0x21 カラーバスの誘惑
夕暮れの繁華街——。
歩く透華と朔。人々の雑踏の中、透華の視線はまるで水面下の獲物を探すかのように、忙しなく周囲を捉えていた。
「尾行していたはずの凛と草日君が、突然姿を消した……その直前、二人は何をしていたのか、それが重要ね」
透華の脳裏には、消えた二人の最後の姿が焼き付いている。
すると、普段なら目に留まらないような、取るに足らないはずの情報が、突然鮮明に視界に飛び込んできた。
透華の目に留まったのは——。
「……あれ」
透華が立ち止まる。通り過ぎたばかりのゲームセンターの大きなガラス窓に貼られたポスターに、彼女の視線が吸い寄せられていた。
それは、雑多な繁華街の風景の一部に過ぎなかったはずなのに、まるでスポットライトが当たったかのように、透華の視界の中心に浮かび上がっていた。
「どうした?」
朔が怪訝そうに覗き込むと、そのポスターには、紛れもない「とろにゃんこ」の巨大なぬいぐるみが鎮座し、こう書かれていた。
『人気爆発!とろにゃんこUFOキャッチャー登場!今すぐゲットだニャン!』
「とろにゃんこ……!」
透華の瞳が鋭く光る。このポスターは、この通りの数メートル先にも、さらにその手前にも、同じものが貼られているのが見えた。
凛がこの通りを歩いていれば、必ず目にしているはずだ。透華は確信する。
「凛は、きっとこのポスターを見て、草日君とゲームセンターの話になったに違いないわ。
凛の『とろにゃんこ』好きは筋金入りだから……!」
「確かに、凛の奴なら、このポスターを見たら素通りしないだろうな」
朔も納得したように頷く。
その直後だった。
ゲームセンターの少し手前で、透華の目に別のイベントブースが飛び込んできた。
『本日限定!携帯会社×エナジードリンクのコラボイベント開催中!』
「……ん?」
透華は眉をひそめる。
このイベントの存在そのものが、先ほどの「とろにゃんこ」のポスターを見た後の凛とバルスの行動に、あまりにも都合が良すぎると感じたのだ。
「朔、見て。このイベントブース……」
朔が怪訝そうにブースを見ると、透華はポスターの隅に書かれた小さな文字を指差した。
その小さな文字も、透華が疑念を抱き意識を集中したことで、まるで強調されたかのように目に飛び込んできた。
『アンケートに答えると景品&エナジードリンクプレゼント!さらに、手前のゲームセンターで使えるUFOキャッチャー無料利用券を進呈!』
「UFOキャッチャー無料利用券……だと?」
朔は息をのむ。
「ええ。こんなに都合の良いことが偶然起こるかしら?」
透華はイベントブースを見つめ、警戒を強める。
「凛とバルスが先にゲームセンターのポスターを見て、その直後にこの無料利用券が手に入るイベントがあった……。
これは、単なる偶然にしては出来すぎているわ。
誰かが意図的に仕組んだ可能性があるわ」
朔の表情も引き締まる。
「つまり、このイベント自体が、凛とバルスを特定の場所へ誘導するための罠かもしれない、ってことか?」
「その可能性も排除できないわね」
透華は冷静に答える。
「二人がこのイベントブースに来ていたのなら、無料利用券を使うためにゲームセンターへ向かったのは確かでしょう。
でも、なぜこのイベントが、このタイミングで、この場所で開かれているのか。
その裏を探る必要があるわ」
そして、二人はブースのスタッフに話を聞くべく、慎重に歩を進め――。
「あ、ちょっと待って、朔!
先に話しておきたいことがあるの」




