0x13 蜜柑
朔の妹・蜜柑は、陽光を浴びると輝く鮮やかな薄紫色の髪を持ち、肩のあたりでふわりと弾むハーフアップが魅力的だ。
小柄で華奢ながらも、その元気いっぱいの動きと無邪気な笑顔で、周囲に明るさを振りまく。
そして大きな瞳には、兄・朔への絶対的な崇拝が宿り、「世界一のお兄ちゃん」と信じて疑わない純粋さが映っている。
「えっと…その…さっきは、ごめんなさい…」
蜜柑がバツの悪そうな顔で透華に小さく頭を下げる。
「私も悪かったわね。驚かせてしまって、ごめんなさい」
透華も軽く礼を返すと、蜜柑はふんわりと表情を和らげた。
「ボク、日向蜜柑です。中学二年生です!」
蜜柑はぴょこんと立ち上がり、元気よく自己紹介する。
透華は蜜柑の小柄ながらも華奢で可愛らしい姿を見つめながら、自分の自己紹介を簡潔に済ませた。
「私は透華。朔とは何もない。だだ幼馴染なだけよ」
蜜柑の瞳がキラリと光る。
「この馬鹿兄貴、どうですか?」
「え?」
透華が驚いていると、朔が慌てて口を挟む。
「おい、蜜柑。余計なこと言うなよ」
「うっせー、馬鹿兄貴!!」
すると……。
ピロリン♪
朔のスマホに母からの呼び出しだ。
それをみた蜜柑は、ニヤリと意味深な笑みを浮かべる。
「ったく、すぐ戻るからな」と言いながら部屋を出る朔。
その背中を見つめる蜜柑は、まるで王子様を見送る姫のようにうっとり……と思いきや、突然キリッと真剣モードにチェンジ!
透華にぐいっと顔を近づけ、探偵ドラマの名刑事ばりに囁く。
「さてと、透華さん。兄貴との関係、ぜーんぶ洗いざらい話してもらいましょうか!心の準備、できてます?」
その目は、めっちゃ本気だ。透華、ドキドキの尋問タイム突入……!?
(何……、この娘?)
「朔とはただの幼馴染よ。それ以上でも以下でもないわ」
蜜柑はじっと透華を見つめる。鋭い視線だ。
(あ、そうだわ!
確か妹さん甘いモノに目がないって前に朔が言ってたっけ……)
透華は持ってきたスイーツを差し出した。
「これ、よかったら話しながら食べない?」
「え!!」
蜜柑の目が一瞬輝く!!
……、しかしすぐにそっぽを向く。
「い、言っときますけど、スイーツでボクを釣れると思ったら大間違いですからね……」
しかし、その言葉とは裏腹に、蜜柑の目は泳ぎスイーツに釘付けだ。
(わかりやすいな……、コイツ)
蜜柑はスイーツを一口食べると、表情がほころんだ。
「おいしぃ〜♪
幸せ〜」
蜜柑の無敗の姑モードは大好物のスイーツを前に呆気なく崩壊した。
「な〜んだ、二人は付き合ってなかったんですね。
心配して損しちゃいました」
そして、透華と朔が付き合っていないことを知ると、蜜柑はふんわり元の妹モードに戻った。
蜜柑は椅子に飛び乗ると、まるで恋バナで盛り上がる親友みたいに目をキラキラさせながら透華にまくし立てた。
「ねえ、ボクの兄貴、マジでヤバいくらいカッコいいの知ってます?」
そこから蜜柑の兄自慢がノンストップで炸裂する。
「運動神経?バッチリです!成績?トップクラスです!性格?老若男女問わずメロメロの優しさです!」
まるで朔のファンクラブ会長がライブでシャウトしているかのような勢いだった。透華が「うんうん」と相槌を打つ隙もないまま、蜜柑の熱弁は続く。
そんな中、一人で朔の印象を延々と語る妹蜜柑に透華は呆れ気味。
あくびを我慢。
すると朔が戻ってきた。
「ボクたち、一応義理の兄妹なんですよ。だから、血は繋がってなくて……ふふっ」
「わるい蜜柑、俺たち今から勉強会だからそろそろ……」
「うっせー、馬鹿兄貴!
言われなくても出ていきますよーだ」
「透華さん、じゃあ、ボクはこれで…」
「あ、うん……」
透華に一礼し、蜜柑は部屋を出て行った。
「おい…透華?蜜柑、何か変なこと言わなかったか?」
「ブラコンね、あなたの妹って……」
透華がクスリと笑うと、朔は「あいつまた余計なことを…?」
とげんなりしていた。
そこへ、透華のスマホに着信が入る。
「凛?どうしたの?」
凛は遅れることと、透華への二つの用事を頼む。
「駅のコインロッカーに預けっぱなしのスーツケース二つを、朔と取りに行ってほしいんだけど、
お願いできる?」
透華は眉をひそめる。
「何か怪しいわね…」
一方その頃、凛と草日は、朔の家の近くの高台から朔の部屋の窓から見える二人の様子を伺っていた。
「ふふっ…これで、透華と朔は二人っきりだね!」
「草日くん、次はシークエンス2よ。
着いてきて」
「はい!」
凛の作戦が着々と進行していた――。




