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0x22 守りたい背中と繋がれた手

神社——。


透華は、朔を連れて、人気のない裏道からひっそりとした神社へと足を踏み入れた。

朱色の鳥居をくぐり、苔むした石段をゆっくりと上る。静寂に包まれた境内にたどり着くと、透華は深く、そして震えるような息を吐き出し、意を決したように振り返った。


「もう、隠す必要はないわね」



「どういう意味だ?」

朔は、透華のいつもとは違う、どこか張り詰めた横顔に驚きを隠せない。

その瞳は、透華の言葉の意味を探るように揺れていた。



透華は静かに、だけど真っ直ぐに朔を見つめ、細められた瞳の奥に秘めた決意を滲ませる。

慎重に、一つ一つの言葉を紡ぎ出した。


「私はね、あの貸衣装店で店員に返却時の様子を聞いた段階で、凛と草日君が犯人じゃなくて、他の何者かに利用されていたことに気づいていたの」


朔は息をのんだ。透華の言葉は、彼の胸に鈍い衝撃を与えた。


「……じゃあ、なんで今まで俺に言わなかったんだ?」



その問いに、透華は少し目を伏せた。

その一瞬の沈黙に、様々な感情が渦巻いているのが朔には見て取れた。

そして、意を決したように再び朔をまっすぐに見つめた。


「真相を知ってしまえば、朔が命を狙われる可能性があったからよ。

あなたを、これ以上危険なことに巻き込むわけにはいかなかったの」


朔の表情がみるみるうちに険しくなる。

透華の身を案じる気持ちと、何も知らされていなかったことへの悔しさがない交ぜになった感情が、彼の顔に浮かんでいた。


「……透華、お前……!」


透華は、朔の心配を押し返すかのように、強い口調で続けた。

その声には、朔を守ろうとする透華の強い意志が込められていた。


「だから、あなたは今すぐ家に帰って、ご両親や妹さんを守ってあげて!

それが……あなたにできることよ」


朔は、怒りと焦燥から拳を強く握りしめ、眉間に深い皺を寄せた。


「違う!危険だからこそ、透華一人に任せられるわけないだろ!俺だって……!」


しかし、透華は朔の言葉を遮るように、そしてまるで自分自身に言い聞かせるかのように、感情を押し殺した声で言った。

「あなたには私のような頭のキレも、些細な違和感に気付く能力もないでしょ!

邪魔になるだけよ!

だから、帰って!」


そんな透華の突き放すような言葉に、朔の瞳が大きく揺れる。

まるで、透華との間に見えない壁が作られたようだった。


透華は、溢れそうになる涙を必死に堪えながら、朔から背を向け、その場を離れようとする。

その一歩一歩が、彼女の心を引き裂くようだった。


だが、次の瞬間――。

朔は、透華の細い手首をギュッと掴んだ。

そして、透華が振り返る間もなく、その華奢な身体を強く、だけど優しく抱きしめた。


透華の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まる。


朔の腕の中で、心臓が激しく、これまでにないほど速く脈打っていた。


彼の体温が、透華の凍えそうな心を少しずつ溶かしていくようだった。


朔は、透華の耳元で低く、穏やかに、しかし力強く言った。

その声には、彼の決意と、透華への深い想いが込められていた。


「俺はもう逃げない。弱くない。……先輩と、約束したんだ」


そして――。

「透華、俺は、お前だからこそ、一人で行かせたくないんだ」

その言葉と共に、朔は透華の頬にそっと手を添え、ゆっくりと、そして熱く、透華の唇に触れた。


透華は、あまりの驚きと、初めての感触に、身体中の力が抜けていくようだった。

思考が停止し、ただ朔の唇の温かさだけを感じていた。



朔はその後、そっと目を開けると、透華の目をしっかりと見つめながら、その瞳の奥にある真剣な光を透華に届けた。


「俺は、お前が好きだ。だから……」

透華は、激しく脈打つ心臓の音を聞きながら、乱れた息を整えるように深く呼吸し、朔の真剣な眼差しを真正面から受け止めた。


「返事は、今度でいい……。だけど今は、俺と一緒にいてほしい」

朔の言葉に、透華の瞳が潤む。

その言葉は、透華の心に深く響いた。


「ええ、返事はお預けよ……。

だけど……何かあったら、絶対、私を頼ってよね……。一人で危険な行動なんてしないで」


朔は、透華の言葉に力強く頷いた。

その瞳には、透華への誓いと、共に困難に立ち向かう覚悟が宿っていた。


「ああ、わかった。約束する」


「それと……、もし私に何かあったときは、

そのときは……私を護ってね……」

透華の少し甘えるような、それでいて真剣な言葉に、朔は再度、力強く頷いた。


「ああ。もちろん、護る。何度だって、お前を護る」


微妙に気まずい、しかし甘く温かい余韻を残しながらも、二人の心は確かに通じ合った。


手を取り合い、決意を新たにした二人は、再び事件の真相を追うべく、イベント会場へと足を踏み出した。

その足取りは、先ほどよりもずっと力強く、そして、何よりも頼もしかった。


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