0x2A 些細な違和感
タクシーは夜の街を抜け、朔の家の前に静かに停まった。
外はひっそりとしていて、路地の街灯がぼんやりと家々を照らしている。
「……着いたわね。」
透華がスマホを確認すると、朔からのメッセージはまだ届いていない。
凛は少し緊張した面持ちで車を降りる。
「朔くん、もう帰ってるよね……?」
バルスは周囲を見回しながら頷いた。
「先ほどの通話の様子からすると、家にいるはずですが……。」
透華は少し息を整え、玄関の前まで歩みを進める。ドアの前で立ち止まり、軽くノックした。
「朔、私よ。」
数秒の沈黙。
そして、ゆっくりとドアが開いた。
「……透華?」
朔の姿が現れた。だが、いつもの落ち着いた雰囲気はなく、目の奥には強い不安が宿っている。
「入ってくれ……。」
透華、凛、バルスの三人は互いに視線を交わしながら、静かに屋内へ足を踏み入れた――。
朔の家——。
家の中は整理されていて落ち着いた雰囲気だが、どこか重たい空気が流れている。
リビングへ進むと、朔の母が穏やかな笑顔を浮かべながら迎えた。
「こんな遅い時間に来てくれて……ありがとう。」
「こんばんは、お邪魔します。」
透華は軽く微笑みながら挨拶する。
「初めまして、草日です。お邪魔します。」
バルスは礼儀正しく一礼した。
「こんばんは……こんな時間にすみません。」
凛も少し遠慮がちに頭を下げる。
「いいのよ、座ってちょうだい。」
朔の父が食卓を示す。
「ちょうど夕食ができたところだから、一緒に食べましょう。」
透華はふと、心の中に違和感を覚えた。
(蜜柑ちゃんが行方不明なのに……こんなに落ち着いて食事を?)
しかし、その疑念を顔に出すことなく、軽く頷いた。
「いただきます。」
食卓には温かい料理が並び、香ばしい香りが広がる。
「とても美味しそうですね」
凛とバルスも微笑む。
食卓の雰囲気は一見穏やかだが、朔だけはあまり箸を進めず、視線を落としている。
ブー!(マナーモード)
LIN I
透華→朔
ねえ、朔?
蜜柑ちゃんのスマホは見つかった?
ブー!
LIN I
朔→透華
ああ、あいつの部屋にあったよ。
すると、透華は朔の両親の方に向き直り言った。
「あの……、蜜柑ちゃんがいなくなったのって、三時間前なんですよね?」
透華が自然な口調で尋ねると、朔の両親の動きがわずかに止まる。
「ええ……気づいたら、いなくなってて……。」
朔の父が答えたが、その言葉には妙な冷静さがあった。
「その時、家の中は変わったことはなかったですか?」
朔の母がほんの少しだけ表情をこわばらせた。
「……特に何も。」
透華は、その一言に微かな違和感を覚えながらも、話題を変えた。
「……御手洗をお借りしてもいいですか?」
「ええ、廊下を進んで右よ。」
透華は立ち上がり、ゆっくりと廊下を歩いていった。
透華はトイレの扉を閉め、しばらく静かに息を整えた。
水を流し、手を洗うために洗面台へ向かう。
その時、ふと視線が端にあるケースへと向かった。
目の端に映る、ほんの些細な違和感。
透華は無意識に手を止め、ゆっくりと目線を上げた。
「……。」
彼女の胸に、じわじわと疑念が広がっていく――。




