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0x14 デートの口実

「ねえ、透華!

駅のロッカーのスーツケース、ほんとに今日が保管期限ギリギリでやばいんだって!

取りに行ってくれたら助かるんだけど……!」スマホ越しに凛の声が響く。


「何回も言うけど、なんで私がATMと二人で街歩きしなきゃいけないの?

ほんと意味わかんないんだけど……」

透華は歩きながらスマホを耳に当て、若干眉をひそめる。


「ふふっ、スーツケース二つも透華だけで運ぶの、さすがにキツくない?

てかさ、たまには透華のイケメン彼氏にランチとか買い物付き合ってもらったら、絶対楽しいじゃん!」


「え、ちょっと凛、それはないでしょ!

てか、あんな馬鹿がイ、イケメンなわけ……なくない!?

それに、そもそも彼氏でもないんだから!

ほ、ほんと意味わかんないんだけど……!」


凛の声にはどこか含みがあったが、明らかに顔を赤くしきょどる透華に、そんなことを気にする余裕はなかった。



駅前の人通りは多く、透華は慎重に歩を進める。


ふと、視線を感じて振り返るが、そこには何もない。


違和感を覚えながらも、気のせいだろうと歩を進める。


「じゃあ透華、また後で〜! じゃね!」

「あ、ちょっと凛……」

ブチッ!


突如として凛との通話が切れた。


(えっ……なんで今のタイミング、

妙に不自然じゃない?)


そんな疑念が浮かびかけた瞬間だった。


「キャーッ!誰か助けて!!」


突如、背後から女の悲鳴が響く。


透華が驚いて振り返ると、スタイリッシュなOL風の女性が叫びながらバッグを奪われている。


「くっ……誰か、あの男を捕まえて!」


バッグをひったくった男はフードを深く被り、猛スピードで駆け抜けていく。

透華のすぐそばを通り抜けた瞬間——。


「っ!?」


ひったくり男の肘が、透華の背中にぶつかった。


「きゃっ——!」

その反動で透華は勢いよく前のめりにバランスを崩す。

足が浮き、視界がぐるりと回る。


しかし、次の瞬間。


「透華——!!」

まるでスローモーションのように、力強い腕が透華の身体をぐっと引き寄せた。


ドクン! ドクン!


透華の視界に、朔のキラキラした瞳がドアップで飛び込んでくる。

彼の腕は透華の腰をがっちりホールドし、まるでドラマのヒーローみたいに彼女を支えていた。


(ち、近すぎ——!)


朔の顔までわずか5センチくらいの距離。


息がかかりそうな近さ。


透華の心臓はバクバクを通り越して、まるで花火大会状態に……。


「だ、大丈夫か、透華!?」

朔の声は真剣そのもの。

だけど、なぜかちょっと顔が赤い。


(ってか、朔の手、めっちゃ熱くない!?


それに、これってもしかして……、

このまま……このまま映画のキスシーンみたいに……!?)


透華は完全にパニックに。

頭の中で朔の顔をした◯ムと透華の顔をした◯ェリーがバタバタと走り回っていちいち忙しい。

彼女は思わず目をぎゅっと瞑り、覚悟を決めた——次の瞬間!


「って、うわっ!」

朔が突然、至近距離でめっちゃ焦った声を出した。


突然、朔の顔がクッ、クッと変な動きをしたのを不審に思い、透華がもう一度彼の顔を覗きこもうすると——「ぶっ——!」

なんかすっごい勢いで名状しがたい何かが透華の顔に直撃した!


「ひっー—!? な、なに!?

汚なっ——!!」

透華、目を見開いて絶叫する。透華の顔にベチャッとついた、


朔の身体の血気盛んな器官(口)から勢いよく顔射されて間もない

(口腔内の)分泌分(ツバとも言う)を、透華は凄い勢いで拭きながら、朔をガンつける。


「急にしゃっくりになってつい唾が出てしまった。ごめん、透華!」


「ちょ、朔! ほんとありえないんだけど!

なんでこんなタイミングでツバ飛ばすわけ!?

キモすぎ!」

透華は顔真っ赤にして、朔の胸をバシバシ叩きまくる。


「うわ、悪ぃ! わざとじゃねぇって!」

朔はめっちゃ焦りながらも、

自分のハンカチで透華のほっぺをゴシゴシ拭こうとしだす……。


「はぁ—?ちょっとやめてってば!

あんたが拭くと余計に汚くなるんだけど!」

透華はバッと朔の手を払いのけて、半泣きで叫ぶ。


「いや、だって、お前が急に近くて、ビックリしたから——」

朔は言い訳しようとするが、

彼も完全にテンパっている。


「ビックリしたのはこっちよ!

せっかくのロマンス……、はっ!」

透華はつい本音がポロリと出て、慌てて口を押さえる。


「え、ロマンス!? って、お前、

今なんて!?」

朔は目をまん丸にして透華をガン見する。その瞬間、二人の距離がまたグッと近づいて、なんかまたドキドキの空気が……!



ピピピピ♪


すると突然、

朔のスマホが、まるで二人のドキドキをぶち壊すかのようにけたたましく鳴り響く。


透華はハッとして、朔のTシャツから手を離し、めっちゃ気まずそうに目を逸らす。


彼女は朔から無理矢理奪い獲ったハンカチで顔を拭くと、目をパチッと開ける。


朔は慌てて透華から手を離し、ポケットからスマホを引っ張り出す。


画面を見た瞬間、朔の顔が一気に真顔に。


『父』

その文字がデカデカと浮かんでいた。


「え、ちょっと、朔!

今のなに!? なんでこんなタイミングで!?」透華は顔を真っ赤にしながら、朔の胸をぺちぺち叩く。


「いや、俺も知らねぇよ!

親父の電話、めっちゃ最悪のタイミングじゃん!」

朔も顔を赤くしながら、スマホを耳に当てつつ、透華に

「ちょっと待って!」

とジェスチャーをする。


(マジで……今の、めっちゃドキドキしたのに……! このバカ朔、雰囲気ぶち壊しすぎ!)




一方、駅の片隅では——。


OLの姿に扮した凛と、ひったくり男に扮したバルスが、影から二人の様子を見ていた。


「……草日くんの演技完璧だったよ♪」


「ありがとうございます!透華さん、めっちゃ動揺してましたね…! 」


「そうね、あの顔はやっぱり……」


「あの顔は……何ですか?」


「完全に、恋する乙女の顔よ!!」


二人はひそひそと笑い合った。




一方、再び透華と朔——。


スマホの画面に釘付けになる朔。普段の明るいトーンとは明らかに異なる、低い声が、スピーカーから響く。


「もしもし、親父? どうしたんだ?」


電話の向こうの雰囲気がいつもと違う。

どこか緊張した静けさに包まれていた。


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