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ゼナク -zen/aku-  作者: 藤之上蛙
1章:魔女と儀式と聖女
4/5

クロのお出かけ、儀式会場へ

 大魔王ブラックがいる魔城は、勇者がいる都市の西側にある。

 城の北には険しい山脈があり、魔城自体は山脈と谷の間、切り立った崖に立っている。いかにも魔王のいる城だ。

 見える部分よりも地下が広大な所が特徴で、一番下に大魔王ブラックの部屋がある。まず地上の魔女達を倒してからでないと、地下に行けないようになっている。

 それは、魔女が城を守ることよりも、外での魔力源を確保することを優先しているからだ。魔力の流れ等を把握する為、外気に触れている必要がある。逆に魔王達は、自らの身体を鍛えあげる為、地下にこもっていたりする。歴史上は例外もいたようだ。


 という訳なので、クロが階段を駆け下りていたのは、城の一階、入り口に向かう為であった。

 門番のモンスターが二匹いて、彼らは楽しそうに四本足の執事と話をしていた。執事がクロに気づいて声をかける。

「準備は出来ましたか?」

 にこやかに声をかける彼は、狼の足を軽やかに動かしてクロの元へ近寄ってきた。

 彼はスキュラという種族だ。スキュラは下半身が狼だが、上半身は女性であることがほとんど、というよりも男が生まれることは滅多にない。その為、彼はとてつもなく希少な存在であった。

 なんやかんやあって、今は魔女クロの執事となっている。いつもは燕尾服の上半分を着ているが、これから儀式へ行く為、今は軽装備の鎧を着込んでいた。

 四本足はいつも、魔法の道具である靴を履いている。仕事外では素足で過ごしているらしい。クロは見たことがない。どうにかしてそんな姿を見てみたいと、色々試しては失敗し怒られる幼少期を経て、現在その欲求は落ち着いている、成長中の彼女ではあった。


 執事は、猛スピードで移動してきた為にめくれにめくれていたクロのスカートを素早く直した。

「待たせてごめん」

 自分で帽子を直し、クロは呟いた。

「いえ、そんなことはありません」

と、執事はにっこりと笑い、左手に持っていた仮面を渡す。

 

 クロはいつも魔女をする際、仮面をかぶっていた。これは彼女のたっての希望だった。他の魔女や魔王は反対をしていた。しかし今では、頑ななクロの態度をもう変えようとはしていない。

 仮面は白い陶磁のような素材でできていて、両目と口の部分がくり抜かれている。左目の部分には、ドロドロとした白黒のマーブル模様がある。そしてそこから抜け出すかのように、真っ黒の蛙が描かれている。


 蛙が涙のように見えるのが、クロは密かにお気に入りだった。それはクロが勤務時間外に見た、サーカスのピエロに描かれていた赤いしずくの形に似ているからだ。

 クロは両手で、仮面を顔にぺったりとかぶせた。魔法でつけられるので、勤務時間内にとれるといった事は、まず起こらない。


 仮面の魔法がかかったのを確認して、執事はクロに右手に持っていた箒を渡す。

「さあ、行きましょう」


「ご武運を」

 門番二匹が声を揃えて、大きな扉を開ける。何回目かの外回りだが、毎回緊張の度合いは変わらない。いつでも胸がどきどきして、手がひやりと冷たくなる。けれどいつも、頑張って悪くなろう、と決心する瞬間だった。

 さあ、儀式への出陣。



 クロはまだ子どもなので、昼番しかすることはできない。もともとの性質なのか、魔女なのに夜更かしが出来ず、彼女はすぐに眠くなってしまう。まだまだ子どもなのである。

 その為、彼女の魔力を集める為の儀式も、悪しき者には珍しく真っ昼間に行っている。しかし善い者たちにも狙われやすい。

 そこで魔王は、いつも多くの護衛をつけて儀式を行うよう厳命していた。「護衛」の職を受ける者は数多いるが、「魔女」の適性がある者は本当に少ないのだ。守るべき側ははっきりとしている。



 クロは箒にまたがり、低空飛行を開始した。執事も魔法の靴を使い、しっかりとクロの少し前を走り抜けている。

 執事以外に、目に見える護衛はいない。

 もちろん、目に見えない護衛はたくさん付き従っていた。レイスやイマジナリー・コンパニオン。また、その場で戦闘になれば、アンデッドモンスターも召喚することも可能だ。

 クロはイマジナリー・コンパニオンを呼ぶのが得意だった。コンパニオンたちは見えないが子どもの様な存在である。彼らを勤務時間外に呼び出してお泊り会をしていたら、侍女に見つかりカンカンに怒られ、それからむやみに召喚することはなくなったが。


「久しぶりークロ」「今日もぎしきなの?かめんだもんねー」

「またともだちたくさんできるねえ」「がんばろうね」

「わたしもがんばるよお」「いたずらたのしみだあ!」

 

 クロがすぐに彼らを召喚すると、早速わいわいと賑やかな声が聞こえてきた。


「しつじさんこんにちはー」「もふもふだあ」

「今日もかっこいいクツ!」「よろしくねえー」

「はい、こんにちは。今日もよろしくお願いしますね」

 いつもクロに仕えている執事も、コンパニオンたちにとっては友達である。楽しそうに話している。猛スピードで飛んでいるのだが、声は全く遠くならない。



「久しぶりねークロちゃん」「今日もかわいいわあ」

「私頑張るわねー」「クロちゃんの為に吸い取るわよう」

「今回は楽しいと良いわね」「おじいさんばっかりだったもんねえ」


 一方のクロは、レイス達に人気である。レイスは召喚ではなく、モンスターの分類に入る幽霊である。

 レイスは女性たちばかりで、クロを見えない手で撫で回している。猫を可愛がるような仕草で、クロにとっては何となく恥ずかしい。

「わー、もうくすぐったいよ!」

「怒った顔も可愛いわね」「もっと可愛い服着たら似合うのにい」

「侍女に言ってやりましょ、センスないって」「仮面も豪華にしなよお」


 地味な服を頼んでいるのは私の方だから、やめて欲しいな……

 クロはそう呟いたが、きゃいきゃいとかしましいレイス達には全く伝わらなかった。



 谷を猛スピードで跳び越し、彼らは都市と魔城の間にある「針の森」へ入る。

 森の中には、悪しき側の部下達が秘密裏に集めた人間たちが儀式会場に集まっている。

 そこでクロは、ブラックの原稿を読みつつ魔力吸収を行う予定になっていた。


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