0x1E 闇に囚われた二人
一方その頃——。
凛とバルスは誰もいない倉庫のような建物の中に二人、手足を縛られ気を失っていた。
冷たいコンクリートの床に寝転がるように拘束された凛とバルス。
重く湿った空気が、倉庫の隅々まで充満していた。
「……草日くん、大丈夫?」
凛がかすれた声で問いかける。
「ん……はい……」
バルスは頭を振って意識をはっきりさせようとしたが、未だぼんやりとした感覚が抜けない。
手足に巻きついたロープが食い込み、自由を奪われている。
「ここ……どこ?」
凛は周囲を見回した。
倉庫の壁には鉄製の棚が立ち並び、ほとんど何もない空間が広がっている。
窓はなく、唯一の出入り口は頑丈な鉄の扉。
それが、二人の脱出を阻む冷たい牢獄のようにそびえ立っていた。
「草日くん……覚えてる?ここに来る前のこと……」
その言葉をきっかけに、バルスは過去の記憶を手繰り寄せるように目を閉じる。
――別人になりすまして透華と朔を尾行していた時。
路上で新商品のエナジードリンクの試飲を勧められた。
「どうします?」
バルスが隣の凛に尋ねる。
「うーん……私はいいかな。喉乾いてないし」
「そうですか。でもせっかく勧められましたし、飲まないと悪い気がしますね……」
バルスは試飲用の小さな缶を受け取り、一口含む。
喉を滑る感覚に、特に違和感はない――はずだった。
しかし、その後。
朔たちを追いながら歩いていると、急に身体が重くなる。
「……っ」
立ちくらみがした。
「草日くん!?」
凛が振り向いたその瞬間――
バルスの身体が、地面へと崩れ落ちる。
「草日くん!?ちょっと、大丈夫!?」
凛は慌てて手を伸ばそうとしたが、次の瞬間。
背後から、鼻腔をつく刺激臭――。クロロフォルム。
意識が、急激に遠のいていく――。
現在――。
バルスはギリギリの記憶を整理しながら、凛に頷く。
「そうだ……僕が倒れて、凛さんが……」
その回想を断ち切るように、
倉庫の奥に設置された古いタブレットが、突然画面を明るくした。
「な……?」
凛とバルスは息をのむ。
その画面に映し出されたのは――
不気味な翁のお面をつけた謎の男。
機械音声で、低くくぐもった声が響く。
『目覚めたか。』
運命の闇が、二人を飲み込もうとしていた。




