第2話 ジョイス少年
「綺麗だろう」と少年がとても嬉しそうに言うその笑顔の方が印象に残った。
『僕が初めて作った魔道具なんだ』
『まあ、そうだったの』
『風魔石で鈴を鳴らして、水魔石で中の液体を循環させているんだ』
『そう』
『それだけの道具なんだけど、綺麗でしょう?』
『ええ……、そうね』
『本当?綺麗だと思う?』
ぱあっと弾けるような笑顔を見せた少年は、カウンターを回り込んでフロアに出てきた。
そして、魔道具を両手で持ち上げると、窓がある方に近づけた。
そして満面の笑顔でベラドンナに言う。
『見て見て!光が当たると中の破片が反射して一層煌めくんだよ。この破片は、魔魚の鱗を使っていて光を溜め込むんだ。暗い場所でも少しの間はキラキラするんだよ』
すごく嬉しそうに語る少年の言葉に惹かれて、ベラドンナも魔道具に目を向けた。
確かに、ドーム上の器の中が煌めいている様子はとても綺麗だ。
『素敵ね』
『でしょう?』
ベラドンナの言葉に少年の笑顔が更に輝いた時、店の奥の扉が開いて、店主らしき年配の男性が入ってきた。
そしてフロアの様子を見て、目を見開いた。
『不在にしておりまして申し訳ございません。問題はございませんでしたでしょうか?』
『ロートン、僕が店番してたよ』
『ジョイス様。サムが居たはずですが……』
『サムは昼食を買いに行った。すぐ戻ると思うよ』
『何故、私を呼ばず……、あ、サムのことでございますが……!』
魔道具屋の店主は困惑気味に言った後にベラドンナ達の方に目を向け深々とお辞儀をした。
『大変失礼いたしました。当バーベナ魔道具店の店長をしておりますロートンと申します』
『僕は、ジョイス・バーベナと申します』
店主ロートンの真似をするようにジョイス少年はペコリとお辞儀をした。ロートンはハラハラした表情を浮かべていた。
その魔道具店は、ジョイスの生家であるバーベナ子爵家が経営をする店だそうだ。
貴族の装いをしているベラドンナに物おじをしないと思ったらジョイスは子爵家の令息だった。
ジョイスの服装は派手ではなかったが、仕立てが良くて質が良さそうだったし
見た目からも何となく貴族なのではと言う気はしていた。
ちょっと馴れ馴れしげに話しかけてきたジョイス少年を、ベラドンナの護衛騎士が咎めることをしなかったのは、貴族である可能性が高そうなことと、ジョイスは言葉遣いは馴れ馴れしかったが、ベラドンナに危害を加えそうな行動や嫌がるような行動はしていなかったからだった。
ベラドンナが名乗ると、ベラドンナの家の方が家格が上と言うことに気がついたのかジョイスは少しだけ慌てたように少し目をキョロキョロとさせた。
でも、ベラドンナも家格を気にした堅苦しいやり取りなどには慣れていないので、そのままの態度で構わない旨を伝えた。
少しして、昼食の買い出しに出ていた従業員が戻ってきた。
サムと呼ばれた従業員が買い出しで買ってきたドライフルーツの焼き菓子を囲んでベラドンナは少しだけジョイスと話をすることになった。
『貴族なのにお店番をしていたの?』
『僕の家が経営しているお店だからね。……難しそうな事を訊かれたりしたらロートンを呼びに行くつもりだったんだ。
でも、僕が作った魔道具を見てくれていたから思わず話しかけちゃった』
『そうだったわ。貴方は魔道具を作るのね』
『うん。魔道具職人になりたいんだ』
『え?』
キラキラした笑顔で語るジョイスの言葉にベラドンナはびっくりした。
ベラドンナがイメージする貴族の職業は、領主以外だと王宮などの文官や騎士、領地の代官などだ。
魔道具店のように店の経営をする事は驚かないけれど
職人と言う種類の職業は平民のイメージがあったのだ。
『僕は三男だし、成人したらほぼ平民みたいなものだよ』
『騎士爵は取らないの?』
貴族の令息、令嬢は領主を継がない場合は、成人をしたら準貴族と呼ばれる立場となる。
それはベラドンナも同様だ。
騎士爵を得た場合は、爵位は相続はできないが一代貴族となる。
後継でない貴族の子供は令息なら騎士爵を得るか、令嬢なら嫁ぐかをするケースが多いのだ。
それで、ベラドンナはジョイスに訊ねたのだがジョイスは少し考えるように首を傾げた。
『僕は剣を振るうより魔道具を作っている方が楽しいんだよね』
『そう……。』
『ベラドンナ嬢は?』
『え?』
『何をしている時が好き?』
『え……?』
ジョイスの屈託のない笑顔を見て、ベラドンナは自分が何をしている時が楽しいと感じるかを考えた。
考えると、香りの良い薬草茶の香り、湯気を思い出した。そして効果を感じた時の喜びも。
『……薬草茶を淹れること、かしら。効能を考えて薬草をブレンドするの』
『へえ!自分でブレンドするなんて凄い!』
ジョイスがサファイヤのような瞳をキラキラさせた。褒められてベラドンナは嬉しくなった。
『……親戚が薬草研究所にいて、薬草を送ってくれるから色々な薬草が手に入るの。
庭園で育てている薬草を自分で摘むこともあるわ。
肌が綺麗になるブレンドティとかを淹れるとお母様も喜んでくれるの』
ベラドンナがブレンドしたり、淹れたお茶を飲んで、母親や叔母などに喜ばれるとベラドンナは嬉しかった。
まだそんなに知識はないけれど、研究所からフェンネル家に薬草を送られてきた時に薬草と一緒に添えられた効能のメモをベラドンナは大事に取っていた。
その効能メモを参考にして薬草茶を淹れていた。薬草の見た目なども映し取ってノートに纏めており、屋敷の侍女達にも聞きながら、薬草の知識を深めることが楽しいとベラドンナは感じていた。




