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0x1D 犯人は身近なところに

「次の行動に出るわよ」

透華はスマホをテーブルに置き、軽く指先で叩く。


朔は半ば呆れながら彼女を見た。

「お前、さっきから勝手に決めてるけど……、

俺、本音を言えば、本当は直ぐにでも家に戻って家族を護りたいんだ。

俺も同行しないとダメなのか?」


「当然でしょ!」

透華はさらりと答え、立ち上がった。

「あなたにも協力してもらわなきゃ、私はこの事件を解決できないわ」


「ったく……」

朔はため息をつきながら腰を上げる。


「で、どこに行くんだ?」


「防犯カメラの映像だけじゃ情報が足りないの。だから、次は現場の空気を感じるのよ」

透華は微かに微笑み、言った。


「現場って……つまり、俺の家の周辺か?」


「そう。今度は、私たちの目で直接確認するわ」


「分かったよ。行こう」

透華の決意がにじむ声を聞いて、朔は観念した。


二人は透華のマンションを出て、朔の家の周辺へと向かう――。



「……ほんとに何かあるのか?」

朔が周囲を警戒しながら歩き出す。


透華はそんな彼の横顔をじっと見つめ、ふっと息を吐いた。

「何かあるわよ」


「根拠は?」


「勘、というより、確信ね」


朔は微妙な表情を浮かべる。

「お前のそういうところ、マジで探偵っぽいよな……」


「私は探偵だもの」

透華はくすりと笑い、そう言いながら歩を進めた。



二人は、朔の家の窓から部屋の中が見える場所へと足を踏み入れた。


辺りは不思議と静まり返り、夏の湿った空気が漂う。


「ここか……」


朔は不安げに辺りを見渡した。


透華は無言で地面を見つめ、じっと観察する。そして、足元に何かがあるのに気づくと、ゆっくりとしゃがみ込んだ。


「……これは?」


彼女の指先には、くしゃくしゃになったタグが絡まっていた。


「貸衣装店のタグ……?」


朔が身を乗り出す。


透華はタグをじっと見つめる。

表面には店舗名と番号が印字されていた。


「……この店の衣装を借りた人がここにいた、ということね」


朔の眉がひそめられる。

「貸衣装って……なんでそんなもんがこんな場所に?」


「ちょっと確認が必要ね」

透華はタグをそっと手のひらに載せ、呟いた。


そして――


透華はタグをポケットにしまうと、すぐにスマホを取り出し、貸衣装店の場所を検索する。


「調べに行くわよ」

透華は小さく呟き、すぐに歩き出した。


朔は慌ててついていきながら尋ねる。

「いきなり乗り込むのか?」


「ええ、確認したいことがあるの」

透華は言い切り、迷うことなく貸衣装店の扉を押し開けた。



貸衣装店——。


店内には落ち着いた音楽が流れ、カウンターの向こうに店員の女性が立っていた。

透華はすぐに近づく。


「すみません、最近こちらで貸し出された衣装について確認したいことがあるんですが」


「はい、どの衣装でしょうか?」

店員は少し驚いた様子で問いかける。


透華はポケットからタグを取り出し、差し出した。

「この番号のものです」


店員はタグを受け取ると、パソコンで検索し始めた。


「こちらですね……予約者は二名。

今朝借りに来られて、つい先程返却されています」


「予約者の名前は?」


店員は画面をしばらく見つめ、少し首を傾げる。

「個人情報になりますので、その点は……」


「これ、私の学生証です。

これ、学校の理事長の手紙です。

先日借りに来た二人も同じ学校の学生証を持って来たんじゃないでしょうか?」



「あら、クラスメートさんだったんですね。

ちょっと店長に聞いてきますから待っててくださいね」 


「はい、お願いします」


「おい、何で理事長からの手紙なんて持ってんだよ?」


「これは私がそれっぽく書いたのよ」


「嘘ついてんじゃねえよ。

後で怒られても俺は知らねーぞ!」


「あの、理事長、不祥事を起こしておきながら私達に泣いて縋ってきたのよ。

責任をとって理事長職を辞任する。

反省するから、家族や娘の生活もかかっているから前科にされるのだけは勘弁してくれってね」


「まじか……」


「星野さんと月島先生からは、判断は事件を解決した私にして欲しいって。

だから、理事長には今まで迷惑かけた人達全員に一件一件謝りに言ってもらった上で、

理事長のポストのまま示談にしてもらったわけ」


「なるほど、だから理事長は透華を含めた三人に負い目がある訳だな」


そして、程なくして、女性店員が戻ってきた。


「お待たせしてごめんなさい。

ええと……朝比奈凛様と草日両様です」


朔は息を呑み、透華の隣で思わず前のめりになる。

「やっぱり……!」


透華は静かに頷き追加で聞いた。

「衣装の種類は?」


「女性はビジネススーツと度無し眼鏡にポーチです。男性の方はフード付きパーカーとジーパンでした。

ただ、お二人が返却に来られた際、少し慌てていたように見えましたね」


透華はその言葉に微かに反応するが、すぐに平静を保つ。

「その時、何か変わった様子は?」


店員は少し考える。

「そうですね……衣装を受け取る際、男性の方がやけに慎重だったのが印象に残っています。

何度もタグを確認されていました」


「タグを?」


「はい。普段はそんなことを気にする人は少ないのですが……」


「なるほど、参考になりました」

透華は小さく息を吐き、タグをポケットにしまう。


「ご協力、ありがとうございました」


「いえ、お役に立てたならよかったです」


透華は軽く店員に会釈し、店を後にする。


朔は店を出るなり透華に問いかける。

「貸衣装店のタグがここに落ちていたってことは……やっぱり凛とバルスが関係してるってことだよな?」


「たぶんそうね」

透華は歩きながら、静かに言葉を選んで答えた。


しかし――


透華の瞳の奥には、一瞬だけ微妙な違和感が揺らぐ。


「だけど……」


彼女はそれ以上何も言わず、歩を進める。


貸衣装店を後にしながら、透華はスマホの画面を何度か確認し、何かを整理するように小さく息をついた。


朔はその様子を横目で見ながら尋ねる。

「お前、まだ何か気になることがあるのか?」


「ええ。もう少し確認しておきたいことがあるわ」

透華は歩を止めて振り向いた。


「まだ確認するのか……ったく、どこまで深掘りするんだよ」

朔は苦笑しつつも、透華の探偵としての勘が働いているのを感じていた。


「今は細かいところも見逃せないの。

むしろ、こういう時こそ慎重に進めるべきよ」


透華は店員に貰った使い捨てのタグを指でなぞりながらそう言い、ふと視線を朔に戻す。

「次は、もう少し広い視点で考えましょう」


「広い視点?」


「そう、これからが本番よ」

朔が首を傾げる。透華は微笑んだ。


そして、さらなる謎へと進んでいく――。


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