表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/667

第九十二話・素材の値段と付加価値


 競売の日、僕たちは前日の夜に塔を出て、早朝に港近くの漁師さんの家に着いた。


「おはようございます」


「おお、坊ちゃん、早えな」


漁師のお爺さんはすでに漁に出ていたようで、浜に戻って来たところだった。


「アタトー」


話し声を聞いたトスが屋敷から出てくる。


「おはよう、トス。 今日はよろしく頼む」


ウンウンと頷きながら、トスは僕の周りを見回す。


「ああ、タヌ子は今日は塔で留守番だよ」


今日はワルワさんに、素材についての説明や助言をお願いしているので客の対応に忙しい。


「えー、オラが面倒見るがに」


「たまには留守番もさせてみたいからねー」


トスはぶちぶち文句を言いながら、家の中へ案内してくれた。




 今回、タヌ子を連れて来なかったのには理由がある。


「そろそろタヌ子にも番が必要ではないか」


と、ワルワさんに言われたのだ。


この世界の獣たちも気温が一定以下になる日が続くと、冬眠まではしないが、冬籠りといって一日中、巣穴や洞窟などで過ごすようになる。


タヌ子は魔獣ではあるが元は獣なので野性は残っているようだ。


今は森で冬籠もりの準備として単独行動の練習中。


僕としては、まだまだ心配なのでモリヒトの分身は付けてある。


『魔獣なのに過保護ですね』


と、モリヒトには冷ややかな目で見られたが、心配なものは心配なんだよ。




 素材やその他の在庫品は、既に塔の保管庫からこの家の敷地内にある新しい蔵に移してある。


大小の物が30種ほどあった。


ガビーとロタ氏が作った一覧表に番号を振ってもらい、品物にも各々にその番号を書いた紙が貼られている。


魔獣などの素材は魔力を帯びているため、モリヒトがそれぞれを結界で囲い、ワルワさんが書いた説明書きも付けた。


この二日ほどは見易いように陳列したり、大量にある物は一部だけ飾って残りの数を書いたりで大変だった。


 今日は手伝ってくれる漁師さんたちに最終確認を行う。


「買取希望者には事前に割符を渡してあります。 すみませんが、割符の無い方は入場をお断りしてください」


蔵を一回りし、欲しい品物の番号と金額、自分の名前を書いた紙を持って庭へ移動。


僕たちが庭に設置した小屋の中に置いてある箱に入れてもらう。


取り引きは本日限り、一発勝負だ。




 蔵は展示品だけで満杯なため、庭に屋根と柱しかない小屋を急いで作った。


終われば撤去する予定なので簡単な造りになっている。


投票箱の管理と関係者用の休憩及び待機所にした。


「買えなかった人から文句が出そうだな」


ヨシローがお茶を飲みながら呟く。


「仕方ないでしょ」


僕も今日は疲れが残っているので薬草茶である。


 競売なので同じものを複数人が希望した場合は、当然、記入した値段が高い人が優先になる。


どうしても欲しいなら後日入荷次第ということで、別注文にしてもらうつもりだ。


いつ入荷になるかは未定で、それでも良いという人のみ受け付けることにした。




 そろそろ最初の希望者が蔵に入った頃だろう。


「あんな半端な物、本当に欲しい人はいるんでしょうか」


僕はこんなに大ごとにする気はなかったのに。


ソワソワと落ち着かないガビーの横で、どっしりと座っているロタ氏が余裕の表情を見せる。


「もちろん、いると思いますよ」


ドワーフさんたちの紙はすでに箱の中だ。


先日の見本として一覧表に書いた数字とは少し違っていたのを、僕は知っている。


そこまでしても欲しいんだなあ、と思った。




 買取希望者は次々と訪れる。


記入した紙を持って小屋を訪れたご婦人から、


「アタトさまに一目お会いしたくて」


と、挨拶されて驚く。


「ご参加、ありがとうございました」


僕はフードを被ったまま挨拶を返し、割符に投票済の印を入れて返す。


割符は後日、品物と交換になる。


 黙って紙を入れ、サッサと帰る人、たくさん書いたのか、何枚も入れる人もいた。


今日は陽が落ちるまで蔵は開いている。


警備や案内の者には時々交代して、休憩や食事を取ってもらうようにお願いした。


 僕たちも小屋の中で昼食を頂く。


漁師の豪快な魚料理は素朴な味で美味しい。


「オレら釣りを教えてもらったお蔭で、漁だけで生活出来るようになっただ。


ありやとうごぜえやす」


そう言って、珍しい魚や菓子を差し入れしてくる漁師さんたちもいる。


港を騒がしくしてるこっちが申し訳ないくらいだ。




 順調に見えるが、モリヒトからは展示品を盗もうとする者や、割符を持たずに無理に入ろうとする者がいることは報告されている。


その度に漁師さんたちや、並んでいた買取希望者の住民たちに袋叩きにされて追い出されるそうだ。


何故か、僕やモリヒト、ティモシーさんの出番がない。


やがて陽が沈み、静かに蔵の扉が閉じられた。


「お疲れ様でした」


明日から、この蔵を借りて開票作業に入る。


「ドキドキしますね!」


ガビーが張り切っている。


僕は平静を装っていたが、ずっと胃が痛かった。




 翌朝、まずは開票し、買い取ってくれる相手を決定する。


決まったら物品の配達しながらの代金回収。


教会警備隊のみなさんが馬車を借りて、町の中を走り回ってくれた。


有難い。


 ドワーフ分はもちろん、ロタ氏に一括で依頼。


かなり量があったが、ドワーフ用の荷物袋を持っているため、ロタ氏は全て詰め込んで帰って行った。


代金の回収は後日になる。




 数日後の夜、関係者が漁師さんの家の庭に集まった。


全てが終わり、今夜は手伝ってくれた人たちを招いての打ち上げである。


無事に終わったのは町の住民たちのお蔭だ。


「ありがとうございました」


「いや、わしらは坊ちゃんに恩返ししただけや」


漁師のお爺さんが思いがけず、そんなことを言った。


「だから僕はそんなつもりはなくて」


フフフッとワルワさんは笑う。


「病の元だけじゃないぞ。 領主館の横暴な文官のことも、魔魚の釣り方、ワシの魔獣の研究にもアタトくんは貢献してくれておる」


「そんなつもりはなくても自然にそうしようとするアタトくんは、もうこの町の住民と同じだと思うよ」


ティモシーさんの言葉が嬉しくて、胸がいっぱいになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ