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歪み探偵鎮村透華の事件簿  作者: 憮然野郎
File#1
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0x3 プロファイリング♯1

放課後の体育館は、部活に励む生徒たちの熱気とボールが弾む音で満ちていた。

しかし、その喧騒とは裏腹に、体育館の一角には冷たい空気が漂っている。


透華は、フリーハンドで描かれた体育館の見取り図を手に、腕を組んで立っていた。

そして、その隣には幼馴染の日向朔とクラスメートの朝比奈凛がいる。


「まずはプロファイリングから始めるわよ」

透華は二人に向かって言った。


「プロファイリング?」

凛は首を傾げる。


「犯人像の分析技法よ。現場に残された状況をもとに、統計的な経験と過去の事例、心理学の両面から犯人像を推理するの」

透華は説明した。


「人種、年齢、生活態度などを特定していくんだろう?」

朔は興味深そうに言う。


「そうね、だいたい合ってるわ」

透華は頷いた。


「ねえ、凛? 凛が最後にボールを見たのはどこ?」


「え? 使った後、備品は直さなきゃだから、体育館倉庫の用具入れじゃないかな……」

凛はやや控えめな声量で言葉を濁した。


「本当に? 使った後、確かに体育館倉庫にボールを戻したと自信を持って言える?」


「うっ……。そう言われると自信は無いかな……」

凛は困ったように笑った。


「確実に覚えているのはどこ?」


「あの白線のエリアの中で練習してたから……。

あっー!

白線の横の壁際で休憩した記憶があるから、あそこかも」

凛は壁際を指差す。


「ありがとう」

透華は手に持った見取り図のその場所に星印を付け、そして凛の名前を書き込んだ。


「ねえ凛、それはいつ頃?」


「確か……二日前の放課後だよ」


「時間は?」


「覚えて……ないかな。ごめんね……」

凛はそう言って首を傾げた。


「その時、窓の外はもう暗かった?」


「いいえ、まだ暗くなくて。

あ、でも夕陽が眩しかったよ」

凛は思い出したように言った。


「三日前から天気は良いわよね。

今は夏で夕陽が見える時間だとしたら、18時半か19時の間が怪しいわね」

透華はそう言い終わると、見取り図の凛の名前の下に時間を付け足した。


「なるほどな」

朔は納得したように頷いた。


それから透華たちは、放課後の部活で体育館に残っている生徒や先生たちに、二日前から無くなったボールについて、一人ずつ事情を聞いて回った。

聞き取りの方法は凛にしたものと同じで、話を聞いた人たちの証言を見取り図にどんどん書き込んでいく。


「それで結局、何か分かったのか?」

朔が尋ねた。


「ええ、いくつか気になったことがあるわ」

透華はそう答えると、体育館全体を見渡した。


「まず、この体育館。見通しが良すぎるとは思わない?」


「え、見通し?」

凛が不思議そうに聞いた。


「そう。物が消えるにしては、隠せる場所が少ないの。もし意図した犯人がいるとしたら、この広い体育館内を、誰にも疑われずに短時間で探し回る必要があるわ」

透華は説明した。


「まあ確かに」

朔が頷く。


「それに、この体育館には窓が、天井近くの高い位置にある換気窓しか無いわ」

透華は続ける。

「手の届く場所に窓がないということは、犯人が限られた出入り口を通ったことになるわ」


「あっ、そうか! つまり犯人は、この体育館の構造を熟知している人間ってことか?」

朔が推理した。


「そうね。それに、この体育館は古い割には警備が厳重なの」

透華は言った。


「体育館内を俯瞰できる警備カメラがあるし、警備員の巡回も頻繁。

犯人は警備の目を掻い潜ってボールを隠す必要があるわ」


「ということは、犯人はこの学園の関係者ってことか?」

朔は言う。


「可能性はあるわね」


すると凛は別の可能性を指摘した。

「ねえ、透華? ボールの中のICタグだけ抜き取った可能性は無いの?」


「それは考えにくいわ。朔には一度話したけど、わざわざリスクを犯してまでボールからICタグだけを抜き取って現場にICタグという重要証拠を残す犯人のメリットがわからないから」

透華は否定する。


「なあ、透華?

犯人がICタグの位置情報をハッキングしてボールごと既に持ち出しているとすればどうだ?」

朔は別の可能性を提案した。


「そうね。実は私もその線は疑ってるの。

でも、管理システムのファームウェア周りには手が加えられた形跡はなかったし、これと言った証拠は無いから推測の域を出ないのよね。

 あと他に考えられるのは、偶然の紛失でたまたままだ発見できていないケースだけど……、今回の事件、何か人為的と言うか、不自然な気がするのよね……」


「なあ、透華? ところで、凛さんからもらった学内の過去の備品紛失リストはこんな時役にたたないのか?」


「もちろん読んだわ。

それを読んで私が思ったことは三つ。

一つ目。

備品の紛失事件が起き始めたのは、一年半前、丁度一年三ヶ月前よ」


「それは、私達二年生が入学した月だね」

凛はすかさず指摘する。


「そうよ」


「じゃあ、もう一つはなんだよ?」


「もう一つはね、過去の備品紛失事件のほとんどが場所も紛失物もバラバラで、誰でも簡単に人目を盗んで持ち出せるものばかりなのよ」


「それがどうして分かったことに繋がるんだよ」


「私の直感。確証があるわけじゃないんけど、

強いて共通点を上げるなら、

何かしらの意図や法則性が見えてこない事と、盗難が容易な点かしら。

だから、これらは本命を誤魔化す為のフェイクかなって……」


「まじか……」


「透華?それで、最後のもう一つは?」

凛が不思議そうに聞いた。


「ごめん……、今はまだ言えない……かな?」


「え、どうして?」


「これも、まだ確かな根拠は何も無いんだけど、誰かが私達の行動を観察してる気がするの……。

そして、もし、この三つ目を私が凛や朔に話しちゃったら……」


「バラしちゃったらどうなるって言うんだよ?」


「不要なリスクは背負いたくないし。

今はまだこの点は詮索しないでおきましょう。朔、それでいい?」


「あ、ああ。透華、お前がそれでいいならな」


「凛もそれで大丈夫?」


「う、うん……」


「だとしたら、まずは偶然紛失したというケースからあたっていきましょう。

そこで有用なのはバイアスね」


「バイアス!?」

朔と凛、二人は聞き返した。


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