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第九話・辺境の異世界人に会う


 ここは異世界のはず。


モリヒトのような精霊やエルフがいて、そこにいる老人は西洋人風の容姿をしている。


なのに、彼はヨシローという名前で容姿もごく普通の日本人男性。


まるで夢の中で現実に引き戻されたようだ。


いや、もしかしたら、この世界には日本人と同じような民族、または国があるのかも知れない。


 僕は混乱していたが、いつの間にか家の中でテーブルについていた。


「で、タヌキくんはキミがとても気に入ってるみたいだね」


お茶を淹れてくれるヨシローの声にハッとする。


僕の膝にタヌキが乗っかっていた。


「今日はずっと面倒見てたから、かな」


優しく背中を撫でる。 ずいぶん慣れたものだ。


 

 

 しかし、ワルワという名の老人はまだ警戒を解いていない。


「そいつは魔獣から救ってくれた者のことを覚えているのだと思う」


俯いてしまった僕をじっと観察している。


「いえ、僕が助けた訳ではありませんけど」


ヨシローはお菓子まで出してきた。


「アタトくん、お腹は空いてないかい?。 これもどうぞ」


来る途中でリンゴは食べたが、小腹が空いたのでありがたく頂く。


「しかし、こんな時間に子供が一人とは。 親はどうしたんだ」


ワルワさんは腹立たしそうに言う。


ああ、本当は優しい人なんだなと分かる。




「親はいません」


僕はゆっくりとフードを脱ぐ。


「は……エルフだと?」


「俺、初めて見た……」


僕の姿に、ワルワさんもヨシローも目を剥いて驚く。


「幼い頃に森で倒れていたのを拾っていただいたエルフの村で長老と暮らしていましたが、先日、村から追い出されてしまって。


今はエルフの森を出た所にある廃墟で生活しています」


嘘はついてない。


モリヒトも『この人たちなら大丈夫そうです』と伝えてきた。


これから売買の仲介を頼むなら、ある程度こちらの事情も伝えなければならないだろう。


そう思ったのだが。




 何故か、ヨシローが泣いている。


「なんてこった、こんな可愛い子を!」


いや、可愛くはないし。


僕としては、ずっと村にいるつもりはなかったから別に気にしていない。


「そうか。 大変じゃったろう。 今夜はもう遅いから泊まっていきなさい」


ワルワさん、さっきまで警戒していたと思うんだが。

 

「助かりますけど本当に良いんですか?」


僕としては野宿だろうが宿だろうが、モリヒトが何とかするのでどっちでも構わない。


それより、何だか二人ともお人好し過ぎて心配になる。


「俺の部屋を貸そうか?」


ヨシローがそう言うなら、空き部屋は無さそうだ。


「いえ、僕は屋根と壁さえあれば十分です」


初対面だし、一応遠慮しておく。


本当にこの部屋の隅っこや物置きでも良い。


 あーだこーだと話し合いの末、何とか一階のソファと毛布を借りることで落ち着いた。


二人が部屋から居なくなってから、モリヒトと小声で会話する。


「詳しい話は明日にしようか」


『そうですね』


フニャー


ソファで横になるとタヌキが傍にやって来て、僕の足元で丸くなった。




 翌朝、まだ空が白み始めたばかりの時間に目が覚める。


村にいた頃は長老が早起きだったので、僕も釣られて起きる習慣が身に付いていた。


体を起こすとタヌキも目を覚ます。


「お前は寝てていいんだぞ」


ニャウン


お手洗いと洗顔を済ませて薄明るい外に出てみた。


タヌキが付いて来たので、一緒に家の周りを散歩する。


「明るいと印象が違うなあ」


昨日、到着した時はすでに真っ暗だったからよく分からなかった。


 森の中、朝靄に浮かぶ家。


要塞のように冷たく見えるが、頑丈な佇まいは何故だか安心する。


魔獣が出るという森も、エルフの森なんかより良く手入れされていて美しい。


人間が普段から出入りしてる証拠だ。


「さすが人間はたくましいな」


『エルフは古臭い伝統を重んじて、頑固に生活を変えようとしませんからね』


モリヒトの愚痴に苦笑していたらワルワさんが玄関から出て来た。




「おはようございます」


手を上げて挨拶する。


「ああ、おはよう。 アタトくんは早いな」


僕がいなくなったと心配させてしまったようで、大人しく家に戻る。


 ワルワさんが朝食の準備をしている間、少し話を聞いた。


「何故、こんな危険な場所に住んでいるのですか?」


ワルワさんは国でも有名な魔法の研究者らしい。


「ここは辺境地で魔獣の被害が多い。


やつらの魔力や生態を知ることで撃退したり、寄せ付けないように出来たりするようになると思って研究しておるんじゃ」


なるほど、と僕は頷く。


「じゃあ、このタヌキも研究用ですか?」


タヌキは僕の膝の上で大人しくしている。


「そいつは二、三日前に狩人が森で拾ったのを持って来たんじゃ。


まだ小さくて肉や毛皮もたいして取れないから研究用にどうぞってな」


ワルワさんは時々、狩人や警備隊の兵士から魔獣の死骸などを研究のために引き取ることがあるそうだ。


「生きた魔獣は危険だし、滅多に手に入らないからなあ」


「でしょうねえ」


僕もそう思う。




「あ、そうだ!」


大事な話をしなければならない。


「ん?、どうしたかね」


「すみません。 実はタヌキを追いかけていた魔獣の処分をどうすれば良いか伺いたくて」


一応、解体して魔法で保存していることを伝える。


「ほお。 それは嬉しい。 ぜひ、研究のために引き取らせてもらうよ」


「えっ、ワルワさんが?。 僕は肉屋や道具屋に売ろうと思っていました」


僕としては信用できそうな相手であれば、なお良いが、研究というのは金がかかるはずだ。


無理して買い取らせるわけにはいかない。


「ああ、金の心配ならいらんよ。


ワシは研究費用を国から十分にもらっている。


獲物の状態次第じゃが、店に売る価格と同額で引き取らせてもらうから安心しなさい」


それなら良いか。


「ありがとうございます。 後で取りに行って来ますので、ぜひお願いします」


話をしている間に食卓には朝食が並び、寝坊したヨシローが慌てて起きてきた。


「えええ、アタトくん、帰るの?。 俺も行っていい?」


ヨシローは好奇心いっぱいのキラキラした目をしている。


僕は丁重にキッパリお断りした。



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