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生存者の集会

会議室に、恐らくこの学校の生存者全員が集まった。


徹は少しわざとらしく咳払いをすると、全員の注目を引いた。


「皆さん揃ったようですので、話を始めます。」


徹の声に、会議室内がしんと静まり返る。


静寂とはいえない。


廊下からロックの音楽が聞こえているからだ。


だが、それぞれが浮かべている緊張した面持ちはこの会議室から徹の発する声以外の音を吹き飛ばすのには十分だった。


「改めて、こんにちは。僕は一年四組の冴島徹です。」


ぺこりと頭を下げる。


その様子を見て頭を下げる者も居た。


だが、殆どの者は、徹が次に喋る言葉が気にかかり、社交辞令を忘れてしまっているようだった。


だから。


「えっと、取り敢えず自己紹介しましょうか?」


徹の何処か間抜けな声でその場に居たものの殆どが引っ繰り返った。


「どうしたんですか?」


徹が訝しげに引っ繰り返った面々を見る。


「ま、まぁ大事なことだよな、うん。」


大樹がそう言って椅子に座り直す。


他の者もそれに習った。


「では始めましょうか?……大樹から時計回りで。」


その提案に異論が出るわけもなかった。


大樹が立ち上がる。


「こんちはッス。一年四組、バスケ部の太田大樹ッス。よろしくッス。」


次に美羽が立ち上がる。


「……二年五組、清水美羽です。以後お見知りおきを。」


あなたはどこかの令嬢なのだろうか?


きっと誰もが思ったであろう疑問が徹の頭を遮る。


が、口には出さない。


出したらまたあの蔑むような目で見られるに決まっている。


そして僕はそれを甘受する類の変態ではないのだ。


そう思いながら自己紹介の内容をホワイトボードに書き連ねていく。










「…………よし、終わった。」


そう呟くと、ホワイトボードを全員の前へ移動させる。


『三年五組:荘田真二


 三年四組:拝賀小夜 拝賀純


 三年二組:藤堂巧 安蘇和馬


 二年五組:清水美羽 三好佑季


 二年三組:本間翼


 二年二組:本多誠治


 一年四組:冴島徹 太田大樹 山下桜 


 一年三組:朝霧葉月 鎌田龍 島浦怜』


徹はペンのキャップを取ると、口を開いた。


「では、今から会議をしたいと思います。まず第一に行わなければならないのはこの校舎内のゾンビの排除だと思っています。そのためには、まず外からゾンビが入って来ないようにしなければいけません。」


そこまで言うと、一旦区切ってホワイトボードに校舎の見取り図を描く。


所々歪んでいたりしていて、本来の形とは似ても似つかないが、大体は分かる。


「この門をしっかり閉じないといけません。僕がここに来るときに閉めようとしましたが、一人では閉められませんでした。門のカギは取ってきたので、鍵は心配しなくていいです。まず、ここの門を閉める人が三人ほど欲しいと思います。あまり多すぎると、それこそゾンビを集めてしまうので三人程度がいいかと。」


「三人か…………。」


和馬が顎に手をやり、考え込む。


当然、門を閉めるという作業には音が出る。


つまり、門を閉め終わるまでの間はゾンビを引き付け続ける羽目になる。


しかし、町はこんな惨状だ。


何時、何処で電線が異常をきたしたりして停電するとも限らない。


停電してしまえば、ゾンビを引き付ける音楽が鳴らなくなって、門に集まってくるだろう。


如何に迅速に、そして静かに作業を進めるかが、この係のポイントになってくる。


となると、力のある者が二人、多数のゾンビを一定時間相手することができる戦闘力がある者が一名欲しい。


「だったら、俺が行った方がいいか?」


ずっと腕組みをしていた巧が口を開く。


恐らくこのメンバーの中ではもっとも戦闘力が高く、体力もあるだろう。


「そうですね、お願いします。あとは二人ですが、大樹はどう?」


力持ちという点においては、大樹も中々使えると思う。


大樹の方をうかがう。


すると、彼の肩が異常なほどビクッと動いた。


「お、俺はやめとくわ……。」


斜め上を向いて口笛を吹き始める。


突っ込んで欲しいのか欲しくないのか良く解らない奴だ。


しかし、当の本人が嫌と言っているのなら仕方がない。


徹が別の人に頼もうとすると、美羽が手を上げた。


「えっと、清水先輩?」


美羽が立ち上がり、大樹の方を見る。


「私は、太田君が良いと思います。この中では今欲しい人材に最も近いと思いますので。」


それは間違いない。


だが、本人が嫌と言っている以上……。


「自分がやるッス。」


(大樹……目がハートになってしまってる……。)


最早何も言うまい。


いや、言えない。


「ということで、最後の一人は……。」


徹がざっとここに居るメンバーを見渡す。


残っているメンバーの中で力が強そうなのは、誠治か。


「本多先輩。お願いできますか?」


「あァ!?」


最期まで言い終わるかどうか解らない内に返事が返ってきた。


三白眼が徹を捉えて逃がさない。


(怖い怖い怖い怖い怖いッ!!!)


あまりの怖さに腰が抜けそうになる。


だが、翼が助け舟を出してくれた。


「誠治君、頼むよ……。」


「…………チッ。」


誠治が椅子に深く座り直し、腕と足を組んで瞑目する。


これは了解のサインなのだろうか。


戸惑っていると、翼がOKサインを出してくれた。


「では、その三人でお願いします。後の方は会議室で待機してください。」


巧、大樹、誠治が立ち上がる。


「で、武器は無いのか?」


誠治が全員に向かって言う。


「そうですね、皆さん、持ってる武器とか食料とかをテーブルの上に分けておいてください。」


荷物の並べられたテーブルか大樹は金属バットを、誠治はナイフを選択した。


どうやら巧は徒手空拳のようだ。


体を解し始めている。


「よし、行くぞ。」


自然と巧がリーダーになり、三人は会議室を去った。


一体どう転ぶかはわからないが、自分たちの命運は彼らが握っているのだ。


そう思うと、無事を祈らずにはいられなかった。







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