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閉まらずの門

階段をゆっくり降りて、玄関に出る。


玄関にもゾンビは当然いる。


だが、気をつけなければならないのはゾンビに限らない。


例えば、床についた血。


油分の多い血液はヌルヌルしていて滑りやすい。


滑って転んだら当然音が出る。


この任務は門につくまでの隠密性も重要だ。


全員前屈みになって音を出さないように歩く。


男三人がアヒルの親子のように並んで歩く姿はかなり滑稽だが、やっている当人たちは生きるか死ぬかの事態なので大真面目だ。


そしてその滑稽な恰好のまま門に辿り着く。


大樹と誠治が門に手を掛け、頷く。


巧も構えを取ると、頷く。


二人の手に力が籠もり、門が閉まり始める。


ズズズズズズズ……。


ゆっくりと門が閉まっていく。


そしてその音につられてゾンビが寄ってきた。


「き、来たッスよ、先輩!」


大樹が慌てて言うが、巧は至って無表情だ。


巧が深呼吸をする。


出来る限り深く、二度。


「ふんっ!」


自らの右手を、ゾンビの胸元へ。


「アァァぁぁあ……」


ゾンビは後ろに数m吹き飛ばされる。


「はぁっ!せいっ!」


気合の籠もった掛け声とともに次々とゾンビが倒されていく。


「すげぇ……。」


誠治さえもが驚いた。


一点の曇りもなく、ゾンビを倒していく巧。


その磨き上げられた動きは少しの無駄もなく、ゾンビの身体を吹き飛ばす。


まるで完成された演舞。


究極の芸術。


そんな印象を受けるくらいに完璧で魅力的であった。


しかし、ゾンビの数が減ることはない。寧ろ増えている。


「まだ閉まらないのか!」


巧がゾンビの群れの中から聞いてくる。


「もう少しッス!」


大樹が喘ぎ喘ぎ答える。


門はすでに半分近く閉まっている。


この門が閉じられれば、間違いなくゾンビの侵入は無くなるだろう。


だが、ここで問題が発生する。


「来やがったッ!」


そう。


校内側だけではなく、学校に面している道路からもゾンビが来たのだ。


作業を中断して倒さざるを得ない。


「やっぱり三人っていうのは無茶だったんじゃねぇのか!?クソったれ!」


誠治がゾンビの身体をナイフで裂き、その傷を狙って蹴り飛ばした。


「おおおあああああああああッ!!」


大樹も雄叫びを上げながら金属バットを振り回した。


空振りも多いものの、その馬鹿力故に、ゾンビの頭に当たればほぼ例外なくホームランを記録した。


「このままじゃ不味いッスよ!」


わらわらとゾンビが集まってくる。


まるでゴキブリのようだ。


倒しても倒しても何処からか湧いてくる。


ゴキブリは一匹見たら三十匹はいると思えと聞いたことがあるが、五十体は居そうな感じだ。


三対五十。


しかも、際限なく出てくる。


「扉を閉める作業に専念しろ!」


巧はそう指示を出すと、防犯ブザーを取り出し、郊外に向かって放り投げた。


門の外側のゾンビはそちらに引き寄せられる。


しかし、この方法では校内からの進撃を防ぐ巧に多大な負担がかかることになる。


「急ぐぞ、ラガーマン!」


誠治が声をかける。


大樹の体格からすると、確かにバスケットマンというよりはラガーマンだ。


正に言い得て妙というやつだろう。


「自分はバスケットマンッスよォ!」


そういいながら足にできる限り力を入れて門を押すその姿。


どこからどう見てもスクラムを組んで対抗するラガーマンである。









「閉まったッス!」


重厚な門が閉まり、光さえも通さない壁と化す。


鍵を閉めて動かないことを確認し、後ろに向き直る。


玄関と門の間に蠢く死者たち。


両手を突き出して、少しでも早く獲物を喰らおうとする貪欲な亡者の群れ。


「いいか、全力で走るぞ。ゾンビにはあまり構うな。必要最低限だけ相手をするんだ。」


巧がいうと、大樹が大きく頷く。


大樹は最初からかなり怯えていたし、自分自身にかかっている重圧も彼を苦しめていたのだろう。


なるべく大きく頷くことによって、恐怖を和らげようとしていたのかもしれない。


それに気づいた巧は、努めて冷静に、大樹に語りかけた。


「怖いか?」


ただ、それだけ。


しかし、その言葉を聞いた大樹は、迷子の子供が母親を見つけた時のように、または、懺悔室で神からの許しを得た時のような顔をして頷いた。


「なんていうか、そのー……ノリで来ちゃったところはあるんスよね……ハハハ。」


大樹が頭を掻きながら答える。


確かに女の前でよい格好をしたいと思ったのは分からないでもないが、命の駆け引きをするときにそういう理由で戦いに行くというのはどうだろうか。


それが子供というものかもしれない。


巧は少し呆れながらも大樹のフォローに入る。


だが、どういう言葉を掛ければいいのかがわからない。


少しの間悩んでから、ゆっくりと言った。


「もう無理だと思ったら俺を呼べ。何とかしてやる。」


何とも投げ遣りな一言であった。


それでも、大樹の心には深く沁みた。


(めちゃくちゃカッコいいッス……。あれッスか?これが漢って奴ッスか!?)


一人で感動する大樹であった。

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