表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/51

0x18 学校での蜜柑

「さて、今日も一日が始まるわね」

朝礼前の教室で、ボクは優雅にため息をついた。

さらりとした手触りの髪を整え、完璧な笑顔を浮かべる。

学級委員、成績優秀、容姿端麗、知的でクール。それが、学校でのボク、蜜柑の仮面だ。


「蜜柑、おはよう!ねぇ、今週の日曜日、

一緒にショッピングモール行かない?」

休憩時間になると、友人の陽菜がキラキラした笑顔で話しかけてきた。


心の中でげんなりしつつも、ボクは完璧な笑顔を崩さない。

「ごめんなさい、陽菜。私、土曜日はちょっと……」

本当は、心待ちにしている新作ヤクザ映画のVODを観る予定だった。

あの俳優さんのドスを効かせた声と、血しぶき舞い散るアクションシーンを想像するだけで、ボクの心はそそる。

あ、やべ。ついヨダレが。


だが、そんな趣味を陽キャギャルのボクが語るわけにはいかない。


「私の兄が、一緒に新作映画のVODを観たいらしくて。

土曜日は一日、兄の鑑賞会に付き合わなきゃいけないのよ。

全く、手のかかる兄で困っちゃうわ」

我ながら完璧な嘘だ。手がかかるどころか、ボクにとっては兄貴の存在が何よりも優先される。


陽菜は「そっかー、残念!」と、少ししょんぼりしていたが、すぐに別の友人と楽しそうに話し始めた。ふぅ、危なかった。



昼休み——。


ボクは購買で買ったクリームたっぷりのメロンパンを、優雅に一口食べた。

甘さが口いっぱいに広がり、思わず頬が緩む。


「蜜柑って、甘いもの好きだよねー」

隣の席の男子が、ニヤニヤしながら言ってきた。全く、余計なお世話だ。


「ええ、たまには甘いものも悪くないわ。

それよりあなた、この前の数学の課題、どうだったの?」

話題をさりげなく切り替える。

完璧な優等生を演じるためには、常に気を抜いてはいられない。


そんな完璧なボクを、唯一崩壊させる存在がいる。そう、ボクの兄貴だ。


「そういえばさ、兄貴がまた変なことしでかしてさぁ」

いつの間にか、ボクは親友の陽菜に兄の武勇伝(?)を語り始めていた。

聞かれても無いのに兄と観る為に用意した最新のB級映画コレクションや、兄がハマっている謎の健康法について、延々と喋り続けてしまう。


普段は「ボクの邪魔するなよ」とつい兄貴にキツく当たるくせに、本当は誰よりも兄を慕い、よく観察しているのだ。


「で、兄貴が『これは芸術だ!』とか言って、自室にゴミのオブジェを作り始めた時は、さすがのボクも引いちゃってさ」


「ちょ、蜜柑!普段のクールな蜜柑はどこ行ったの!?」

友人のツッコミに、はっとして我に返る。

しまった、またやっちまった。



放課後——。

学級委員の仕事をテキパパと終わらせ、ボクは誰もいない教室で大きく伸びをした。


「ふぅ、疲れた。まったく、優等生ってのも楽じゃないな」

仮面を脱ぎ捨て、ボクは本来のボクに戻る。

自由奔放でマイペースな性格。

ボクは腕を組み机の上に両足を広げてふんぞりかえると、

教室の窓から見える夕焼けを眺めながら、今日のヤクザ映画の予習でもしようかと考えていた。


「おい、蜜柑。まだいたのか。

スカートの間からめっちゃパンツ見えてるぞ!」

突然、声をかけられ、ビクッと肩が跳ねる。

教室のドアの方を振り向けば、そこには学年で一番の不良として知られる、隣のクラスの男子が立っていた。

「あ、やべ!

あんた、ボク……、私に何か用でもあるの?」

いつもならクールに対応する場面だが、今はオフモード。つい素の「ボク」が出てしまう。


「別に。お前、いつもあのヤクザ映画のパンフレット、カバンや机の引き出しに入れてるよな。あれ、面白いのか?」

彼の言葉に、ボクは目を見開いた。

まさか、ボクが隠している趣味を知っているなんて。

「な、なんでそれを……!?」


「別に。見ればわかる。ってか、よかったら、今度一緒に観に行かないか?」

不良男子の意外な誘いに、ボクの心臓は一瞬ドクンと鳴った。

しかし、すぐに冷静になる。ボクの心は、ただ一人の人物――朔兄のためにある。


「悪いけどその誘いは断るわ」

ボクはきっぱりと言い放った。

「私の貴重な時間と、兄さんとの映画鑑賞の時間は、何にも代えがたいものなの。

あなたの提案も悪くはないけど、残念ながら、私の優先順位は揺るがないのよ」


不良男子は、まさか断られるとは思っていなかったようで、少し驚いた顔をしていた。


私はそんな彼の反応を気にも留めず、さっさと荷物をまとめ始める。

「じゃあね。私は兄さんのB級映画コレクション鑑賞に付き合う為に帰るから」

教室を出る間際、ボクは振り返って彼に告げた。

「ちなみに、ヤクザ映画は最高よ。

特に、あの俳優さんのドスの効いたセリフと、血しぶき舞い散るアクションはね。

でも、兄さんと観るのが一番だけど」

ボクの言葉に、不良男子は呆れたような、それでいて少し呆然としたような顔をしていた。


ふん、これでわかったか。

ボクの心は、永遠に兄貴だけのものなのさ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ