0x33 エピローグ② 新たな謎と、忍び寄る歪んだ残響の影
それから──
ある日の夕方。
薄暮の街に沈むマンションの一室。柔らかな天井のライトが、テーブルに静かに置かれた白いカードに淡く反射していた。
「みんな、来てくれて……本当にありがとう」
透華の声は穏やかだったが、その響きにはかすかな緊張がにじんでいた。
朔、凛、バルス。
ミステリー倶楽部の仲間たちは、彼女の一挙手一投足に息をひそめている。
「これは……体育館で犯人が落としていったカード。
カードの表面には文字だけ一切書かれていなかったけど、色やデザインがうちの職員証にそっくりだったからずっと気になっていたの」
透華が指先でカードに触れた瞬間、朔の眉がわずかに動いた。
「……それ、ずっと保管してたのか?」
「ええ。自分じゃ解析できなかったけど……理系の大学生の知り合いに解析を頼んでいたの。
彼、ちょっと変人だけど腕は確かで……カードの内部構造を解き明かして、専用のアプリまで作ってくれたの。おかげさまで、過去に記録されていた命令も、全部読めるようになったわ」
そう言って透華はスマホを取り出し、カードにかざした。
すると、画面いっぱいに16進数の羅列が浮かび上がる――それを見た途端、彼女の表情がわずかに揺れた。
「みんなみて、この日時のところ……。この行からよ!」
45 4E 49 47 4D 41 20 54 4F 20 4F 52 49 48 49 4D 45 3A 20 4F 42 53 45 52 56 45 20 54 4F 4B 41 20 41 4E 44 20 52 45 50 4F 52 54`
「この日時の範囲をASCII変換すると、“ENIGMA TO ORIHIME: OBSERVE TOKA AND REPORT”」
すると、凛が小さく息を呑む。
「ねえ、透華?
“ENIGMA”はたぶん誰かの名前を指している……ちがうかな?」
「ええ。凛、あなたの言うとおりよ。
“ENIGMA”はきっと母では無くて、母が従っていた“誰か”。
そして……母のことを指しているのはコードネーム“ORIHIME”のほう……」
バルスが不思議そうに顔を傾けた。
「あの、透華さん?お母さんがそのコードネームって……どうして分かったんですか?」
透華は窓の外に視線を送り、小さく笑みを浮かべた。
「それはね……私がまだ幼かった頃、七夕の夜だったの。
私は母と一緒にベランダに寝そべって、星を見上げてたのよ」
凛がそっと頷く。バルスは目を細め、静かに耳を傾けた。
「母は星座が好きで、星の名前とか神話とか、いつも楽しそうに話してくれた。あの夜も、織姫と彦星の伝説を聞かせてくれたの」
その語り口は、どこか懐かしさに包まれていた。
「“織姫は彦星と一年に一度しか会えないのよ”って母が言ったとき、私……ふと思ったの。
“お母さんって、織姫みたいだね。ずっと彦星を探してる織姫みたい”」
朔が小さく息を吐いた。透華の言葉は、心にじんと染みていく。
「その時、母はちょっと驚いた顔をして、それから笑ったのよ。“あなたの願いを紡ぐのが私の役目よ”って言ってくれたの。
私はその言葉がずっと忘れられなくて……」
透華の目が静かに揺れる。
「それが、“ORIHIME”――母のコードネームの由来だと、私が推理したきっかけなの。
それに、理由はもちろんそれだけじゃないわ。
いつか母がいない時にこっそり盗みみた研究ノートに“O.H”って何度も書かれてて……その時点で確信したの」
朔が低くつぶやく。
「ってことは……お前(透華)の母さんは、“ENIGMA”の命令でお前(透華)を監視してたってわけか。でも、それ以上の証拠は——」
「ええ、残されていなかった。
この証拠は母がミスしたからこそなのか、あるいは……何か意図があったのか。それはまだわからない。でも、この命令は確かに、“誰か”が母を動かしていた証拠なの」
透華の瞳は鋭く光るが、その奥には揺れる想いが見え隠れしていた。
「次は“ENIGMA”を見つけるわ。
母の背後にいた、本当の黒幕を——」
その言葉に、部屋の空気がピリッと張り詰める。
冗談や遊びじゃない。誰もが、この“探偵ごっこ”の背後に、より大きな組織が暗躍しているだろうことを薄々感じとっていた。
そして——透華の心には、今もなお母の残した“足跡”に、母に向けた複雑な想いが息づいていた。
翌日の放課後——
夏の余韻が漂う中、心象学園の放課後に日常が戻る。
鎮向ミステリー倶楽部の部室では、透華がクールな表情で本に視線を落とす。
朔が一人黙々と部の雑務をこなす一方で、
凛はスマホでインスタからバズりネタを探す。
バルスは一人黙々とダンベルを上げ下げする。
それは、彼らのいつもの平和な光景だった。
トントン!
そんな、各々が自由に過ごす部室に、突然、ドアのノックが響く。
「どうぞ」
朔が答えると、スラっとしたスタイルの男子高校生が現れる。
ゆるふわパーマの前髪で片目が隠れ、ミステリアスな雰囲気を醸し出す美少年。
「へぇー!
ここが噂の"観光ミステリー倶楽部"ですか?」
「"鎮向"な」
「おやおや失礼。"休校ミステリー倶楽部"だったんですね」
「あんたそれ、わざと言ってるだろ?」
「そうですよ。僕たちの"卍向ミステリー倶楽部"をそんなふうに言わないでください!!」
「な──!?」
そんなバルスの迷言に、他の部員たち一同は、まるで彼を射殺さんばかりの鋭い眼光を浴びせた。
「だ……だよな……朔?」
気まずくなったバルスは朔に若干ひきつった笑顔でサムズアップをする。
「はぁ〜まったく。バルス! 話が余計ややこしくなるから……とりあえず、お前は少し……爆ぜとけ!」
しかし、そんな朔達の漫才を綺麗にスルーして、美少年の視線は透華に一直線。
「君が透華さんだね。
噂通りに美人だね。そして、スタイルも抜群って本当だったんだ」
彼は白い歯をちらりと覗かせ、輝く笑みを浮かべた。
部室の空気がピリッと張り詰める。
凛は顔を真っ赤にして無言で彼を見つめている。
「こいつ、何!?」
朔は身構える。
透華は本をパタンと閉じると、
落ち着いて言葉を紡ぐ。
「あなた、我が倶楽部に何か用かしら?」
「単刀直入に言うね。
僕は君に一目惚れしたよ。
だから、僕との交際をかけて、
透華さん。
君に推理勝負を申し込む!」
彼はみんなの前でそうハッキリと宣言した。
「透華と交際ーー!?」
朔が声を荒らげる。
「ルールはこの紙にまとめておいたよ」
ルール説明
乙が紙に書いた秘密を、甲が当てる。
そして逆も同じく、お互いに相手の秘密を当てることが目的。
勝敗とやり直し
引き分けの場合は、再挑戦とする。
手順
1. 今日の放課後、時間が被る瞬間が無いように甲乙それぞれが誰も使っていない音楽室へ行く。
2. 白紙と鉛筆を持参し、名前とそれぞれ秘密を紙に書く。
3. 書いたらすぐに裏返し、伏せた状態で風で飛ばないように音楽室内のどこかの机の引き出しに入れる。
4. その後、部屋を退出する。
監視と公平性
監視カメラや盗聴器の類は設置されていない。
疑われるのを避けるため、検知器とサンプルの盗聴器・監視カメラを貸与する。
監視カメラや盗聴器を仕掛けたことが発覚した場合、その者は失格とする。
「そして、
負けた方は、勝った方の頼みを一つ聞く。
探偵名乗るからにはもちろん受けてくれるよね?
もし、受けてくれなかったら……」
「受けなかったらどうなの……、
もったいぶるなんてどういうつもりかしら」
「僕の父の会社、君の頭脳研究のスポンサーなんだ。
君が普通の人間では無いことを周りのみんなにバラしたり、
君の居場所を父にバラしちゃおうかな?
どう、受けて立ってくれる気になった?」
すると透華は目を細め、微かな微笑みを浮かべた。
「面白いわ。受けて、立ちましょう」
「ちょ、透華!?」
「朔は黙ってて。
これは私の問題だから」
「交渉成立だね」
「じゃあ、早速楽しい推理ゲームを始めましょうか、透華さん」
男子は満足げに口角を上げると、
不敵な笑みを浮かべ微笑んだ。
こうして、歪み探偵鎮村透華の新たな非日常が幕を開けた。
fin
最後まで読んでくださりありがとうございました。
透華達の物語、実はまだ構想がありまして……、
最近、ゲームや実写映画化で話題の「8番出口」
、リアル脱出ゲーム、テンプルですが嵐の日の孤島や豪華客船内でのクローズドサークル等、着想には事欠きませんので、
いつか是非 第二部 『リアルリアル脱出ゲーム編』も書けたらなと思っています。
※この物語は、架空の話であり、法律や法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
当方では一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。




