言い残してホワイトボードに自分の名前を書き入れ、見張りに行った。


果たして彼等は覗くのだろうか。


いや、きっと覗くだろう。




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