4A列車 「はやぶさ」と「つばさ」
翌日。盛岡駅に向かった。
「今日はどこで温泉に入れるのかなぁ。」
レイの頭の中にはすでに温泉しかないように見える。
「まぁ、そう焦るなって。まずは仙台まで行って、そこから福島まで行く。そしたら、新庄まで行く「つばさ」に乗って、新庄から在来線で山形に戻ってきてからの話だからな。」
「なんで、そこまで大回りなわけよ。」
「まぁ、気にするなって。温泉に入れることは確定なんだから、今日はゆっくりしてろ。」
「シャークの旅だとゆっくりできないのよね・・・。」
(悪かったな・・・。)
改札の前まで来ると今日乗る新幹線の切符をレイに渡した。
「えっ。これどうしたのよ。」
「どうしたって。買ったんだよ。」
「昨日、これの切符は1分もたたないうちに売り切れるって言ってなかった。」
「・・・供給力が上がって来たんじゃないの。」
そう言って、切符を改札に通した。乗る号車は4号車の6番D席とE席。旅行の最初のほうは指定席のたびになるということであらかじめ切符を抑えておいたものだ。だから、すべてが無計画だったというわけではない。
盛岡のホームに上がると1号車付近の停車位置まで足を延ばした。停車時間が短いから1号車のドアから車内に入り、車内を伝って4号車の指定席まで行けばいい。そこはE2系「はやて」の時と同じだ。
「一区間だけだけど文句言うなよ。」
「うん。」
「列車到着したら、お前はさっさと車内に行けよ。俺はちゃんと乗るから心配するな。分かったか。」
「分かりました。」
ちょっと心配だなぁ・・・。
7時03分。その列車が入線。「はやぶさ4号」東京行きだ。この列車の人気はいまでも衰えていない。たくさんの鉄道ファンがE5系にカメラを向けている。まぁ、駅でカメラを向ける人なんてほんのひとかけらに過ぎない。沿線で構えている人のほうが多いからだ。自分のその人に交じって写真を撮り、1号車から車内に入った。
1号車の客室は10号車と同じくとても狭い。先頭の鼻が車体の半分以上を占めているせいだ。しかし、2号車からは20列ぐらいを備え、他の新幹線と同等の輸送力を確保している。4号車に着くとレイが立って待っていた。
「心配するなって言っただろ。」
「心配するなって言われても心配なんだもん。列車発車しちゃったのにまだ戻ってこないから。ちゃんと乗ったのかと思った・・・。」
「この通りちゃんと乗ってるだろ。」
さていい愛はここまでにして、僕はE5系の窓から外を見た。E2系に比べたらとても小さい窓である。これも騒音や空気抵抗を考えてのことからこうなったのだ。飛行機の「コンコルド」の窓がほかの旅客機を比べ窓が小さいことと同じ理由である。
E5系「はやぶさ」はいま大宮~盛岡間で時速300キロ運転を行っている。これは国内最速の営業運転速度で、それは500系・N700系と並んでいる。しかし、E5系はさらなるスピードアップを目指しており、ゆくゆくは320キロ運転を実現し国内最速。また世界ではフランスの「TGV」、ドイツの「ICE」に並ぼうとしている。
さすがに一区間だけと会って仙台到着まではあっという間だった。仙台からは乗り換え。さっきまでのスピード感は一気に吹っ飛んでしまうが、それは仕方ない。E5系「はやぶさ4号」の対岸に止まっている「やまびこ208号」東京行きに乗り、途中の福島まで行く。またE2系にお世話になる。パンタカバーが大きいグレー。初期のE2ダッシュだ。
「また同じ車両にお世話になるとはねぇ。」
「しょうがねぇだろ。東北新幹線のほとんどがこいつらなんだから。」
そこは本当に仕方のない話だ。しかし、これは初期の東海道新幹線と東北・上越新幹線でも言えたことだ。そして、東北新幹線は再びそうなろうとしている。その先駆けが「はやぶさ」なのだ。
「さて、レイちょっとの間だったら寝ててもいいぞ。」
「ちょっとの間って。どれぐらいちょっとなのよ。」
「えーと・・・。」
時刻表を開いて、所要時間を計算した。
「30分ぐらいだ。」
「・・・本当に短いわねぇ。」
「・・・。」
別にレイは寝ようとしなかった。「やまびこ208号」は「はやぶさ4号」より早く盛岡を発車し途中の各駅に止まって終点の東京まで走る。だから、仙台と福島の間の白石蔵王にも停車する。
白石蔵王は在来線とかなり離れた位置に存在している。この駅は政治駅とも呼ばれ、当時のここの市長クラスの人がここに駅を作れと申し出たためだ。このような駅はほかにも存在する。このような駅で一番有名なのは東海道新幹線の岐阜羽島駅だと僕は思う。
この駅に停車したもののそんなに客の流れはないように見える。地元の人でも仙台、福島に出るときは在来線のほうを使うというありさま。役に立っているのか疑問がわく。しかし、役に立っているから廃駅にならないのだろう。
12分後福島に到着。ここから次に乗る新幹線は「つばさ123号」新庄行き。乗る列車までは多少時間がある。
「次は「つばさ」だっけ。」
「そう。「つばさ」で新庄まで行く。」
(新庄まで行くのはいいけど、もし2000番台だったら。数的に多いしなぁ・・・。)
心配のタネはそれだけだ。
8時52分。来た列車は「こまち」と同じ顔をしたE3系だった。ここは一安心していいだろう。この車両は山形新幹線が新庄に延伸開業したことに合わせて投入された車両。多数派の2000番台に比べ3編成しかおらず、単純計算4本まってようやっと来るという車両だ。
ドアが開く前に見に新幹線お約束のステップ。が出され、ドアが開く。自由席から降りてきたのはふつうの客ではなくサラリーマン。まぁ、このごろの新幹線はビジネス客が多いというのがふつうだが、この人たちが「つばさ」に乗っている理由は後々明らかにしていこう。
列車はスタートすると「こまち」の時と同様高い位置を走り、すぐに奥羽本線と合流する。奥羽本線に入ると難所として有名な板谷峠が待ち構えている。しかし、「つばさ」には遠い昔の記憶でしかない。ぐいぐい峠を上って日本海側に躍り出た。僕はこの間外の風景に見入っていたけど、レイのほうは寝て時間をやり過ごしていた。
(レイのやつ。昨日そんなに寝てないのか・・・。)
ふとそんなことを思った。
「間もなく、終点、新庄、新庄です。」
「おい。レイ。起きろ。」
「・・・。」
「レイ。起きろ。」
体をゆすっていたが、置きそうにない。しばらくゆすり続けていたら目を覚ました。
列車から降りたら、ここまで乗って来た1000番台を撮影。1000番台とはここでおさらば、山形までは普通で戻り、今度は山形から高畠までだ。
がんばれ東北。雪にも負けず、寒さに負けず。