0x12 ラッキースケベ←※このシチュエーションでこれないと逆に不自然でしょ
「くそっ、油断した……」
朔の部屋は今、母の趣味の展示場だった。
蝋燭の灯が揺れる中、薄く透ける掛軸が壁を飾り、古びた御札が無造作に張られている。床には黒漆塗りの香炉が鎮座し、微かな煙が立ち昇る。まるで陰陽師が儀式を行うための密室のようだった。
高校生の男の部屋として、こんなイタイ屈辱はない。
だから今、朔はこの不気味な装飾品の数々を片っ端から撤去している。
「朔、ちょっと手ぇ止めてよ。私、話があるんだけど?」
ソファにふんぞり返った透華が偉そうな口調で言う。
(こいつ、毎度のことだけど、俺の部屋を自分のテリトリーみたいに扱いやがる。
長く白い髪を指でくるくる巻きながら、透華はジト目で俺を見上げる。美人なのは認めるけど、その傲慢な性格がな……。
いつも俺を振り回す元凶だ)
「なんだよ、話って。ていうか、勝手に俺のジュース飲むな!」
朔は、透華が手に持ってるオレンジジュースを指差す。
(クソ、やっぱり、俺の分まで開けてる!)
「ふーん、これ朔の?
まぁいいじゃん、別に。
私、喉乾いてたんだから。
それより、凛とバルス、遅れて来るって」
透華はジュースをちびちび飲みながら、さらっと告げる。
「遅れるって、なんでだよ! ったく、アイツら……」
朔はため息をつきながら、壁に貼られた御札のステッカーを剥がす。
ベリッ、という音が部屋に響く。
その時、透華がニヤリと笑った。
(こいつがこんな風に笑う時って……、嫌な予感しかしねえ)
「ねぇ、朔。これ、なに?」
(透華が手に持っていたのは、俺の黒歴史そのもの。
中二の頃の写真だ。
黒いマントを羽織り、片目隠しの眼帯をつけて、キメ顔でポーズを決める俺。
『闇の支配者サクヤ・ダークネス』
なんて、裏にマジックで書かれたやつだ。
うわ、なんでこんなのが俺の部屋に……!?
さては、これもお袋の仕業!?)
「あはははww」
「返せ、透華!」
朔は写真を奪おうと飛びかかるが、透華はひらりと身をかわす。
「やだぁ〜、何これ、超ウケるんですけどww
ねえ朔?、あんた、こんな厨二病だったの?
闇の支配者って、ぷっ、傑作だわ!」
透華は腹を抱えて笑いながら、写真を高く掲げる。
(畜生、背が届かねえ!)
「いいから返せって! 見んな! 燃やすんだ、それ!」
朔は必死に手を伸ばすが、透華はステップを踏むように逃げる。
待て、絶対逃がさん……と、とと。
「あ、やべっ!」
朔のつま足が偶然にもカーペットに引っかかった。
「うわっ!」
「きゃっ!?」
次の瞬間、朔の体は前のめりに倒れ、透華を巻き込んで床にドン!
その衝撃の直後、部屋には静寂が広がる。
(……ん? なんか、ほんのり温かくて柔らかい感触が左手に)
「な、なんだ、これ……!?
もみ、もみ」
目を開けると、朔は透華の上に覆いかぶさっていた。
しかも、透華のブラウスがはだけ、ピンクのブラジャーがチラリ。
(で、俺の左手が……、その、なんというか、ブラの上から、こう、柔らかい何かを……)
「ちょっと朔、あわあわあわあわ……!!」
(透華の顔が、トマトみたいに真っ赤になる。
俺だって顔が熱い! 心臓がバクバクして、頭の中がパニックだ。
しかも、顔が近い。めっちゃ近い。透華の潤んだ瞳と、ほんのりピンクの唇が、キスできる距離にある。息がかかるくらい近くて、どっちも固まったまま動けない)
「あ、あんた……! こ、これ、どう言うことか説明してくれる——!?」
透華はやっと声を絞り出すが、
声が震えてて、いつもの威勢がない。
「ち、違う! 不可抗力だ! 俺だって——」
その時だ。
突然、部屋のドアがガチャリと開く。
「お兄、お菓子とジュース持ってきたよ〜……って、うわっ——!!?」
(そこには、俺の妹・蜜柑が立っていた。
蜜柑はトレイにお菓子とジュースを載せたまま、目を見開いて固まってる。
そして、蜜柑の頬が、みるみる赤く染まる。
「み、蜜柑! こ、これは違うんだ!」
朔は慌てて叫ぶけが、蜜柑はトレイをテーブルにガタンと置くと……。
「キャーーー!! ご、ごめんなさあああい!」
蜜柑は悲鳴を上げて部屋から飛び出してった。
「待て、蜜柑! 誤解だ!
聞いてくれ!」
俺は立ち上がって追いかけようとするが、すでに蜜柑の足音は遠ざかっていた。
「朔、ちょっと! いい加減私の上からどいて欲しいんだけど!?」
透華が下からキッと睨みつけてくる。
(しまった、まだこの状況のままだった!)
「う、うわ、悪い!」
朔は慌てて透華から離れるが、
頭の中はもう大混乱。
透華ははだけたブラウスのボタンを直しながら、顔を真っ赤にしたまま朔を睨む。
「バカ!この、バカ朔! !
絶対許さないんだから!
後で覚えてなさいよ!」
(透華の声は怒ってるが、どこか気恥ずかしそうで、いつもより迫力がない。
俺は床にへたり込みながら思う。
なんで、俺の人生って、いつも透華に振り回されっぱなしなんだ!?
この後も、勉強会どころじゃなくなる、悪い予感しかしないぜ——)




