表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/52

0x19 兄を巡る夜と最悪の朝

金曜日の夜——。


「お兄、今日の数学の宿題、教えろ!」

ボクは兄貴の部屋のドアを開けた。


「何で命令形!?」


もちろん、今日の宿題はとっくに終わっている。これはあくまで口実。

真の目的は、この部屋にエロ本が隠されていないかの確認だ。

兄貴に限ってそんなものは無いと信じたいが、男の子というのはいつ変な方向に進むか分からない。

ボクは妹として、兄貴の健全な成長を見守る義務があるのだ。


「あー、悪い、兄ちゃん今から電話で明日の友達との勉強会の打ち合わせしなきゃいけないんだ」

ベッドに寝転がりながら、兄貴は適当な返事を返す。

油断してるな、兄貴よ。


ボクはさりげなく部屋の中を見回し、怪しげな場所がないか目を凝らす。

ベッドの下、本棚の隙間、机の引き出し……、完璧にカモフラージュされていそうな場所はいくらでもある。


「それ本当!? 何か怪しいことあったら、

私許さないかんね!」

少し甘えた言い方をしようと思うんだけど、

兄貴の前ではどうしても素直になれないんだ。


すると、お兄はむくりと体を起こし、眉間に皺を寄せた。

「なんだよ、蜜柑。

用もないのに俺の部屋に来るとか、お前なんか企んでるだろ」

鋭い。さすがは我が兄貴。ボクの策略など、お見通しということか。チッ。


「な、何を言うの……。

私はただ、妹としてお兄を心配しているだけ!」

そう言いながら、ボクは本棚に近づき、適当な参考書を手に取った。

チラリと背表紙を確認し、何食わぬ顔で元の場所に戻す。その時、ごく僅かながら、奥に隠された雑誌の背表紙が見えた気がした。


(あれは、もしかして……!解せぬ……)

心臓がドクンと跳ねる。しかし、それを露わにするわけにはいかない。


「ねえ、お兄。まさか最近、いかがわしい映画観てないよね?」

ボクはあくまで涼しい顔で尋ねた。


「どうした、蜜柑?

目が全く笑って無いんだが……」


ボクはエロ本に繋がるような、B級映画以外の気配を探る。

「それに、いかがわしい映画ってなんだよ。

お前が薦めるいつものB級映画しか見てねーよ」


「そう言えばお兄、この前薦めたゾンビ映画はもう観た!?」

ボクがB級映画の話になると、途端に饒舌になることは兄貴も知っている。


「あ、すまん……」


私は心の中で「よしよし」と頷きながら、エロ本の家宅捜査を続ける。

これで、とりあえずエロ本の件はクリア。

いや、まだ油断はできない。

また今度、探してみよう。


「そういえばお兄。この前……私、変な夢見た。お兄が……」

ボクは夢中になって、兄貴に関する(創作も含む)話を始めた。

普段はついついキツくあたっちゃうけど、兄の話になると止まらない。

これもまた、兄貴への深い愛ゆえだ。


兄貴は「またかよ」と呆れながらも、ちゃんと聞いてくれる。


ボクの最高の理解者、それが兄貴だ。




土曜日の朝——。


「お兄、お菓子とジュース持ってきたよ〜って、うわっ——!!?」

土曜日の午前中、ボクは兄貴の部屋へ来客用のスナック菓子とコカコーラを持って向かった。


昨日の夜、兄の部屋で不審な動きはなかったと判断し、安堵していた矢先だった。

ドアを開けた瞬間、ボクの視界に飛び込んできた光景に、ボクはその場で凍り付いた。


そこには、兄貴が、見知らぬ女に覆いかぶさっている姿があったのだ。


しかも、その女のブラウスははだけていて、ピンク色のブラジャーが丸見え……。

そして、兄貴の左手が、その、その……柔らかいものの上に……!!


「な、なななな……っ!?」

ボクのトレイを乗せた手が震え、ジュースが揺れる。

ボクの顔はみるみる赤く染まり、耳まで熱くなるのが分かった。

脳内で警報が鳴り響き、思考が完全に停止する。

兄貴の顔も、女の顔も、真っ赤だ。

そして、顔が近い。信じられないくらい近い。き、きしゅ(キス)できる距離に、二人の顔がある。


「み、蜜柑! 違う!こ、これは違うんだ!」

兄貴が、顔を真っ赤にして必死に叫ぶ。


違う? 何が違うの?

この状況のどこが違うというのさ、兄貴!

ボクの愛する兄貴が、どこの馬の骨ともわからん痴女と……こんな、こんな淫らな状況に……っ!


「キャーーー!! ご、ごめんなさあああい!」

ボクはトレイをテーブルにガタンと乱暴に置くと、悲鳴を上げて部屋から飛び出した。

足がもつれそうになりながら、一目散にその場から逃げ去る。


「待て、蜜柑! 誤解だ! 聞いてくれ!」

後ろから聞こえる兄貴の声は、もうボクの心には届かなかった。


誤解だなんて、何を言ってるの!?

ボクは見てしまったんだ。

この目で、紛れもない事実を!


部屋から飛び出し、自分の部屋に駆け込むと、ボクは勢いよくドアを閉め、そのままへたり込んだ。

心臓がバクバクと暴れ、呼吸が苦しい。


「ううう……っ、兄貴……っ!」

ボクの頭の中には、兄貴とあの痴女が重なっている映像が、何度も何度もフラッシュバックする。信じられない。信じたくない。


(あの痴女、誰!? 絶対許さん! 兄貴を誑かすなんて……!)

ボクの心の中は、怒りと悲しみ、そしてちょっぴりの嫉妬でぐちゃぐちゃだった。


最愛の兄貴を巡る、ボク蜜柑の戦いは、今、始まったのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ