『 Legend of the wars 』 序章
こちらは戦記物の物語となります。人によっては過激な表現が含まれることもございます。お気を付けください。
夕闇が迫る森の中、荒い息を吐きながら少年は歩いていた。
彼の姿は泥にまみれ、ただでさえ暗い森の中、とても黒く薄汚れていた。
「はぁ……はぁ……う……ぐすっ」
流れる涙を拭くことなく、少年は歩き続けた。枯れ枝を踏む音だけが森に響き渡る。
パキッパキッ……バキッ!!
「!! 」
ひときわ大きな音がした、バランスを崩す、視界が反転する……気がつくと仰向けに倒れていた。
どうやらバランスを崩して倒れたらしい。
「うう もういやだ……」
そうつぶやくと少年は重い腰をあげ、おもむろに大きな木に寄りかかると崩れ落ちた。
暗い森はとても静かで、より一層少年に孤独感を煽りだす。
そんな中、少年は組んだ腕に頭を被せ、今までのことを思い出していた。
「……なんでこんなことになったんだろう……」
ふと独り言がでてくる。そう、今少年が思い出していたことは過去から今現在続いている”いじめ”の事であった。
きっかけはちょっとしたことだった。
しかし、そのきっかけは少年達をいじめる側といじめられる側へといざなった。
次第にエスカレートしていき、ただの意地悪からいじめ、そして暴力へと変貌を遂げた。
初めは抵抗していた
だが、いじめられ癖がついた少年は次第に抵抗がなくなり、その状況を受け入れてしまった。
いじめる少年達は罪悪感を持たずに、少年と同じくそれが当たり前となっていった。
ついに、少年と付き合っていたグループもいじめる側になるか、または干渉しなくなってしまい、今となっては、誰も彼に関わる事もなってしまった。
そうして、彼は誰とも関わる事もなく、孤独な空間を求めるようになり、村はずれのこの森に行くようになった。ここでいじめっ子達が諦めるか、家に帰るまでここで過すようになっていった。
ひとしきり泣いた後、少年はふと森を見回した。とても静かな森だ、夕日も段々とかげり、今にも空は漆黒の世界になってしまいそうだ。
すると、段々とこの空間が怖くなってきた。少しの時間しか経っていないはずなのに、まるで何時間もそこにいたような、とても不気味な気分がする。 今までは気にしなかったこの空間が何故か今日は嫌な感じがした。
「こ……怖いよぉ……」
とても頼りない声を出しながら少年は走り出した。前後もわからずただこの森を抜け出したい、
その思いで走り続けた。
すると森が終わったのか、次第に森に光が差し込む、少年はこの光に引き込まれるようにその光に向かって走り出した。
ひときわ光る場所に行くと、そこには大きな家と広場が広がっていた。
年季の入った柵に囲まれたこの一角はまるで別世界のようなそんな感じがした。
キンッ……カンッ……カァン……
微かな金属音が響く、それと同時に若い少女の掛け声も聞こえるようだ。
「ハァッ! イヤアア! 」
気合の入った声と同時に金属音も聞こえる、何か激しい運動をしているようだ。少年はその音が聞こえる方向に隠れながら覗き込んだ。 物陰から覗いているので少し見えづらく、視線の先に見えたのは大柄の男が馬にまたがって剣を振るっている姿だけだった。しかし…男は剣を振るわけではなく何かを払っているようにも見える。その仕草と同時に金属音とまた少女の掛け声が聞こえてくる。
その声はどこかで聞いた事があるような……聞き覚えのある声で、どこかは思い出せなく、歯がゆい感じがした。
「……もうちょっと……もうちょっとで……」
身を乗り出して様子を伺う、それと同時に男が体勢を入れ替えた。その時、少年は自分が覗きたい興味の対象があらわとなった。
「ア……ッ! 」
声が出そうになるのを手で押さえ込む、そして興味の対象を改めて見つめなおす。そう……間違いなく彼女は少年の知っている人物だった。
「……姫……様……」
当てている手から声がこぼれ出す。そう、今少年の前にいる人物は、彼のいる村の領主とこの国の姫様だったのだ。 彼女は大柄な男と同じく、鎧を着て、剣を握り、馬に乗っていた。鎧は一兵卒が着るような簡素なものではなく、とても気品に溢れた綺麗な物だ。しかし、それは土ぼこりにまみれてすすけていた。
声を張り上げ、まるでジャンヌダルクのような猛々しい姿もうかがえる。 手綱を握り締めた手は真っ赤になっている。剣を握り締めている手も同様だ。疲労も積み重なっているのだろう……彼女は気勢とは裏腹に精彩を欠いているようだった。 不意に変な角度で剣が振り下ろされる。するとその甘い剣先を見た男は軽くなぎ払った。
鈍い剣先とは違いとても鋭利な音が響き渡る。そして次の瞬間、少女の手から剣がなくなり、力をなくした拳はそのまま手綱を捕まえる事ができず、少女は落馬した。
「……ッ……!! 」
彼女の喉元に剣が突きつけられる。地面に這いつくばり、とても悔しそうだ。そして彼女が何か言おうとした時、男が話しかけた。
「……今、貴女は死にました。 分かりますかな……これが戦いというものです」
何か言いかけた少女はそれで言葉を失った。
「……ッ! 」
目を見開くと同時にポロポロと大粒の涙を流し、頭を垂れた。その姿を見て男は厳しい顔から優しい顔になり剣を引いた。
「お立ちなさい…貴女は何者ですか? 」
その言葉を聞いた少女は顔を上げ、そして言った。
「わ……私はセリスタ公爵の娘……エリーシャ……この国を束ねる者……」
その言葉を言うと同時に立ち上がり、そして剣を握りなおす。そして男に向かって剣を振り上げた。
キイィィン!!
綺麗な澄んだ金属音が聞こえた。男は真正面から彼女の振り下ろした剣を受け止めた。そしてまた厳しい顔をした。
「そうです……貴女はこの国を束ねる者 ここで立ち止まってはいけませぬ」
そういうとつばぜり合いの状態から彼女を吹き飛ばし、間合いを取り直す。彼女はまだ目に涙を溜めていた。しかし、臆する事もなく剣を振り続ける。その姿は戦女神の如くだった。 少年はこのやり取りを目に焼き付けるように見つめていた。
(……いつも皆の前では笑顔を絶やさず、そして気品に溢れた姫様が、こんな泥だらけになって……)
泥だらけになって、そして不屈の精神で、男に向かっている。何が彼女をここまで駆り立てているのだろうか……その時、彼女がよく言っていた言葉を思い出した。
全ては臣民の為に……
臣民とはなんだろうかと考える、よくまとまらない。そう思っていると彼女がまた地面に倒れた。
今にも泣き出しそうな顔をしながらも呟いた。
”皆が幸せになるのが私の望み……だから絶対に負けない……! ”
と……。 そして起き上がるとまた剣を振りかざして男に向かっていく。 ”絶対に負けない”この言葉は少年の心に深く刻まれた。もう既に忘れ去られているものだと思っていたものだったからだ。
いや……諦めていた……とでもいうのだろうか。
その時、少年の心にひとつのまとまった意思が芽生え、それが小さな炎となった。
「姫様が……あのいつも笑顔を絶やさない姫様が僕の目の前であんなに歯を食いしばって……」
体がもう思うように動かないのだろう、よろけながらも歯を食いしばって向かっている。
彼女の頑張る姿を目の当たりにした少年はひとつの決意をしたのだった。それは……
”僕が、彼女を守ってみせる!! ”
この瞬間、少年はいじめられっ子という姿から抜けだした。運命の出会いは、今後の人生を大きく変貌させるきっかけとなったのだった。
序章 END
こちらはまだ本編じゃないですよ(・。・ll