「浦島太郎にならなかった男」
昔々、あるところに浦島太郎という若者がいました。
ある日浜辺を歩いていると子どもたちが亀をいじめているのを見つけます。
しかし太郎は、自分には関係ないとそこを素通りしました。
次の日も、その次の日も少年たちは浜辺で亀をいじめていました。
それでも太郎は、その横を通り過ぎていきます。
自分には関係ないからです。
そうして、その光景は村の日常になりました。
少年たちの怒号と亀の悲鳴を聞いても、ああいつものことかともう目を留める人はいません。
やがて浦島太郎は、妻をめとりました。子どももできて歳を取りました。
年老いて力の衰えた太郎は、もう漁に出ることもありません。
「あのとき亀を助けていたら、自分の人生はなにか変わっていただろうか」
浦島太郎だった老人は、死の床で一度だけそう思いました。
しかし、それを選ばなかったのが自分の人生です。
そうして、浦島太郎だった老人はそのまま家族に見送られて亡くなりました。
浦島太郎が死んでも、浜辺ではいつもと変わらずに子どもたちが亀をいじめています。
いつまでもいつまでも亀をいじめています。
今でもまだいじめています。
小説講座の課題で、昔話「浦島太郎」をもとに自分なりにアレンジして書いてみようという課題があったのでやってみました。
自分なりの作風とか作り方が見えて面白い課題だと思います。




