8A列車 長野新幹線
「まぁ、そこはどうでもいいわ。これで次はそこの「たにがわ」で高崎まで戻って、長野行きの「あさま」に乗ればいい。」
僕はそう言うとレイを促して、「たにがわ」に乗り込んだ。「たにがわ」という名前は大清水トンネルというトンネルの真上にある谷川岳からきている。もともと上越新幹線の各駅停車は「とき」という名前で、現在の「とき」は「あさひ」という名前だった。しかし、1997年に「あさま」がデビューしたのを期に、「あさひ」が「とき」に改称され、今の形となった。
列車に揺られて、高崎まで来る。この「たにがわ410号」が到着する直前に「あさま」が発車してしまっているから待たなくてはならない。
「シャーク。お昼どうするのよ。まだ食べてないじゃない。」
「あっ。そうだったな。」
「うーん。高崎。高崎・・・。」
レイは考え込んだ。
「駅弁でもいいんじゃないか。」
「駅弁。」
レイの声がおうむ返しに返ってきた。
「ああ。電車の旅って言ってて、まだ駅弁食べてないじゃん。だから、駅弁にしようぜ。」
「・・・。」
「なっ。」
「分かったよ。」
もうレイには食べ物のことなんてどうでもいいよという感じもした。一度改札の外に出て、駅弁を買う。僕はチャーシュー弁当。レイは舞茸弁当を買った。
弁当を法張りながら、駅のベンチで食べた。まぁ、座って食べれそうな所というのが少ないということもあるが・・・。ここにくる新幹線はもうすでに見たことのある車両である。一つだけ乗ってない車両は長野新幹線の「あさま」だけだ。しかし、もう乗ってしまった車両と言ってしまえば間違いはない。
弁当をゴミ箱に捨てて、13時14分の「あさま523号」を待った。その時間になると向こうかE2系がやってきた。
「いや、だから、これもう乗ったよね。」
レイはそう言った。確かに・・・。
「よく見ろよ。昨日乗ったやつとの違いがよく分かるから。」
「・・・見てもよく分かんないよ。」
「目ちゃんとついてますか。色ちゃんと識別できますか。」
「できるわよ。」
「だったら。分かるはずだ。」
しかし、レイには難題だったみたいだった。本当の違いはラインの色。「はやて」はピンク。「あさま」は赤。これ以外にも違いはあるが、色だけで識別できる違いだ。他に、塗装の関連で見分けれるのは横に描かれているマークが「はやて」はリンゴなのに対し、「あさま」は翼の羽という違いだ。
「あさま」は高崎から分かれて、長野県のほうに向かう。長野県と群馬県の県境にはこれも難所で有名な碓氷峠が存在する。ここ碓氷峠は日本最大の急こう配があったことで知られ、その勾配は1キロ進むごとに67メートル(正確には66.7メートル)登るという程の急こう配だった。長野新幹線はこの難所をトンネルで貫いている。この長野新幹線の開業により、軽井沢~横川間の信越線は廃止となっている。
長野に到着したら、一度車内から降りた。対岸には同じ「あさま」のE2系が止まっていてみることはできないが、その方向に在来線のホームがある。前に視線をやるとその先に新しいコンクリートが続いている。長野新幹線は1997年長野オリンピックに合わせて、北陸新幹線の一部として開業したものだ。現在金沢延伸のため工事が進んでいる。
「はぁ、シャーク・・・。ちょっと待ってよ。」
後ろでレイはへばっている。「あさま」の中でずっと寝ていたからなぁ・・・。
「レイ。お目覚めはそんなに気分でも悪いのか。」
「別に。気分なんか悪くないけど。」
「・・・。」
「ていうか。何のためにここまで来たわけ。まぁ、もう答え分かってるも同然だから・・・。」
「乗りつくしに来た。」
「答えなくていいって言おうとしたのに・・・。」
「まぁ、すぐに戻るぞ。」
「はっ。」
「はッ、じゃねぇよ。お前ここに今日泊まるのか。」
「・・・。分かったよ・・・。」
またE2系の車内に乗り込んだ。ここまで来た帰りだ。だが、僕はこの先どこで降りるかということを何も考えていない。何も考えなければ、東京まで乗っていけばいいんだけど、そういう意味ではない。
(「あれ」って何時だ。)
時刻表をかばんの中から取り出した。
(・・・大宮16時45分かぁ・・・。えーと。今乗ってる「あさま」は・・・。)
「レイ。」
「何。」
「一本遅らせるぞ。」
「えっ。」
レイの顔が唖然となった。
「なんで降りたのよ。」
「別に・・・。」
「別になわけないでしょ。なんかあるから降りたんじゃないの。」
「ここじゃ別に何もない。」
一本遅らせて、次の「あさま532号」で東京に向かうことにした。指定席は取ってないし、別に何もない。「あさま532号」の発車時刻になって、長野を発った。「あさま532号」は速達タイプの「あさま」。東京まで軽井沢、大宮、上野しか停車しない。
大宮まで来ると僕は席を立ち、
「レイ。降りるぞ。」
声をかけた。
何しに来たんですか。長野に・・・。