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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第九十一話・工房の新しい主


 あれから、ロタ氏は毎日のようにガビーの鍛治室に顔を出すようになった。


「あの栞は良いな。 おれも欲しいくらいだ」


僕が様子を見に行くと話し掛けられた。


「それはガビーに直接、言ってください。 喜びます」


銅板栞はドワーフたちの中でも評判が良いらしい。


「昔から、お嬢の図案は綺麗だったからなあ」


長い付き合いの先輩に褒められて嬉しそうなガビー。


「そ、そんなことないよー」


なんなんだ、この二人は。


工房の先輩後輩の関係というより、ロタ氏はガビーを『お嬢』と呼んで、完全に上司の娘扱いしている。


しかし、以前のガビーは親の工房で嫌がらせを受け、この塔に逃げて来ていた。


工房の取引担当のロタ氏は地下街の外に出ていることが多く、ガビーの状態がそこまで酷いとは知らなかったようだ。


今は気に掛け、大切にしてるってのは見てて分かる。




 さて、微笑ましいところをお邪魔するか。


「すみません。 ロタさんにお願いがあるんですが」


「うん?、何だ」


僕たちはガビーを鍛治室に残して移動する。


 モリヒトが僕にはコーヒーを、ロタ氏には酒のカップを出す。


「実は冬の前に領都に行くことになりまして。


その間、ガビーをドワーフ街で匿ってほしいんです」


「匿うとは?」


ロタ氏の顔が怖い。


僕は銅板画の件で脅されている話をする。


「ここに一人残して行くのは心配なんです」


しかも、領都にガビーを連れて行くことはもっと危ない。


「分かった」


ロタ氏は頷き、日程の確認をする。


「戻って来るまで、よろしくお願いします」


勝手に一人で塔に戻らないようにキツく言ってほしいと頼んでおいた。




「ついでと言ってはなんだが、こちらからも頼みがある」


太い腕を組んでいたロタ氏は、ドワーフ工房の親方からだと付け加えた。


「先日の銅板画と栞のことだ。


親方は、あれを作るための新しい工房を興して、お嬢に管理させたいと考えている」


ああ、それは良いかも。


僕がウンウン頷いていたら、ロタ氏は、


「おれは反対だ」


と、顔を顰めた。


どうやら親方は娘に甘過ぎる、ということらしい。


「お嬢はまだ若い。 いくら腕が良くてもドワーフ街では、また嫌がらせを受けるかも知れない」


ドワーフの鍛治師はまだまだ男性社会である。


工房を管理するということは、そこで働く者たちの生活もみてやらなくてはならない。


「お嬢には荷が重いと、おれは思う」


女性の工房主では舐められる、ということだ。


「それではどうするつもりですか?。 もしかしたらロタさんが新しい工房主になられるとか」


ロタ氏なら親方も認めてくれるだろう。




 だが、ロタ氏は首を横に振った。


「おれは新しい工房をここに設置して、アタトさん、あんたに管理してもらいたい」


「へ?」


ポカンとする僕に、ロタ氏は続ける。


「今までにない新しい工房だ。


エルフであるアタトさんの経営する工房で、ドワーフの女性たちが通いで働くことにすれば良い。


もちろん、仕入れや販売はおれが面倒をみるし、指導はお嬢に任せる」


「いやいや、僕に工房なんて」


「分かってる」


ロタ氏は無茶振りだと分かっていて、それでも僕に頼むと言う。


「エルフの、しかもまだ子供のアタトさんには負担を掛けないようにする」


それはどういう意味だ?。


「とりあえず、アタトさんには建前上の工房主になってもらう。


その上で経営が上手くいって、誰にも文句を言わせないようになったら、お嬢に交代してもらって構わんので」


ええー?、なんかスッキリしない提案だな。




「上手くいかなかった場合は?」


ロタ氏は「うーむ」と唸る。


「施設は閉鎖になるが、働いている者はうちの工房で引き受ける」


親方の工房で女性たちを引き受けたとしても働けるわけじゃないだろう。


いや、なんかおかしい。


それじゃあ、ガビーはどうなるんだ。


 僕は目を閉じて考える。


モリヒトが僕の前に淹れ直した香りの立つコーヒーのカップを置いた。


苦い香りが頭の中を駆け回る。


しばらくして、僕はそれにミルクをぶち込んで飲み干した。


「この話、親方はご存知ですか?」


ロタ氏を下から見上げるように睨む。


「いいや。 まだ、おれの独断だ」


「そうですか。 分かりました」


僕はモリヒトにペンと紙を用意させる。



 

 親方は、ガビーに早く一人前になってほしいと思っているのだろう。


ロタ氏は、僕が考えた女性が働く工房はドワーフ街では受け入れられないと思っている。


それなら僕が好きなようにやっても良いんじゃないかな。


「ドワーフの文字は分からないので書いてもらえますか?」


ペンと紙をロタ氏に渡す。


人族と取り引きしているロタ氏が文字を書けないはずはない。


「何を書けばよいのだ?」


「約定の下書きです。 新しいガビー工房のね」


ロタ氏が驚いて目を見開き、僕を見た。




「一つ、経営者は僕、アタト。


二つ、工房名は『ガビー工房』


三つ、場所は塔の地下に新しく建設」


場所は親方とガビーで決めてもらえば良い。


塔の地下二階から下には、まだ確認していない場所が多くある。


「四つ、材料調達、販売交渉に関してはキツロタ氏に協力を要請。


五つ、新しく従業員を雇う場合は、その家族の許可を必須条件とする」


後で揉めるのは困るからな。




「今のところ、これが新しい工房を立ち上げる際に、ドワーフ族の皆さんに対する約束みたいなものになります」


ドワーフ街でも新しい工房を作るときはどこかに届けが必要だろう。


ドワーフではない僕なら尚更だ。


おそらく、族長とか、工房組合長みたいなのがいると予想した。


「資金については、もうすぐ競売がありますから、その売り上げで賄えると思いますよ」


競売にはロタ氏も参加予定だ。


総金額の予想はついているだろう。


「いいのか?」


書き終えたロタ氏は複雑な表情をしていた。


「良いか悪いかを親方に聞いてみてほしいんです。


出来れば、僕が領都に行ってる間に考えてもらい、戻って来たら結論を伺います」


ロタ氏は考え込んでいたが、結局は頷くしかない。


「分かった。 親方と相談しよう」


「ありがとうございます」


上手くいくといいけどな。



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