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0x30 迫り来る組織の影

母親の言葉に、透華は凍りついた。

「安全に暮らす?」

透華の脳裏に、幼い頃からずっと感じていた不安が鮮明に蘇る。

自分が常に誰かの監視下に置かれている感覚。

その違和感の正体が、今、目の前で微笑む母親の言葉によって明確になった気がした。


「世界のため、ね……」

透華は冷めた目で母親を見つめ返した。

言葉の裏に隠された、打算的な響き。

母親は透華を心配しているのではない。

ただ、透華の「知性」という商品を、より高く、より安全に売却したいだけなのだ。


「私の知性を、あなたたちの都合のいいように使いたい、と。それが『世界のため』という大義名分なのね」

透華の声には、怒りとも諦めともつかない感情が混じっていた。


朔は、透華と母親の間に流れる張り詰めた空気に耐えきれず、一歩前に出る。

「透華さんのお母さん、それはどういうことですか? 透華さんを道具のように扱うなんて、そんなこと……」


朔の言葉を遮るように、透華の母親は表情を変えずに朔を見つめた。

「朔くん。あなたには、このプロジェクトの規模が理解できていないわ。

透華の知性は、人類の未来を変える可能性を秘めている。それを、個人的な感情で拒否するなんてできないのよ」

母親の言葉は、まるで鋼鉄のように冷たかった。そこには、透華への愛情など微塵も感じられない。あるのは、自らの研究と、その成果に対する絶対的な自信だけだ。


「透華の人生は、透華のものだ! 

誰にも、こいつの自由を奪う権利なんてない!」

朔は、怒りに震える声で叫んだ。


凛は、朔の隣で心配そうに彼を見つめている。

バルスは、ただ沈黙し、この状況の行く末を見守っていた。


透華は、ゆっくりと顔を上げ、母親に向き直った。

「お母さん。私は、あなたの『実験動物』じゃない。あなたの『理想の知性』でもない。私は、私よ」

透華の瞳には、強い光が宿っていた。

それは、これまで見せたことのない、明確な拒絶の光だった。


「私の知性が世界を変える? ふざけないで。私は、あなたたちの都合のいいように使われるために生きてきたんじゃない。

これ以上、私を操ろうとするなら……私は、もう二度とあなたに会わない」

透華は、母親に背を向けた。その表情は、決意に満ちていた。


母親は、その場に立ち尽くす。

透華の言葉は、彼女の予想を遥かに超えるものだった。

彼女は、娘が最終的には自分の計画を受け入れると信じていたのだ。


「透華、待ちなさい! 私は、あなたの身の安全を心配して言っているのよ!」

母親の声が、部屋に響き渡る。


しかし、透華は振り返らなかった。


透華の母親は、朔の両親に視線を向けた。

「お二人とも、見ての通りです。

透華は、私を拒否している。

このままでは、娘の身に何が起きても、私にどうすることもできません」

母親の言葉には、透華に対する脅しが込められていた。


朔の両親は、困惑した表情で顔を見合わせる。

「それは……透華さんに対する脅しですか?」

朔の父親が、震える声で尋ねた。


「いいえ。これは現実です。研究が滞って以降、

透華の知性を狙っている者は、他にも大勢います。

娘が私たちの管理下にない限り、いつ何時、何が起きるか……保証はできません」

母親は、すがるような目で朔の両親を見つめた。


透華は、ゆっくりと部屋のドアに手をかけた。

「透華!」

朔が、思わず叫んだ。透華は振り返ることなく、静かにドアを開け、部屋を出て行こうとする。


その時、透華の母親が、静かに、そして確信に満ちた声で呟いた。

「もし、あなたが私たちの元を離れるなら……私たちは、あなたの『父親』に、協力をお願いするしかないわね」

その言葉が、透華の動きを止めた。


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