はじめましてのスピーチ
みなさまこんにちは。本日は集まっていただきありがとうございます。
私は魔女を職業としています。名前はクロです。髪は真っ黒に染めていますし、黒い服も着ているので、しっくりくる名前だと自分でも思います。
私、クロは魔女ですので、悪いことをしなさいと言われています。ですので、日々民を苦しめたり勇者を倒そうと頑張っています。まだまだ修行中の身、同じ魔女の姉さまには叶いません。せめて魔王さまの足を引っ張らないよう、精進している最中です。
みなさまご存知の通り、私たちの敵は勇者たちです。特に同年代の聖女キイロは、憎き宿敵です。すごく可愛いし元気なので、民の人気は絶大です。ちょっと羨ましいです。いえ、嘘です。民になんか好かれたくありません。本当です。
私は、早く一人前の魔女になって、勇者たちを倒したいのです。そして悪の世界を作り、民を支配したいのです。
その為に、みなさまにお願いがあります。
クロに、力をください。
みなさまはこれから、私に生贄として利用されることになります。それはこれから行われる、地方都市襲撃作戦に、どうしても必要な力なのです。
みなさまの身体は、ゾンビとして都市の民を攻撃するでしょう。みなさまの魂は、私に吸われ呪力として蓄えられることでしょう。そしてその力で、私は必ずや、必ずや善き者を倒します。
みなさま、私に力をください。ぜひ、おとなしく生贄になってください!
「……クロや」
いきなり声がしたので、クロは驚いて後ろを振り返った。
そこには、片手に林檎、片手に杖を持ったローブ姿の老女が、曲がった腰に力を込めて笑いを耐えながら立っていた。
「……これを儀式の場で披露しようとしていたのか」
男はそう呟いて、クロの書いて読み上げていた紙を机に置いた。
「す、すみませんブラックさま」
真っ黒な服を着た少女が怯えたように謝罪した。今は勤務時間外の為、帽子やマントはまとわず、飾りの無い長袖のワンピースを着ているのみだった。
「クロよ、悪は民に了承など得ない。何も言わずにどんどん魂を奪うのだぞ」
「は、はい」
良く響くバリトンは巨躯から放たれ、その身体を預ける禍々しい椅子さえビリビリと震えるようだ。
両脇に従えた悪魔と相まって、その姿は威圧感たっぷりだ。
黒い肩当て、黒いマント、頭に生えた二本の立派なツノ。
クロと同じ黒い長髪は、彼自身が放つ魔力でかすかに揺れている。それはバリアでもあり、魔城での異変を察知するレーダーの役割も担っていた。
これから仕事場へ向かおうとしていた老魔女が、クロのスピーチ練習をしていたのを見つけたのは、この大魔王ブラックの仕事中だった。
そのクツクツと笑う老女の顔を見て、クロはすぐに自分が変なことをしていたのだと悟った。あたふたと自分で書いたセリフの紙を隠そうとしたが、老女は杖をちょっと動かしそれを魔法で奪いとった。老女は何も言わずに姿を転送したので、クロは彼女の行き先を確信し、がっくりと肩を落とした。そしてとぼとぼと、大魔王の部屋へ向かったのだった。
そして今、彼女は俯いて長い髪を両手でいじりながら大魔王の前に立っている。実はクロの地の髪は少し茶色だった。職業規定があるので、真っ黒に染めているのだった。
ブラックはクロに聞こえない様にため息をついた。もうそろそろ彼女の髪を染め直さねばならん、侍女にしっかり管理するよう命じなければ。そう考えながら。
「まあ、頑張っているのは伝わるぞ、クロ。私が台本を用意するから、本番ではそれを発表しなさい」
「は、はい!」
褒められたのでクロはパッと顔を上げて、頬を染めた。
「頑張ります大魔王さま!」
そして素早く一礼し、小さい魔女はぱたぱたと部屋を去っていった。無意識に魔法を使って勢い良く走るので、入り口にいた悪魔は慌てて扉を開けた。若干間に合わなかった分はブラックが魔法で援護する。
バタン!と大きな音を立てて両開きの扉が閉まる。
大魔王の部屋にいた全員は、なぜか詰めていた息を一斉に吐いた。
「お、恐れいります大魔王様」
汗を拭きながら扉付きの悪魔はブラックに謝る。苦笑しつつ彼は手を振り、勤務を再開したのだった。




