第八十五話・競売の決まりを話し合う
翌日、朝食もそこそこにバムくんが訪ねて来て、ヨシローと一緒に出掛けて行った。
何故か「念のため」とガビーがついて行ったのは不思議だ。
『良かったのですか?』
食後のお茶を用意しながらモリヒトが訊ねる。
ワルワさんはバムくんが仕事で出掛けているので、魔物たちの面倒を見るため庭の小屋に入っている。
今、家にいるのは僕とモリヒトとタヌ子だけだ。
「仕方ないよ。 ヨシローは僕のためだって思ってるんだし」
確かにヨシローの気持ちも分かるし、ありがたいとも思う。
だけど、それが辺境伯に届くのかというと、それは微妙だと思うんだよな。
「権力者っていうのは結局、己の利益しか考えないからね」
領民や他種族のことなんて考えてるわけがない。
元の世界のエライ人と同じ。 美味しいことを言うのは人気取りでしかないことを僕は知っている。
褒賞なんて甘い言葉で僕を呼び寄せて、自分の利益にならないと分かったら排除して「危険だから消した」と宣伝する気なんだろう。
そこに商業的価値があるかないかは微妙じゃないかな。
『出来るはずありませんが?』
モリヒトが冷たい目をしている。
「完全に消さなくてもいいんじゃない?。 少なくとも自分の目の前から消えれば」
精霊に勝てるとは思えないと、それくらいは誰かが進言しているはずだ。
おそらく、危険を感じたら相手は逃げると予想しているのだろう。
「自分たちが排除されるとは思わずにね」
『その時はお任せを』
モリヒト、嬉しそうな顔をしないで。
「最悪の場合、それをさせないために王族を招待しているのさ」
相手をするのが辺境伯だけならいいが、王族となるとさすがに相手は国になる。
だから僕が怖気づいて逃げると踏んでいるようだ。
そんな権威なんて精霊に何の関係があるんだよ。
精霊が操る自然を壊されたら人間なんて生きていけないと思うがな。
「甘く見られたもんさ、精霊も」
『まったくです』
まあ、辺境伯が体裁だけでもこっちの条件を飲んだ以上、顔くらいは出しておくさ。
あとは知らん。
キィと扉が開く音がして、ワルワさんが戻って来た。
「モリヒトさん、お任せしてすまんね」
『いえ、こちらこそいつも泊めていただいておりますので、これくらいは問題ありません』
この家に来るとモリヒトは僕の護衛にピッタリ張り付いているので、ガビーが張り切って家事の手伝いをしている。
モリヒトがこの家で家事をするのは最近では珍しい光景だ。
手を洗い、ワルワさんもテーブルに着く。
「アレはどうですか?」
ワルワさんの前にお茶のカップが置かれたところで話を訊く。
「ああ、あの『スライム』とかいう魔物かの」
ほお、ヨシローの命名がここでは定着しているようだ。
「個体数が大量でなければ、多少、体内の魔素を吸われても問題はないようじゃ」
あの大きさだと吸われたとしても僅かだろう。
そういえば、ウゴウゴもお腹が空いていなければ魔素は吸収しない。
「この子たちは自分を保つための一定の魔力さえあれば満足なんじゃ。
しかし、それが急に減ると過剰に取り込もうとする」
すると丸い体が少し大きくなるそうだ。
「それは何か使い道があるのでしょうか?」
問題は人間に対する有用性。
「そうじゃなー。 丸くて可愛いから愛玩用といえるが、魔力を吸われるのはどうじゃろうなあ」
いやいや、魔物を愛玩用なんて言い出すのはワルワさんくらいでしょ。
それに魔素や魔力は生命維持に必要なものだ。
危険と言われてもおかしくない。
「おっはよーーー」
いきなり入って来たのはトスである。
「おい、脅かすなよ」
見た目だけでも同年代の友人であるトスに、気安く話し掛ける。
「えへへっ、早くアタトに会いたくてさ」
ああ、そういえば、漁師さんのところにも顔を出さなきゃ。
「ごめんな。 漁師のお祖父さんにも迷惑かけて」
人が殺到してしまったと聞いた。
「ああ、ダイジョブダイジョブ。 店は早じまいにしたし、元々売り物もすぐ売り切れちゃったしね」
トスはちゃっかり僕の隣に座ってタヌ子を撫でる。
「それよりさ。 オラにも何かお礼させてくれよ」
えっ、それはー。
僕が嫌な顔をしたのが分かったのだろう。
トスは慌てて「お金は無理だぞ」と茶化した。
「何でもいいんだ、いつも通り、その、ケンカするなとか、おとなしくしてろとか」
いつも言われていることなんだろう。
僕はクスッと笑う。
ただ僕のことを口実に、トスは褒められるようなことを何かしたいだけなんだな。
「午後からここで話し合いがあるんだ。 その間、タヌ子の世話を頼める?」
「おうっ、任せろー」
トスの笑顔が普段通りで僕はホッとした。
落ち着かないので昼食は簡単なものにしてもらい、食後のお茶を飲んでいたら、
「お邪魔します」
と、まずはティモシーさんが来た。
「あれ?、お呼びしましたっけ?」
「ああ、俺、俺が呼んだの」
ヨシローが手を上げる。
「揉めた時に仲裁役が必要だと思ってね」
揉める?。 何で?。 僕は首を傾げる。
「販売会自体はそんなに大袈裟ではないと思うんだけど」
「とんでもないっ!!」
ガビーが何故か大声で訴える。
「溜まりに溜まった魔獣や魔魚の素材。 しかもモリヒトさんのお蔭で保存状態も良好。
こんなの道具職人でなくても欲しい者はたっくさんいます!」
「そうじゃな。 しかも出所は確かだし、アタトくんじゃからな」
ワルワさんも笑っているが、言うことが何だかおかしい。
モリヒトも頷いていないで助けろ。
『アタト様はご自分が希少なエルフ族だということを忘れていらっしゃるのですよ』
僕は、エルフが嫌いだから自分自身がエルフ族だということを無意識に忘れているのだという。
「そ、そんなことは」ない、とは言えない。
そりゃあ、自分がエルフじゃなかった記憶があるからな。
「つまり、皆の目当ては魔獣や魔魚の素材より、僕というエルフの売ってる物が欲しいってこと?」
何だかアイドルグッズとか、そんな感じに聞こえるんだが。
「そ、そんなことはありませんよ」
ガビー。 僕は絶対サイン会なんてしないからな。




