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0x15 不審者

「……分かった。すぐ帰る」

朔が電話を切り顔を上げると、透華と視線が交錯する。

彼の瞳には、かすかな不安が揺れていた。


「透華、大変なんだ……家の近くで、不審者がうろついているらしい。

親父から今、連絡が入った」



その言葉に、透華の脳裏を不穏な影がよぎる。

「不審者?」



「誰かが家の前で、じっと様子をうかがっていたみたいだ。

母さんが怖がっている。

親父も職場から急いで戻っているところだ」



すると透華は眉をひそめ、思考を巡らせる。

朔の家族が怯えるほどの事態。

単なる偶然や軽い出来事ではなさそうだ。

探偵としての直感が、鋭く警鐘を鳴らし始める。


「それだけなら、警察に連絡すれば済む話じゃない?」

しかし、彼女は自分の発した言葉とは裏腹に、胸の奥でざわめく予感が広がっていく。

単なる覗きや下見なら、家族がここまで動揺するはずがない。

まして、朔の父が仕事を放り出して帰宅するほどの危機感――それは、尋常ではない証拠だ。



「いや……ただの不審者って感じじゃない。

母さんが言うには、そいつ、妙にじっと家の窓を見つめていたらしい。

まるで何かを確かめるように」



すると透華は軽く息を吐き、頭をフル回転させる。

彼女の瞳が鋭く光を放つ。


周囲の空気が一変し、まるで霧が晴れるように、彼女の脳内で論理の糸が絡まり合い、解きほぐされていく。


「ただじっと見ていた……それだけじゃ、まだ何もつかめないわね」

彼女の声は冷静さを保ちつつ、その裏では嵐のような思考が渦巻いている。



朔は落ち着かず、膝を揺らし続ける。


「俺、すぐ家に戻る。母さんと妹を守らなきゃ」


しかし……。


「待って!!」

透華は電光石火の速さで駆け寄り、朔の肩に手を置く。



「透華……?」



透華の眼差しは、闇を切り裂く刃のように鋭く、まっすぐ朔の焦る心を射抜く。


「今、あなたが単独で動くのは危険よ!

状況がわからないのに突っ走れば、取り返しのつかない事態を招くかもしれない」



「でも……!」



「焦ったら状況を見誤るわ。

お願い、朔!

気持ちはわかるけど、今は冷静になって!

下手に動けば、不審者の思うつぼになるかもしれないのよ!」



朔は言葉を飲み込み、押し黙る。

透華の言葉は、氷のように冷たく、しかし的確に響く。

彼女の声には、動揺する彼の心を静める不思議な力が宿っていた。



透華は腕を組み、思考を整理するように、低い声で呟く。


「まずは、状況を整理しましょう。

何が起きているのか、正確に把握しないと次の手を打てないから」



周囲の空気がピンと張り詰める。


透華の頭の中では、すでにいくつもの仮説が浮かんでは消え、論理のピースが組み合わさっていく。

この不審者は誰なのか?

なぜ朔の家を狙ったのか?

ただの偶然か、それとも――、

何か大きな意図が隠されているのか?


透華は手さげのポーチから小さなノートを取り出し、ペンを握る。

彼女の指先は迷いなく動き、紙に情報を刻み込んでいく。

『1.家の前でじっと見ていた』

『2.時間帯は午前11時頃』

『3.逃げる様子もなく、ただ観察していた』

『4.家族が気づくほど、異様な雰囲気だった』


「これが意味することは……」

透華はノートを見つめ、唇を軽く噛む。


「その不審者は、強盗や空き巣のような『侵入』を目的にしているわけじゃない。

もしそうなら、もっと慎重に動くはず。

怪しまれないよう、人の少ない夜遅い時間に家の周りをさりげなく通り過ぎたり、隙を窺うような行動を取るはずよ。

でも、今回はわざわざ目撃されるような明るい時間に、堂々と立ち止まって『ただ見ていた』……それが妙なのよ」



「……じゃあ、蜜柑へのストーカーの線は?」

朔が不安げに口を挟む。



「それなら、もっと別の行動が伴うはずよ。

蜜柑ちゃんに執拗に電話やメッセージを送ったり、彼女の部屋を窓から覗いたり、ベランダや庭の洗濯物を狙ったりとかね。

でも、今回は蜜柑ちゃんの部屋以外の窓を、ただじっと見ていただけ。

それが、逆に不気味なのよ」


透華の頭の中で、ピースが少しずつ組み合わさっていく。

だが、まだ全体像は見えてこない。

彼女はノートにさらに書き加える。

『5.不審者は家族に気づかれても動じなかった』

「この不審者……何か目的があって、堂々と観察していた可能性がある。

まるで、誰かを試すように――あるいは、《《誰かを待っている》》ように」



その言葉に、朔の顔が一瞬こわばる。

「待ってる? 誰を?」



「それが分かれば、話は早いんだけど」

透華は軽く笑みを浮かべるが、その目は鋭さを失わない。

彼女は朔の不安を和らげるように、柔らかく、しかし力強く続ける。


「今すぐ警察に連絡するのが無難だけど……、

その不審者が何を企んでいるか分からない以上、下手に刺激するのは危険かもしれない。

焦って動けば、事態を悪化させる恐れがあるわ」



「じゃあ、一体どうすればいいんだよ!」

朔の声には、苛立ちと無力感が滲む。



透華は彼を落ち着かせるように、静かに手を上げる。

「まずは、不審者の素性を洗う必要がある。

どんな小さな手がかりでも、真相に近づく鍵になるわ」


彼女の視線は、遠くの見えない敵を捉えるように鋭く光る。

「朔、近所に防犯カメラはある?」



すると朔はハッとしたように顔を上げる。


「ある! 家の前の通りにあるコンビニのカメラと、駅までの道にいくつか設置されているはずだ」



すると透華の唇に、かすかな笑みが浮かぶ。


「なら、話は早いわ。

映像を確認すれば、不審者の姿がつかめるかもしれない。

顔、服装、行動パターン――どんな些細な情報でも、ヒントになる。


そうと決まったら、行くわよ、朔!!

この謎を解くために、私たちの探偵の本能をフルに使わなきゃ」



事件の真相を追い求め、二人は動き出す。

不審者の目的は何か?

なぜ朔の家を執拗に観察していたのか?

その背後には、どんな意図が潜んでいるのか?


変わり始めた日常の裏に、どんな闇が潜んでいるのか。

事件の片鱗が、透華と朔の前に不気味な姿を現しつつあった。


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