0x1B 錯聴
透華は自室の窓際に立ち、腕を組みながらじっと考え込んでいた。
朔はそんな彼女の後ろ姿を眺めつつ、落ち着かない気持ちを抑えようとしている。
透華は椅子に腰掛けると、スマートフォンの画面を朔のほうに向けた。
そこには、コンビニの防犯カメラの映像が再生されている。
「朔、よく見て」
画面の中では、不審な男が店の外で電話をしている。
「この男……時間的に朔のお母さんが不審者を目撃したとされるタイミングと一致しているの」
朔は映像をじっと見つめた。
男は誰かと話していて、有難いことに音声も記録されているようだ。
「朔、これを見て、何か気付いたことは無い?」
「この男、通話中に何度か周囲を見回しているな」
「そう。そして、そこが不自然なのよ」
「で、これがどうしたんだ?」
透華は椅子に腰を下ろし、指先でテーブルの端を軽く叩いた。
「でもさ、通話相手の話の内容がわからないと、なんとでも解釈できるんじゃないのか?」
「確かに、通話相手が何を話していたのかはわからない。
でも、私が気になったのはそこじゃないわ」
朔は画面に目を戻しながら首を傾げた。
「どこだ……?」
「この男、通話中に何度か口を開きかけているのに、途中で止まっているの。
まるで……何かが遮ったみたいに」
「遮った……?」
朔は息をのむ。
透華はゆっくりと頷く。そして、静かに告げた。
「ええ。そして、それを仕組んだ誰かがいるはず」
透華の瞳が鋭く光る。
「この会話の錯聴が本当に誘導されたものなら、私たちが信じていた“不審者”の像が、全く違うものになるわ」
朔は息を詰める。
「じゃあ……どうすればいい?」
透華はスマホを操作し、防犯カメラの映像を巻き戻した。
「まずは、男が話していた相手を突き止める。そして、その通話の真の内容を解析することね」
「それって……どうやるんだ?」
「手はあるわ。ただし……少し大胆な方法になるけど」
透華の唇が、わずかに微笑む。
そして、事件の核心へと迫る――。




