0x28 蜜柑の失踪
書斎にはゆっくりとした時間が流れていた。
夕暮れの光はすでに薄れ、窓の外の街の灯りがちらほらと輝き始めている。
透華は紅茶を飲みながら、凛の反応を慎重に見つめていた。
その沈黙の中で、凛が何かを言おうとしたその瞬間――。
――着信音が静寂を破った。
透華のスマホが軽く震え、画面には「朔」の名前が浮かんでいる。
「……朔?」
「誰から?」
「朔が……、急用みたい」
「朔くん、急いでるんでしょ?
早く出てあげて」
「凛、ありがとう」
透華は眉を寄せながら、カップをテーブルに置き、すぐに通話を受けた。
『透華……ちょっと、やばいことになった……!』
朔の声がいつもと違う。焦りと困惑が入り混じっていた。
「どうしたの?」
透華は瞬時に警戒を強める。
透華の書斎に緊張が走る。スマホ越しに聞こえる朔の荒い息遣いは、彼の混乱を物語っていた。
『蜜柑がいなくなったんだ……!』
「え……蜜柑ちゃん?
蜜柑ちゃんスマホ持ってるって言ってたわよね?
連絡つかないの?」
「ああ、何度もかけてみたけど
繋がらないんだ」
「ねえ、それって、いつから?」
朔の呼吸は少し乱れていた。
『……親が言うには、三時間前から。
でも、それが……なんか変なんだ……。』
「どういうこと?」
透華の問いに、朔は一度息を飲み、言葉を慎重に選びながら続ける。
『今日は不審者がいるから、外出はさせてない。買い物にも行ってないし、誰の訪問もなかった。なのに……気がついたら蜜柑がいなくなってたって……。』
透華は眉を寄せた。
「……それって、何かおかしくない?」
朔は苦々しく言葉を吐き出す。
『そうなんだよ……親父もお袋も言ってることが変なんだ……!』
透華は指でカップの縁をなぞりながら考える。
「朔が蜜柑ちゃんを最後にみた場所は?」
『今朝。俺が透華と外出する前は、確かに家の中にいた。透華も会っただろ?
その時が最後だ。あいつ普段通りだったのに……!』
透華は静かに息を整える。
「……じゃあ、家の中で何も起きていないのに、蜜柑ちゃんだけが忽然と煙のようにいなくなるなんて……普通、考えられないわ。」
朔は苦しげに声を絞り出す。
『そうだろ……!?
それなのに、親はただ“気付いたらいなかった”しか言わねぇんだ……!』
透華の瞳が鋭くなる。
『だから悪い!
俺、今から直接、親と話してくる。』
「あ、ちょ」
ツーツーツー。
透華はスマホをゆっくりテーブルに置き、紅茶のカップを見つめる。
凛は不安そうに透華を見つめていた。
「透華……朔くん、大丈夫なの?」
透華は静かに考え込む。
「……何かがおかしい。でも、今の朔は止められない。」
凛は唇を噛みながら、カップを手に取る。
「私たち……どうする?」
透華は目を細め、慎重に次の行動を考え始めていた――。
透華は静かにカップを手に取り、紅茶を口に運んだ。だが、落ち着いている場合ではない。
「……朔の両親の話、やっぱり矛盾があるわ。」
凛は不安そうに透華を見つめた。




