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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第八十二話・詠唱の本を思い出す


 僕は、司書さんに椅子とお茶を勧められて、少し落ち着く。


ティモシーさんは忙しい方なので、司書さんに僕の世話を頼んで仕事に戻って行った。


「アタトくんは、ゆっくりしてらっしゃい」


司書さんはそう言って、今回貸し出す本を探しに書架の中に消えて行った。


いつものガビー用の本や、僕のための社交術の本をお願いしている。


薄暗い半地下の部屋、魔法灯がぼんやりと目に優しい。




「ごめん、変なこと言った」


僕はモリヒトにペコリと頭を下げた。


「主人がこんなんじゃ困るよな」


苦笑する僕に、モリヒトは首を横に振る。


『いいえ。 アタト様はそれで良いと思います』


「どうしてだ?」


悪い時は悪いと言ってくれ、そうお願いしたはずだが。


『わたくしには、アタト様の中に二つの魂が見えます』


ほえっ、霊的なヤツか!。


『そんなに大袈裟なものではございませんが』


モリヒトは笑う。


『わたくしから見ると、すでに二つの魂はお互いに影響し合い、共存しております。


今さら、違う魂だと切り離すことも出来ませんよ』


そりゃそうだよな。


僕はもうアタトなんだから。




 そんな会話をしていたら司書さんが戻って来た。


モリヒトが防音の結界を張ってたみたいなので、お互いに姿は見えるが声は聞こえていない。


あ、そうだ。


結界を解除してもらい、戻って来た司書さんに声を掛ける。


「あの、これ。 お借りしていた本なんですが」


前回、司書さんが選んでくれた本の中に魔法詠唱文集があった。


「ああ、どうでしたか?」


今回貸し出す本を積み上げながら、司書さんが訊ねる。


「アタトくんは美しい文字がお好きなようでしたから、お勧めしてみましたが」


「はい。 とても印象的でした」


そんなに厚みのある本ではない。


ページ数にしても10あるかないか。


「これに書かれている詠唱文はかなり凝っているので、普通の方では魔力が足りず、発動しないものがほとんどなのですよ」


ああ、そうだったのか。


よくこんな本が残っていたなと思うほど、内容も詠唱文だけという徹底ぶりで解説さえ無いのだ。


だからこそ興味深い。


いくつか気に入った詠唱文はあるし、文字の練習に使わせてもらっている。




 魔法は魔力さえあれば、誰でも発動は可能である。


ただ「発動する」と「可能である」は違う。


きちんと現象を理解することと、それを実現するための力が必要になる。


では、魔力が多ければイケるかというと、そうでもない。


魔法には属性があり、属性には個々に相性がある。


魔法を使う者に合う属性なら練習次第で発動出来るようになるが、合わないと魔力を異常に消費するだけに終わる。


つまり、魔力が足りない状態になり、不発に終わることが多いのである。


 本来なら、そんな詠唱の本を子供に貸し出すことはない。


だが、司書さんは僕に貸してくれた。


「優秀なお供の方がいらっしゃいますからね」


何があっても対処出来ると考えて貸してくれたようだ。


モリヒトを信用してもらえて嬉しい。




「アタトくん、気になる詠唱文がありましたか?」


「はい。 これがカッコいいなあ、と」


例の黒炎の魔法の詠唱文を指差す。


あわよくば、アレが何だったのか訊きたかったのだ。


ニコニコしていた司書さんの顔が一瞬で曇る。


「そうですか。 これは古い種族の魔法詠唱です。 今では彼らの姿を見ることもありません」


あー、以前少しだけモリヒトから聞いたな。


魔物に多い属性だって。




 元々数の少ない種族であったらしく、彼らが居なくなったために、その珍しい属性魔法を発動出来る者がいなくなった。


この詠唱文は、珍しい彼らの特性である属性魔法を引き継ぐ者のために残されている。


いつか、偶然、その属性に合う者が見つかるまで。


「アタトくんも気を付けてください。 下手に発動してしまうと魔力だけが減ってしまいますよ」


魔法の失敗などで一瞬で失くなれば気絶することもあるらしい。


「あ、あはは、僕は大丈夫です」


モリヒトから現在、この魔法は禁止されている。




 危なかった……。


まさか、既にやってしまったとは言えない。


「ありがとうございました」


僕は早々に蔵書室を出る。


フードを深く被った僕たちは、また誰かに言葉を掛けられないよう早足で教会を抜け、ガビーが待つ魔道具店に急ぐ。


 詠唱文集は怪しまれないように返却して来た。


まあ、中身は全て書き写してあるが。


「なあ、モリヒト」


僕の後ろから着いてくるモリヒトに顔を向ける。


「あの詠唱文の属性、分かる?」


『……』


モリヒトが黙っているのは、分かっているけど喋りたくないという拒否だ。


じゃあ、何でアレを僕に使わせた。


国境外だし、深そうな穴だし、相手は魔物の抜け殻だから万が一のことはないだろうと判断したんだろうか。


「まさか発動するとは思わなかった、ってか」


『ええ、まあ』


小さな声で肯定する。




 僕はあの詠唱文が気に入っていた。


集中し、何度も書いて練習していたのもモリヒトは知っている。


それにエルフである僕は魔力だけはたんまり有るのだ。


「属性さえ合っていれば、発動する可能性はあったんじゃないか?」


モリヒトがそれに気が付かないはずがない。


だから教えて欲しい。


「あの魔法は何なの?」


口ごもるモリヒトに、命令すれば良いことは分かってる。


この先も良い関係を続けるなら無理強いはダメだ。


それでも知りたい。




 あの黒炎の魔法。 僕は魔力の減少を少しも感じなかった。


「モリヒトに頼まれて、ガンバって岩を動かして、砂礫作って穴埋めしたよな」


でもその後、気絶こそしなかったが、すごく眠くなった。


それって魔力消費が多かったからなんじゃない?。


「僕が二日も寝てたのは、合わない土属性のせいなんだろ?」


確か、眷属の魔法には主人の魔力が上乗せされる。


主人の僕の魔法にも眷属であるモリヒトの属性の影響は当然あるだろう。


「モリヒトは、僕がどれだけ魔力を使えるのか、試してたんだよな」


魔素が無い場所で土魔法ばかり使わせたのは、モリヒトが測りやすいからだ。


「ねえ、僕の属性は何なの?」


黒炎魔法は何属性の魔法なんだ。



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