クロのお出かけ、やっとこさ儀式
「さあ、着きましたね」
儀式会場は穴蔵の様なつくりだった。洞窟に入るとすぐに、下へ降りる階段がある。その奥にクロが立つ舞台があり、その舞台の周囲を掘り下げた半円形の穴に生贄が入っている。
入り口はひとつ。執事もしくはクロ自身の脱出魔法でしか、外へ出る方法はない。
中は青い炎のろうそくが、静かに灯っている。魔力の流れを忠実に感じて動くので、下級のモンスターでも魔力吸収を理解することができる。そこでクロが強くなる様子を見て、モンスター達は喜びを感じるようにできているのだった。
儀式を行うにあたって、あらかじめ吸収源となる人間たちは弱らせてある。心身共に健全な内は、吸収する際に抵抗が強いからだ。
しかし弱すぎると、魂も弱くなってしまう。そもそも死んでしまっては、ゾンビとして配下にするしかなくなる。ゾンビの護衛が増えるのは悪いことではないが、まずはクロの魔力を上昇させないと、直属で持てる部下は増えない。
執事はそこのさじ加減も読み、4日前に生贄をさらった。針の森にある儀式会場に収容し、そこから食糧を一切与えていない。死にそう、という絶望の頃合いがちょうど良いのが今日だった。
会場に入り舞台の裏へ着くと、クロは儀式の準備に入った。職業柄、人前に出る時には身だしなみを確認するのが常である。何回目かの儀式ということもあり、今回侍女はついてきていない。
執事も、最低限の手伝いをするのみだ。いなくなる人間の前ということもあるので、クロの成長の為に支度をやらせてみろとの、大魔王ブラックの言葉であった。
「ええと、原稿原稿」
ドレスのポケットをごそごそと探し、クロは畳んだ紙を取り出した。大魔王ブラックの達筆がしたためられている。
ああ見えて、子どもの面倒見が良いんですよねえ。
執事は原稿を盗み見てふっと笑う。緊張するであろうクロの為に、読みやすいよう大きな文字で書かれている。難しい文字には分かりやすくルビがふられ、クロには意味も分からないであろう単語は使わないように構成されているようだ。実に細やかな気の配りようである。
「クロさま、そろそろ行きましょうか」
「うん」
彼女は一息つく。そして舞台上へ上がっていった。
クロの緊張した顔は、仮面で見えない。これから出す声も、震えは仮面が隠してくれるだろう。
生贄たちには、怪しく動く三角帽子と、華奢な身体、魔力にはためく黒いドレス。そして、嬉しそうに蠢く仮面の黒い蛙ばかりが目に入っていた。
あちこちで絶望のうめき声が響き渡る。善き側に祈る呟きもあった。
瞬くろうそくの火が、一瞬揺らぐ。
大魔王にアドバイスされたように、クロは心持ち低い声で演説を始めた。
「君たちのしごとは、民からいけにえとなった。
喜ぶがいい。君たちは、私の魔力となる。
くろいこのやみへ心を受け渡すがいい。
ただあるのは、やすらぎだけ。
だが私はひとではない。魔女である。
しかばねを統べる魔女のやみは、死である」
びりびりと三角帽子が震える。リンゴ様のおまじないかな?クロは頭の片隅でそんな事を考える。
「くるしみの生をときはなつ、この魔女の名は……」
突如、三角帽子が彼女の思惑とは全く別に、入り口を指し示した。あまりにも激しく動くので頭からずり落ちそうになり、クロは帽子に向かって叫んだ。
「もう、何だよう!」
執事が驚いて、周囲のモンスターに警戒するよう目配せする。
それが結果的に、悪しき側にとって最悪の状況を防いだ。
ばしゅん、と音がして、会場の入り口を守っていた狼男が霧散する。
「悪しき者よ、それまでです」
凛とした女性の声が、会場に響き渡る。
「クロさま、走って!」
執事がその声を聞き叫ぶ。クロは一瞬驚いたが、ドレスが自ら動き彼女を一瞬で会場の外へ移動させた。
クロは、会場に響き渡る高笑いを聞き、姿を見なくとも声の主を悟った。戦慄する。
「魔女クロよ、私が貴方を討伐してみせましょう!」
善き側の聖女ホワイトが、真っ白な鎧とマントに身を包み仁王立ちしていた。




