17.エルスケン 「セーヌ左岸の恋」 に思う
エルスケン(Ed van der Elsken)の『セーヌ左岸の恋』という写真集の前書きを、写真家の篠山紀信さんが書かれていました。
その当時、たまたまそのことを会社の年上の人に話しましたら、「彼(篠山紀信)も昔はいい写真を撮っていたのに・・・。」ということを言っていました。「じゃあ、今はいい写真を撮ってないの?」って突っ込みも入れたかったのですが、彼女はどうやら『Santa Fe』のことを言いたいらしかったのです。ただねぇ、藤田嗣治のことを[ふじたつぐじ]なんて発音していたような人でしたからね、彼女の感性たるもの、いかなるものかはわかりませんがね。
私はこの写真集にとても感銘を受けて、かつてフランス旅行へ行った頃には心のバイブルに近い物ともなっていた訳ですよ。他のサンジェルマン・デ・プレ(Quartier Saint-Germain-des-Prés)に関する本を読んだりもしましたし、実際にサンジェルマン・デ・プレを歩いた時の感動といったらなかったですよ。(もちろん、写真集の時代よりもかなり後で写真の人々のファッションもかなり変わってましたけどね。あたりまえですね。)道を歩いている人、全部がイイ人に見えました。そしてその時、実際にイイ人にしか会いませんでしたよ。ホント、思い込みってすごいことです。
それが、後ほどになって、フランス人にもその写真を薦めてみたら、「悪くはないけど、ありふれてる。」って意見なんですね。逆に彼が薦める日本人映画には、実際には中国人が主役で、色遣いも少しも日本っぽくなくて少々興ざめしてしまいました。やっぱり今でも、西洋人にとっては中国も韓国も日本もアジアの国ってことで一括りみたいです。背景の色とか、例えば看板とか、洋服の色って絶対的に違うんですけどね。
まぁ、いつも思うことですけど、「芸術の域」ってことごとく人の主観が入るから、いいか悪いかなんてあんまりあてにならないと思います。それに今なんて如実に、世間でいう「いいもの」って、売れればいいってことになってしまっていますでしょ。最近の市場は、B級品(またはそれ以下)を、B級の人間に騙して大量に売っているって話ですから、私たちはもっと自分の五感(あるいは六感)をフル稼働させてよいものを見極める必要があるのかもしれないですね。何も、金持ちだけがA級品の人間って訳でもないし、A級品を見極める感性を持っているとは限りませんから。芸術は一部のさもしい金持ちの為の稼ぐための道具でもないと思います。感じる心は誰にも止められません。それともみんなそろそろ気付いてきているのかも。だから、ボカロに託して自分の声を発信しているのではないですか。売れてしまった人、日本の薄黒いマーケットに喰われないでくださいね。過去にも、売れてしまって面白くなくなってしまったアーティスト、いるでしょ。
ただ、普段からよいものに触れるという気持ちは大切なことかもしれません。質屋の跡取りとなる人は幼い頃から良いものに触れ、良いものに接していることから、親の代を継ぐまでに目を肥やしていくと聞いたことがあります。感性を豊かにするには時間がかかるものです。フランスの子どもたちは小さい頃から美術館で本物の絵画を見せられているし(フランスのいくつもの美術館内で、幼稚園児みたいな小さい子どもたちが先生に引率されているのを何度も見たことがありますし)、年に何度かシェフに来てもらって高級料理を学校で食する授業もあると以前にテレビで見たことがあります。(どれぐらいの数の小学校が、どれぐらいの頻度なのかは、機会があったら調べてみようとは思います。)
まぁ、特に絵画やお料理に限らず、私たち日本人も幼き頃から良質なマンガという文化に触れて成長してこれたので、これも素晴らしいことですね。
日本の素晴らしい文化、芸術がわからないおじさまたちが政治を司っているというのですから、どうも芸術方面にお金が動かないってのは仕方がないと思わざるを得ないのでしょうか。
感性を構築するのには時間がかかるものなのです。一時間くらい予習をしたって敵うものではないのです。種をまいてすぐに収穫ができる訳ではないのです。目先の美味しい所だけもってイキヤガッテ。
未成年者の美術館、博物館、コンサートをただにしろ。映画鑑賞代高すぎ!
映画代が高すぎるから、家でDVDとかYouTubeに走って引きこもるんだ。
映画館のあの大画面の迫力を子どもに体験させろ!
とにかく、「クール・ジャパン」などと持ち上げるだけ持ち上げて、過労死させるな。
残業代払え。見えないフリをするな。目の前にある本当の問題に本気で取り組め。
私は知っている。何もやらない奴に限って「頑張れ、頑張れ」って余裕こいてジュース片手に隣で旗を振っているだけだってことを。
お前が働け!
・・・仮に私が旗を振る側になったら、私も何もしなくなるのでしょうか。
人間とは実に脆弱なものです。