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ゼナク -zen/aku-  作者: 藤之上蛙
1章:魔女と儀式と聖女
3/5

クロのお出かけ、準備編

 クロは見習い魔女である。最近魔女の職種についたばかりなので、まだまだ魔力が弱い。更に彼女自身で魔力を吸収する力も足りず、もっぱら大魔王の部下であるモンスターや、魔法のアイテムで間接的に魔力を集めている最中だった。

 彼女が仕事の際に着る黒いドレスも、魔力吸収のアイテムだ。また三角帽子は魔力の流れを探知できるし、移動道具の箒は彼女の魔力を使用せず、大気中の魔力で空を飛ぶ事ができる。武器となる鎌は、彼女の非力をサポートできるよう、意識を持って動き、敵を喰らう。

 それらはとても便利なものばかりで、歴代の魔女達は大体職務時間以外でも好んで身につけていたのだが、いつもクロは魔城に戻るとさっさと脱ぎ捨ててしまっていた。


「このお仕事服、ちょっと重いんだもん」

 ドレスの裾を整えながらそう呟くと、彼女つきの侍女が困ったように答える。

「クロ様くらいのお年で魔女になる方がそうそういませんでしたからねえ」

「そうなの?」

「ええ、クロ様が素晴らしい素質があるからこそ、ですよ」

 うまく言いくるめられた様な気もしたが、褒められたことは分かったのでクロは単純に喜んだ。心が晴れると重い服も軽く感じるというもので、裾のドレープを完璧に揃えたクロは、

「よし、儀式会場に行こう!」

 たった今染めて貰ったばかりのつやつやな黒髪を綺麗になびかせ、高速で部屋から飛び出ていった。

 侍女はそれを微笑ましく眺めながら、四本の腕で部屋を手早く片付けていく。


 クロの部屋は、大魔王の城の比較的高い場所にあったが、三人いる魔女の中では一番低い部屋だ。それは勇者達から見た場合、魔城攻略で最初の魔女との遭遇になる。つまりクロは魔王と魔女の中で最弱という事だ。

 彼女の部屋は縫いぐるみが多い。縫いぐるみのそれぞれに魔力や呪術が施されており、それらで遊ぶうちにどんどん魔力が高まっていくようになっていた。更にそれらは万が一の戦闘時、クロと共に戦うモンスターでもある。特に夜寝るときは、侍女がベッド周りに縫いぐるみを集め、安心して睡眠がとれるようにしている。

 また彼女には専属の付き人が二人いる。四本腕の侍女と、四本足の執事だ。侍女は身の回りの世話を主にしている。執事は外回りの際に、秘書のようにサポートを行っている。

 今も、クロが準備を終えるのを、執事は彼女が乗る為の箒を携えて待っているはずだ。クロは急がなきゃと、魔城を走り降り始めた。




「クロや、これから儀式かい」

「あ、リンゴ様!」

 そんな中、あの恥ずかしいスピーチを発見した老女が、クロに声をかけた。滑空していた螺旋階段の手すりから降り、クロはペコリとお辞儀をした。

「そうなの、スピーチはやめなさいって言われたけれど、代わりに大魔王さまに原稿をもらったの」

「そうかい、うまく言えるといいねえ」

「うん、がんばります!」

 鼻の高く皺の寄った顔を更にしわくちゃにして、彼女はクロに言う。子供を脅して言うことを聞かせようとする、いかにも悪い魔女の表情。この老女はリンゴという名前で呼ばれている。

「けれど、お前が考えたスピーチで、ムラサキの事を言おうとしていたね。それはいけないことだよ」

「……うん、気をつけます」


 ムラサキはクロが「姉さま」と呼ぶ先輩魔女である。彼女は普段夜側の勤務に入っていて、民に知られず、それ故に素晴らしい暗躍をしている。だから、これから生贄になるとはいえ民にムラサキの事を伝えてはいけないのだ。

 それがクロには気に食わない。あんなにきれいで、強くて、なのに日の目を浴びることができない。それは私達が、悪しき側だからなのだろうか?


 そう考えてしょんぼりしていると、リンゴはいつの間にか持っていたクロの三角帽子に、ムニャムニャと何かを語りかけた。すると帽子は怪しくうごめき、心持ち帽子の先を尖らせた後に震えを止めた。

 その帽子を、リンゴはクロに優しくかぶせた。

 リンゴは体力がない代わり、空間転移能力に優れている。クロの頭から帽子を取ったり、スピーチを見た後に行った魔城内の瞬間移動などは造作も無い事だ。そして彼女はオーソドックスなスタイルの魔女で、薬の調合や呪術が得意なのだった。


「ほれ、私のまじないをかけておいたよ。生贄の儀式も段々慣れてきたろう、けれど気を抜かずに行くのだよ」

「はい、分かりました。行ってきます!」

 嬉しそうに笑うと、クロは階段を駆け下りていった。


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