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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第九十三話・酒の話と出発前


 宴会は夜遅くまで続いた。


「いったいどこからこんなに?」と思うほど酒樽や瓶が持ち込まれている。


僕とモリヒトは主催者特権で一つ一つ味見をさせてもらう。


「こりゃあな、ここいらじゃ一番うまいんじゃぞ」


「本当ですね」


子供の僕が言っても有難みは無いが、モリヒトが頷くと途端に酒蔵の親父は機嫌が良くなる。


くそう、僕だって味くらい分かるわい。


体が子供だから多くは飲めないだけだ。


懐が温かいモリヒトは、気に入った酒を取り寄せる交渉をしている。


後で分けてもらおうっと。




 ほぼ酔いつぶれた住民たちの中、ドワーフのロタ氏がドカリと僕の横に座った。


「ほれ、先日の代金じゃ」


「ありがとうございます」


お金はモリヒトに渡す。


「で、新しい工房のほうはどうなりそうですか?」


ドワーフ街に戻っていたロタ氏は親方と相談して来たはずだ。


「詳しいことはアタトさんが領都から戻って来てからになると思うが」


概ね、こちらの条件を歓迎してくれたという。


「アタトさんたちがいない間、お嬢に親方の工房を使わせて銅板画や栞の制作をさせてみるそうだ」


それで認められれば、ガビーは僕の工房の雇われ工房長ということになる。


「お嬢もその間、ちゃんと預かる」


「はい、お願いいたします」


僕はロタ氏に頭を下げ、ロタ氏は僕の肩をポンポンと叩いた。




「おれはアンタがお嬢を拾ってくれたことに感謝しとる」


港の側の家の庭。


波の音が絶え間なく聞こえ、隣にいても時々話し声が聞こえなくなる。


「親方の大事な娘さんだ。 おれは見守ることしか出来んかった。


だが、今思えば、おれはただ臆病なだけじゃったな」


ガビーが工房からいなくなって初めて気付いたと、ロタ氏は酒を呷る。


「アタトさん、アンタならお嬢の相手でも構わんとおれは思う。 もう何年か先の話だがな」


「はあ?」


僕とモリヒトの声が揃う。


『ありえませんね』「ないない」


僕たちは首を横に振る。


「何を言う!、あれでもお嬢はなー」


「何の話ですかー」


酔っ払ったガビーが乱入して来て、話はそこで消えた。




 翌日は宴会の後片付けと、出発の挨拶に各所を回る。


領都への旅は馬車で片道三日としても、到着するのは祭りの二、三日前だろうし、終わったからといってすぐ戻ることは難しいだろう。


おそらく、戻って来るまでに十日以上は掛かる。


「その間、タヌ子をお願いします」


「ああ、任せておきなさい」


タヌ子はいつも通りワルワさんにお願いした。


「トス、バムさん」


僕はウゴウゴの入った箱を取り出す。


「わっ、これスライム?」


「うん、僕が育ててるんだ。 出来ればトスに面倒を見て欲しい」


トスは嬉しそうに目を輝かせた。


「大丈夫なんすか?」


他のスライムの世話をしているバムさんがこそっと訊いてくる。


「ええ、大丈夫ですよ。 おとなしいですから」


僕はそっと蓋をずらして指を入れた。


ワルワさんとバムくんが慌てる。


「お、おい、魔力が」


僕は片手で二人を制した。




 ウゴウゴが、箱に突っ込んだ僕の手に触手を伸ばす。


「ウゴウゴ。 僕はしばらく留守にするけど、皆の言うことを良く聞くんだよ」


触手が僕の指に触れる。


「小さいほうがトスくん、大きいほうはバムさん」


【ウン、ワカッタ。 ハヤクカエッテキテネ】


丸いウゴウゴの体が上下左右に揺れる。


「か、かわいぃ」


トスが結界の箱に顔をくっつけるようにして覗き込む。


お出かけ用のウゴウゴの箱は、魔石を底に敷いたガビー作の特別製だ。


ひと月は結界の効果が切れないようになっている。


「アタト様、これはうちのヤツらとは少し違うんで?」


バムくんは気付いたみたいだ。


「うん。 僕の魔力で育てたせいか、体表面が僕の肌の褐色に近い。 それと、こっちの言うことは理解してるから悪口は止めてね」


帰って来たら愚痴を聞かされそうなんで。




「トス、触ってみるかい?」


「えっ、いいの?}


僕が頷くと、蓋の隙間に入った僕の指の横に、トスが自分の指をちょこんと差し込む。


シュルッと伸びたウゴウゴの触手がトスの指に触れる。


「思ったより暖かいね」


「うん、お腹が膨れてる時は暖かいんだ。 逆に冷たいと思った時はお腹が空いてるから触っちゃダメだよ」


すぐに指を離して、魔力だけを流し込むか、魔石を入れる。


僕が話す注意点をバムくんが一生懸命、紙に書いていた。


「トスに預かってほしいんだ」


「オラに?」


僕は頷く。


「だけど、勝手にウゴウゴに魔力をやっちゃダメだからね」


必ずバムくんかワルワさんに許可をもらうように話す。


「分かった!」




 そして、僕は小声でワルワさんにお願いする。


「トスは今は魔力が安定してるみたいですが、この先、どうなるか分かりません」


一時期、魔力が駄々洩れになったトスを僕たちは塔で預かって指導をしていた。


それは精神的に落ち着かせ、魔力を安定させる修行だったけれど、トスはまだ子供だ。


「もし、僕たちがいない間にトスが魔力制御出来なくなって光り出したら、ウゴウゴに吸わせてみてください」


実験的な意味合いが強いので、ワルワさんにしか頼めない。


「ウゴウゴには、その人によって魔力量が違うから、全部吸っちゃダメだって言い聞かせてあります」


「うむ、しかと任されたよ」


僕が不安そうな顔をしていたからだろう。


ワルワさんが僕をギュッと抱き締めた。


「気を付けて行くんだよ。 何かあったら他の者たちを置いてでも帰っておいで」


「……はい」


僕は少し驚いて、でも嬉しくて泣き笑いの顔になってしまう。


トスは嬉しそうにウゴウゴの箱を抱えて、港の家に帰って行った。




「ねえ、アタトくん。 これとこっちの服、どっちがいいかなあ」


夕食後までヨシローは荷物をまとめきれずに騒いでいた。


「明日は早いんだから、もう寝なさい」


「はい。 ではお先に」


僕たちの荷物はモリヒトが拡張した結界の中に置いてある。


必要に応じて容量が大きくなったり、中身が詰まっていてもそのまま小さく出来たりして便利だ。


『アタト様がこういうのが欲しいとおっしゃったので作りました』


さすが頼りになる眷属精霊である。

 


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[一言] 「4次元ポケット」作っちゃったかあ(目反らし
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