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没落令嬢は決死の覚悟で姫様の初夜を身代わりする ~秘密を守るために逃亡したのに、なぜだかお相手の王子様に捕まり溺愛されています  作者: 新 星緒


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2・2 身代わり初夜は成功……?

 すぐにアーデルと専属侍女頭が駆けつける。


「ああ、エルゼ。こんな格好で……! 本当にごめんなさい」

 ガウン姿のアーデルがエルゼを抱きしめて涙を流す。

 エルゼはアーデルと専属侍女頭に支えられながら、必死に頭を横に振った。


「私は大丈夫です。それよりも姫様は早く寝室へ。王子殿下が目を覚ます前に」

 なんとかそう声に出すと、エルゼは微笑んだ。それを見てアーデルは涙目ながらも「あなたの勇気を無駄にはしないわ」と応えて、素早く寝室へ入って行った。


 エルゼたちはしばらく身じろぎもせず扉を見つめていた。けれど、それが開く気配はない。

 どうやら入れ替わりは成功したらしい。


 ほっと息をついたところで、エルゼはアーデルと専属侍女頭が用意しておいてくれたお風呂に入ることにした。

 アーデルの気遣いなのか適温のお湯はほのかにフローラルな香りがして、エルゼの心を安らげてくれる。


「どう? 熱くない?」

 湯船に首までつかったエルゼに、専属侍女頭が優しく尋ねる。

「ええ。すごく気持ちいいです」 

「よかった。姫様がとても心配していてね。この湯は回復薬も入っているのよ」

「ああ、だから――」


 さきほどまで重かった身体が、少しづつほどけるように軽くなっていくのをエルゼは感じていた。

 そんなエルゼの髪を、専属侍女頭が丁寧に洗ってくれる。


「ねえ、エルゼ。もしかしてハインツ王子は明け方まで眠らなかったの?」

 首をかしげて「たぶん」と答えるエルゼ。


 正直なところ昨晩のことはよく覚えていない。緊張と不安に震えていたのは最初だけで。エルゼは未知なる甘い行為に、すぐになにがなんだかわからなくなってしまったのだった。


(お……思っていたほど怖くはなかったけれど)

 エルゼの頬がほんのりと赤くなる。


(殿下は優しかったような気がする。それにずっと『好き』『愛しい』って囁いてような……。でもそれは姫様に対しての言葉だもの。殿下に申し訳ないことをしたには違いないわ)


 エルゼは良心に痛む胸をそっと押さえる。


「エルゼ?」

 心配そうに声をかける専属侍女頭。その声にエルゼは彼女の質問を思い出し、もう少し詳しく答えることにした。 

 

「いつの間にか私も眠ってしまったみたいなんです。殿下が眠りについたのが、部屋が明るくなる前なのかどうかもわかりません」


(もしも。暗さが薄れ始めてからで、私の姿を見られていたら)

 そう考えると、エルゼの体は恐ろしさに震えた。


 ただ、幸いアーデルもエルゼも金髪だ。アーデルは陽光のように煌めく金髪でエルゼはピンクがかった金髪と違いはあるけれど、光量が足りないところでは差は分かりにくい。

 顔さえしっかり見られていなければ、髪色からは別人だと気づかれないはず。


(どうだったかしら。顔にもやたらキスをされたような気もするわ。でも別人だと気づいていないから、一緒に眠っていたのよね?)


 エルゼが湯の中の膝頭を見つめながら懸命に考えていると、 ふと胸に赤い花びらを散らしたような跡がたくさんついているのが目に入った。


(これってもしかして……噂に聞くキスマークというもの?)


 エルゼは人付き合いが極端に少ないけれど、王宮で多くの侍女たちと働いていると、自然に耳に入ってくる話は色々とある。


 エルゼは跡を示しながら、専属侍女頭を見上げた。

「どうしましょう、これ、姫様には……」

「大丈夫、ガウンを脱がなければ気づかれないわ」

「そうですね!」


 ほっと胸を撫でおろすエルゼ。だけど専属侍女頭がため息をつく。


「やっぱり身代わり以外の方法を考えるべきだったかもしれないわ。たとえ姿を見ていなかったとしても、姫様とエルゼとでは体型が違うもの。行為が一晩中続いたのなら。次回に姫様との差に気づいてしまうかもしれない」

「そんな可能性がありますか!?」

「それだけ熱心にされる方なら、たぶん。でも仕方ないわ、これは誰にも予測できなかったことだもの。みんなで対策を考えましょう」


(確かにそうだわ。姫様と私とでは胸のサイズは全然違う。あれだけ触っていたのだから、どんなに暗くたって違いがわかるに決まっている)


 恐ろしさに震えながら、エルゼが力なく「はい」と答えたときだった。

 外から「わっ!!」と歓声が上がるのが聞こえてきた。

 専属侍女頭が、「《証》披露の時間ね」と呟く。


 その言葉にエルゼは緊張して身をすくめた。


「かねてから伝えているとおり――」

 ハインツの張りのある声が聞こえてきた。

「私は《証》の披露には反対だ」


(え!?)

 エルゼは驚いて専属侍女頭と顔を見合わせた。


「女性の尊厳を著しく傷つける行為だからだ!」


「それなら身代わりする必要は……!」

 エルゼが思わず呟くと、専属侍女頭が頭を横に振った。

「だけど《証》が必要ないだけで、処女性は尊ばれているままのはずよ」


 確かに、とエルゼは昨晩を思い返す。王子は彼女の耳に、「初めての相手が私で嬉しい」としきりに囁いていた。


「その代わり――」

 ハインツの声が再び聞こえてきた。

「我が言葉をもってここに報告をする。リーデルシュタイン王家第二王子であるハインツは、愛する人との婚姻を無事終えた!! ぜひとも祝ってほしい!!」


 更なる歓声と拍手が沸き起こる。

 想定していたものとは違うものの、どうやら宣言は無事にされたようだ。


「よかった。これでひとまず安心ね」

 専属侍女頭がほっとしたようにエルゼに微笑んだ。

 エルゼも胸を撫でおろして、「そうですね」と彼女に笑顔を向ける。それから正面に向き直り、そっと両足を抱えた。


(だけれど憂いが消えたわけではないわ。むしろ今夜が本当の勝負なのかもしれない。作戦を完璧にするためには、やはり私は――)



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