7A列車 とんぼ返り
「シャーク。昨日ちゃんと今日の工程たてたのよね。」
レイと落ち合うとすかさずそう聞かれた。
「ああ・・・。今日はちょっとレイにとっては疲れると思うけどね。」
あとは声をひそめてつぶやいた。
「んっ。」
僕がまだ何か言っているように見えたからだろう。
「いや、なんでもない。なんでもない。」
「じゃあ、今日は何時出発なわけ。」
「そうだなぁ。8時20分出発でどうですか。」
「・・・わかった。」
部屋に戻って、荷物をまとめる。時計を見たらまだちょっとだけ時間がある。少しの間テレビを見て、部屋を出た。エレベーターを待っているところでレイと落ち合い、ホテルを出た。
高崎駅に来ると昨日は暗くてよく分からなかった線形を見てみた。高崎も大宮と同様入り組んでいる。ここ高崎は長野方面にのびる長野新幹線(北陸新幹線)と上越新幹線の分岐駅。両方に支障のないようにした結果だろう。僕たちの乗る列車は当然まだ入線していない。その時間になると向こうから2階建ての車両が入って来た。
「これって昨日乗ったような。」
レイがつぶやいた。
(いや、塗装とか違うし・・・。分からないものなのかなぁ・・・。)
鉄道に興味ない人は全部の鉄道が同じように見えて、車に興味がなければ、ほとんどが同じように見えるのと同じか・・・。そこは置いといて、これは昨日乗ったE4系ではない。E1系という初代「MAX」だ。
(やっぱり、こいつは旧塗装のほうがいいなぁ。)
その車両を見ているとそう思えてきた。今の新塗装も別に嫌いではないが、E1系らしさが出るというのは新塗装より旧塗装のほうだろう。とまぁ、これは僕の勝手であるが。
「今日は下でいいな。」
「えっ。いいなて。あたしはどっちでも・・・。」
乗り込んだらE4系では上に上った階段を下った。そこは2階席とはまた違う1階席がある。1階席は車両の幅の関係上3列+2列と普段皆さんが見慣れた配置。窓の位置は窓の下の縁がホームと同じ高さにある。それほど低い位置にあるのだ。ここに乗ったら走り出して見えるのは防音壁ぐらいしかないだろう。景色的に言えば最悪だし、「MAXとき307号」の中ではレイに窓側を譲った。
「ねぇ、シャーク。」
高崎を発車して、すぐ。もう長野新幹線と別れた後レイが口を開いた。
「シャークってさぁ、こうなること分かってたから、窓側いいよって言ったの。」
「そうだけど。」
(・・・こういうこと知ってれば。)
列車はそのあとも快調に飛ばした。ここ上越新幹線ではスピードへの挑戦が行われているところでもある。試験車両もそうであるが、営業列車で1996年当時日本最速275キロを目指した「あさひ」もここを走っていた。現在その速度以上で走る列車は設定されていないが、スピード記録を打ち立てられるというのはそれほど上越新幹線の線形がよいことを示している。
新潟に到着。次は「とき320号」東京行きに越後湯沢まで揺られる。時刻表に何も表示がなかったこれは200系で運転される。現れた200系に思わず飛び跳ねたくなった。それは僕が一度も本物を見たことがないK47編成の200系オリジナルカラーだ。白の車体に窓周りが緑という塗装の仕方は0系からの流れを汲んでいる。じゃあ、これ以外の200系はどういう色をしているのかというと窓下に緑のラインが入り、下は紺。上は白と塗り分けられている。
車内に入ってみた。この列車には同じような目的でという人が数人見られた。車内はさっきのE1系と比べてしまうと劣ってしまうが、それでも申し分ない。
(こいつの仲間なんだよなぁ・・・。)
頭をよぎるものがあった。新潟中越地震の時である。新潟に向かっていたK25編成による「とき325号」が浦佐~長岡間を走行中に被災。10両のうち2両以外はすべて脱線。しかし、転覆はしなかったというものである。もちろん一歩間違えば転覆は免れなかった。そんな状況に陥ってもちゃんと止まったのだ。K25編成は損傷がひどかったことから廃車されたものの、乗客の命を守ったということには変わりはない。それこそ「奇跡の停車」と呼ぶべきではないのだろうか。
記憶に新しい東日本大震災の時も東北新幹線を走っていた27本すべての列車は脱線もしていない。その設備のことを話してはきりがなくなってしまうが、新幹線の安全性というものがこれだけでもわかるだろう。
「シャーク・・・。あたしたちは新潟まで何しに来たの。」
「だから文句言うなって言ってるだろ。」
「・・・。シャークと旅したらこうなるんだ。」
レイは独り言を言った。
「お前がついてくるとかっていうからいけないんだろ。だったらついてこなきゃよかったじゃないか。」
「・・・。」
何も反論できないという感じだった。
越後湯沢に来たら、今度はガーラ湯沢に向かう。ガーラ湯沢のほうはスキーで訪れたこともいるはずだ。そう。ガーラ湯沢はスキー場に直結した臨時駅なのだ。新幹線の越後湯沢~ガーラ湯沢間は本当は在来線。そこを新幹線の車両が走っているということをしているのだ。それではミニ新幹線と同じではないかというかもしれないが、ここには新幹線規格で作られた車両しか入線しないというのがミニ新幹線と違うところだ。
この列車も200系。これに乗り一区間。
「ねぇ、あたしたちはスキーしに来たわけじゃないのに、何でここに来たわけ。」
「新幹線が走ってるところは乗りつくしておかなきゃ。」
「・・・。」
「まぁ、ここは本当は新幹線じゃないんだけどね。」
「えっ。言ってる意味が分かんない。どういう意味よ。新幹線が走ってるのに新幹線じゃないって。」
「簡単。新幹線じゃなきゃ在来線なんだよ。」
「はっ。今回の旅新幹線乗りつくしだよねぇ。在来線乗ったら意味ないんじゃない。」
「だから、文句言わない。」
「・・・。旅終ったら絶対にひっぱたくからね。顔の形が変わるぐらいに。」
とレイに脅された。
新幹線が地震の時に対応するシステムを説明します。
まずP波検知器がP波を検知。それが変電所に地震が起きたと勧告します。変電所では新幹線の架線への送電をストップ。すると車両のATCが非常ブレーキをかけ、止まるという仕組みです。
結構ざっくり解説しましたが、分かりづらいですね。はい。