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東京八丈島メディア戦争~放送法4条とデイビット・ケイ勧告~

作者: takkun
掲載日:2026/06/14

「ここ八丈島に、日本国の移設を宣言しまあす」

高市早苗は東京都心から南へ約287キロの八丈島で高らかに日本政府の移設を宣言した。東京都内なので遷都でもない。事務手続きは法律・政令・条約の公布文に用いられる御璽と、国家の印章である国璽を偽物とすることで、150年分の法律をすべて偽物と断定し、円滑に実行された。2023年3月の総務省公式文書を捏造と答弁した前例のおかげで、官僚らによる作業は速やかに行えた。また、壇ノ浦沖海底より回収された草薙剣を含め、伊勢神宮の八咫鏡、皇居の八尺瓊勾玉、さらに明治維新の際につくられた錦の御旗をもって八丈島に内閣の機能を移転した。麻生太郎は親戚を連れて皇居新設を宣言。八丈島には戦国武将・宇喜多秀家の末裔が住んでいる、明治二年の赦免を拒絶して八丈島に残った一族だった。かれらは徳川幕府の存在を認めておらず、同時にそれを倒すことで成立した明治政府自体を否定していたため、高市早苗らを歓迎し、応援していた。


 これを受けて、永田町の国会議事堂では、あらゆる宝物を簒奪し亡命した高市内閣の不当性を決議、内裏内閣として東京都知事小池百合子を選出した。よって、永田町の小池百合子陣営と八丈島の高市早苗陣営らが真っ向から対立した。

 ある日のサンデーモーニング番組内で、京大元総長・山極寿一により、神通力のある動物、つまりキツネの類である旨を指摘されていた高市早苗は、逆にしっぽと耳をつけてのキツネダンスをTicktockで披露、多くの国民の支持を得た。さらに、八丈島宇喜多一族らと反共抜刀隊を設立し、島を武装化し市ヶ谷の中央指揮機能/指揮通信機能を掌握、完全防備態勢に入った。同時に、タヌキの類であると示唆された小池百合子もまた文字通り尻尾を出し、神通力による奇跡を披露した。つまり、稲川会系をはじめとしたヤクザ連合のアイク歓迎実行委員会(再)を再設立、八丈島の宇喜多一族ら反共抜刀隊に対し全面戦争を仕掛けようとしたが、燃料高騰とナフサ不足による部品不足で両陣営ともに船も飛行機も動かせなくなったため、メディアを使ったプロパガンダ合戦を展開した。報道の自由度ランキングは、日本が世界でぶっちぎりのビリとなった。

 こうした両陣営の統制下にあった、ラジオ局ニッポン放送とテレビ局TBSはプロパガンダ放送を拒否し、停波させられ独立を宣言した。


 ニッポン放送スタッフらは持ち運び可能な無線機材と、神通力で召喚されたゲストらとともに八丈島からいかだで脱出、第三陣営の準備した客船ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込んだ。まだ残されていた崎陽軒のシウマイ弁当で糊口をしのいだスタッフらは、シン・ニッポン放送を名乗り、オールナイトニッポン(ANN)はすべて海賊放送として改編した。

 

 三四郎ANN0ではゲストにニッポン放送DJ・糸居五郎と連合国軍最高司令官 · ダグラス・マッカーサー元帥を迎えていた。ラジオブースの外には進駐軍がびっしりと並んだ。金曜日27時の時報とともに、お笑い芸人三四郎の相田が口火を切る。

「ふつうさ、こういうのスポンサーの人とかじゃねえの。マジ軍人の方々怖いんだけど」

「いや~、われわれ二部、一部、二部と変遷してついに海賊放送ですよ。これもう何部といったらいいのか」

 そもそも今までも海賊ラジオだったじゃんと展開する小宮に対し、話はラジオ放送の歴史になった。相田がツッコミを続ける構図が続く。

 「え、なに?戦時中にラジオはプロパガンダとして東南アジアや満州で利用されたから、戦後、GHQによる政策で政府から独立したほうがいいってことで、電波監理委員会が設置された。へー」

 ゲストの糸居五郎はしみじみと語った。

「いや糸居さん、カフ上げないと。ラジオ何年やってんの」

 相田は続ける。

「え~と最初の『電波庁』設立は1949年6月に電気通信省の外局だった。まだ国の役所の中なんだ」

 マッカーサーが口を挟む。

「それでは独立性がないとダメだNe。同年12月5日に権限を政府から独立させろと私が指示しんだYo」

 翌1950年6月1日に電波監理委員会が発足したという。

 小宮が小ボケを挟む。

「え、放送ってじゃあ完全無許可のがいいってこと・・・?」

「それはそれで問題あるんじゃねえかな、よくわかんねえけど。テレビとかラジオって世論を動かせるんだから、ある程度規制はあったほうがいいんじゃね?どうなのマッカーサー」

「Yes,説明するとNe」

 1950年6月1日に電波庁を廃止して、総理府の外局として電波監理委員会が発足、同じ政党に属する者が4人以上にならないよう制限した。

 相田が相槌を打った。

「つまり、一党だけで多数決を取れないようにしたんだ」

 この形ならば、時々の政治判断だけでは放送免許を動かしにくい。現代のアメリカが採用するFCC方式である。

 小宮がすっとぼける。

「え、じゃあやっぱいっそ完全無許可のがいいってこと・・・?俺がこの番組で勝手に戦争開戦宣言して、勝手に玉音放送してもいい・・・?」

「それもちょっとまずいんじゃねえの。マッカーサー、バカ受けしてんだけど」

 マッカーサーは説明を続ける。

 1951年9月1日に初の民間放送が開始された。

 サンフランシスコ平和条約が発効された1952年4月、その二週間後には電波監理委員会の廃止法案が提出され、放送免許の権限は郵政省の管轄に戻された。これが現在も続いている。

 「じゃあ、マッカーサーはさ、放送免許は国からできるだけ独立したほうがいいって言ったけど、主権回復後に吉田茂内閣が速攻で権限を国に戻したんだ」

 小宮はさらにすっとぼける。

 「え、じゃあ政府が放送内容全部チェックしたほうがいいってこと・・・?」

 「いやちょっと極端だな、さすがにびくびくしながらしゃべるのいやでしょ、ブースの外の軍人さんらさっきから全然笑ってないよ。こんな感じで毎週放送すんのやだよ俺」

 「Yes, この頃、シゲル・ヨシダは規制を強める立場だった。ニホンジンは民主主義界の十二才の少年だNe」

 相田がマッカーサーに突っ込む。

 「問題発言すんな、炎上するぞ」

 糸居五郎はにっこりと、大きくうなづいた。

「だから糸居さん、ラジオなんだからうなづきじゃわかんねえって。マジ、何年ラジオやってんの。マジで。誰このお爺さんゲストに呼んだの」

 糸居五郎は饒舌に補足した。曰く、放送免許の剝奪権限/取消権限を国が持つかより独立性を高めるべきか、戦後ずっと議論されており、1964年の政府調査会の独立委員会否定、1997年の橋本行革での撤回、2003年の民主党が通信・放送委員会設置法案の複数回提出、2009年の民主党政権による「日本版FCC」と「言論の自由を守るとりで」構想、特に2017年の国連特別報告者デイビッド・ケイによる独立規制機関の設置勧告を日本政府は反対した点を強調した。同時期の国際比較でも、日本の電波法停止権限は厳しく、政府権限で報道の自由性を奪う可能性を持つものだった。世界では、1950年頃と同じ電波監理委員会方式が多い。さらに、最近では2021年の東北新社・NTTによる総務省幹部接待問題も語った。国と報道が癒着してはいけない。その状態が続くと、報道は死に、政府がおかしなことをしだしても何も言えなくなる。自由は減り、気づけばこうしたバラエティーも統制の対象になってしまいます、と明瞭に主張した。

「うん。うん。だからさ糸居さん、カフ!あげないと!全部聞こえないの!リスナーに!」

 小宮がぼそっとぼやいた。

「そもそも、各局が今まで政府に権限握られても大して文句言わなかったのって、放送局全体が放送免許制度と電波法で新規参入を阻んで、寡占状態を維持できたから、同罪なんじゃね・・・?」

「それでは始めていきましょう、三四郎のオールナイトニッポン、ゼロ!」

「ゲラへ~~!!」


 一日置いて日曜日の朝8時、いっぽうの東京・赤坂ではサンデーモーニングが放送を開始していた。

 あっぱれ!カカン!

 軽快なSEとともに、関口宏は説明パネルにマグネットを張り付けた。赤丸に太字で「あっぱれ」の文字がおどる。

 巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄はあっぱれを宣言した。

「虚偽答弁も武力をもって本物にする、これはあっぱれですね~」

 古狸・小池百合子による神通力で3時間スペシャルに合わせてよみがえった巨人軍名誉監督・長嶋茂雄はあっぱれをだす。

「ほう、あっぱれですか」

 関口宏は話の続きを促したが、長嶋茂雄は特に理由がなかったようでそこで話が止まった。


 このとき、TBSラジオとTV局のTBSもまた小池百合子らによるプロパガンダ放送体制から脱出、アルジャジーラTVと澤田大樹記者らの手により、有志による海賊放送局を設立した。場所も、スタッフらが勝手に引っ越し、TBSのすぐ前にずっと昔からある小さな民家を借りての海賊放送だった。古狸・小池百合子による神通力でサンモニ3時間スペシャルに合わせて蘇った長嶋茂雄と呼び戻された関口宏は、この日にゲスト出演していた。なぜ海賊放送になったのかという話題から、2017年の国連人権理事会が任命したデイビット・ケイによる日本のメディアをめぐる勧告に及んだ。

 「いやーつまりですね、あのガイタレ、デイビット・おケイさんの報告に対して、これに日本政府はブチ切れ反論を出したんですね」

 関口宏は冷静に訂正する。

「デイビット・ケイですね。ガイタレでなく国連特別報告者」

 眼鏡が特徴のキャスター、唐橋ユミがフリップをもって説明を始めた。

「日本政府の反論には『伝聞や推測』『日本の実情や文化について不正確』『客観的情報に基づかない偏った勧告』といった強い調子の言葉が並んでおります」

 長嶋茂雄は今度はあっぱれを出した。

「あっぱれ!いやー明らかに間違ってるときでも、士気をあげるためには監督は審判に抗議するじゃないですか。批判の本質的部分には一切答えないという態度、一軍の将としてあっぱれ!」

「ほお。あっぱれですか」

 関口宏はぞんざいにあっぱれマークをフリップに張り付けた。

 甦っていただくなら、野球以外に関しては静かな大沢親分の方がよかったんですが、とは口が裂けても言えなかった。

「唐橋さん、お願いします」

「ちょっと整理しましょう。総務省文書の作成は2014年、極端な場合には一つの番組だけでも政治的公平違反になり得るとの『補充的説明』の総務相国会答弁が2015年。さらに、総務大臣の停波を示唆する発言と、古舘さんらアナが一斉に降板したのが2016年、放送法4条をめぐる官邸と当時の総務大臣とのやり取りも記載された総務省文書が見つかり、問題視されたのが2023年ですね」

「電波停止そのものを定めているのは、放送法第四条ではないんですね」

「はい。放送法第四条は政治的公平などの番組準則で、停止権限の根拠は電波法などにあります」

 唐橋ユミアナが追加する。

「おケイさん来日と匿名記者らのインタビュー情報収集も2016年頃でしたね」

 関口宏は冷静に訂正する。

「おケイさんでなくデイビット・ケイですね。唐橋さん、あなたまで」

 長嶋茂雄がよどみなく続ける。

「ん~つまり、放送法4条の『政治的公平』の拡大解釈でメディアが圧力受けてたわけですか。トルコ、タジキスタンとともに日本が批判されたので、政府は監督のように立ち上がったのですね。制度に弾圧の危険性が内在していると指摘されても、日本政府はそんなことしない!と強く主張した!素晴らしい。よその国はもっとひどいとこあるだろって反論もね、いいですね。審判への抗議のさいは、相手チームの反則もよく上げ足とりにいきますからね。わかりますよ。ちなみにその、総務省の行政文書の内容って何なんでしょ?」

 関口宏が口をはさんだ。

「長嶋さん、あなた賢いんだか天然だかわかりかねますね。いったん、コマーシャルです」

「え、でも海賊放送にスポンサーつくんですか」

 長嶋茂雄の発言にかぶさるようにアイキャッチが流れた。

~♪サンデー、モーニング~♪


 CM明け、唐橋ユミが引き継いで説明する。

「はい、小西議員によって公開された78枚の総務省行政文書のうち、放送内容の『政治的公平』を定める放送法4条に関する議論です。従来、一つの番組だけでなく放送局全体の編成をもって、極端に特定の政党に肩入れしていないか、という判断基準が定められていました。これを特定の番組の内容をもって公平性を阻害した場合に適用できないか、という解釈を当時の官邸はすすめようとしていました。このとき、『TBSとテレビ朝日よね』『本当にやるの?』といった総務省大臣の発言が記載されています。当時の総務大臣は民放への圧力を強化する官邸に、全面対立の警戒を促す様子もうかがえます。拡大・縮小いずれにせよ、広く議論した結果でなく、官邸自らが法解釈の変更を行う手続きの問題が批判を集めています」

 「2016年のおケイさん来日時点では、当然こうしたやり取りは認識の埒外だったと思われますが、おケイさんが危惧されていた通り、放送法4条の解釈は民放への圧力を高めるものだったんですね」

 長嶋茂雄が合いの手を入れる。

「あっぱれ!なんかわかりませんが、おケイさんは予知していたんですね!放送法4条の使い方!じゃ、結局あんなに国連にブチ切れてた日本政府は、予測された通りのことしてません?」

 関口宏がたしなめた。

「まあそうなんですが、長嶋さん、よくわかってないのにあっぱれはちょっと・・・」

 あっぱれマークをフリップにゆっくりと貼った。

 唐橋ユミは続ける。

「このとき、テレビ朝日と弊社TBSが俎上に上がっていたことは、確かなようです」

 長嶋茂雄が即座に合いの手を入れる。パネルを挙げるのが楽しくなっていた。

「喝!名指しされてるTBSの特定の番組、いったいどの番組なんでしょう!喝だ!喝!」

「ほお。喝ですか」

 関口宏は喝のマグネットを自身の右胸に一枚貼る。

 唐橋ユミは続けた。

「その後、文書作成時の総務大臣は、2023年にこの文書の存在を捏造であるとし、捏造でなければ議員辞職するのかと問われて『結構ですよ』と発言しました」

 長嶋茂雄は驚いた。

「え!捏造だったんですか」

「いえ、本物であると公式に確認されています」

「へ~!じゃあ議員を辞められたんですね」

「いえ、今も現役で在職です」

 長嶋茂雄は憤る。

「喝!今その総務大臣は今何されてるんでしょうね?喝だ!喝!喝!」

「ほお。喝ですか」

 関口宏は喝マークのマグネットをフリップに三枚重ねた。

「いったん、コマーシャルです」

~♪サンデー、モーニング~♪


 この後、テレビ、ラジオ、新聞、オールドメディアと呼ばれるすべての報道機関は小池百合子陣営からも高市早苗陣営からも脱出、すべてが勝手に放送して勝手に出版する海賊メディアとして独立し、報道の自由度ランキングを決めるスコアは日本がカンスト、見事ぶっちぎりの一位を獲得した。

 不思議なことに、同時期に高市早苗も小池百合子も神通力を失った。こうして通常国会が再開され、放送法4条が改正される。メディアの独立性の法的根拠の更新は1952年以来になる。

 話は金曜深夜に戻る。三四郎のオールナイトニッポンは放送の終盤、相田が糸居へ促した。

「糸居さん、やっとカフの使い方分かった?じゃあ、もしよかったら〆てくれますか」

 いつもの、オールナイトニッポンの軽快なテーマが流れる。

「はーいこんばんは!オールナイトニッポンGo!Go!Go!」

「あ、まって、そういやろくに糸居さんの紹介してなかったわ。今更だけど」

 相田はBGMをバックにカンペを読みあげた。

「え~と?糸居五郎は、ラジオの深夜放送を約30年間を続けた、日本のディスクジョッキーの草分けである。戦時中は満州に勤務し、また同僚らも東南アジアでプロパガンダ放送に協力していた。戦後、深夜の若者たちに音楽で寄り添う放送へと在り方を変えた、象徴的人物、日本ラジオ業界の祖である。1967年に始まり、今も続くオールナイトニッポン。その第一声を発したのが、糸居五郎である。・・・って三十年やってたらカフくらい知ってるだろ!」 

 ディレクターとの阿吽の呼吸によって、最後のフレーズにエコーがかけられた。

 糸居五郎は、幾度となく電波に乗せて来たセリフを、よどみなく発声した。

「はーい、夜更けの音楽ファンこんばんは。明け方近くの音楽ファンおはようございます。君が踊り、僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれる。太陽のかわりに音楽を、青空のかわりに夢を。新しい時代の夜をリードするオールナイトニッポン、Go!Go!Go!And Goes On!」(了)

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