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第八話・人間の町に行く


 モリヒトが人通りの少ない時間帯が良いというので、町に入るのは日が暮れてからということになった。


「えー?、店は開いていないだろう」


『今回はその幼獣を返すだけです。


魔獣の素材を買い上げてくれそうな店を紹介してもらって、後日また行けばよいかと』


そうか。 全く見ず知らずのエルフから買ってくれる店はないよな。


「分かった。 とりあえずコイツは早めに返してやろう」


『はい。 準備いたします』


その後、忙しそうなモリヒトに手伝いを拒否された僕は、毛玉と一緒にふて寝した。




 人里は、この海岸から南の森を抜けたところにある。


海に面して小さな湾はあるが、陸地には豊かな平原が広がり、牧羊が盛んな土地らしい。


早めに食事を済ませて地下から階段を上がる。


塔の内部は見事にツルピカの石造りになっていた。


「ほお、すごいね」


『わたくしの本性は大地の精霊ですので、土や植物に関しては専門家なのです』


モリヒトは土地関係には強いらしい。


素材となる土や石さえあれば、見映えの良い石材なんかに変質させられるんだと。


へえー、知らなかった。




 毛玉を抱いて人族の森へと歩く。


この森は整備されていて歩き易い。


海岸沿いは小さく、海から離れるほど森は深く広くなるようだ。


『夜はあまりここを通る者はいません。 この辺りは先ほどのような危険な魔獣が時々発生しますので』


「発生?。 棲んでるわけじゃなく生まれるのか?」


『左様でございます』


モリヒトの話では、この世界の生物には魔力がある。


その魔力の元になる魔素というものがどこにでもあって、それが局地的に溜まる場所に魔獣や魔物が生まれやすいそうだ。


『正確には、普通の生物が魔素により危険な魔獣や魔物に変化するのです』


生物に魔素は必要だが、過剰に摂取するとおかしくなる。


『魔素を大量に、しかも長期に渡って摂取した魔獣は巨大になりますよ』


そういった個体がたまにこの森で見つかるそうだ。


「そんな危ない所の近くに人が住んでるのか」


『人族にとっては魔獣も獲物ですから』


まあ確かに美味いしな。




 歩き続け森を抜ける頃には、とっぷりと暮れていた。


『さて、その幼獣の気配を探しましょう』


魔獣は人間よりも魔力が高いため、残り香のように魔力の気配が数日は残るそうだ。


『おや、近いですね』


モリヒトは出て来たばかりの森に目を向けた。


「むっ、森の中なのか?。 町で人間に飼われていた訳ではなく?」


モリヒトが歩き出し、僕は毛玉を抱えたまま後を追う。


『どうやら、あそこですね』


町の外れ、森の浅い場所に一軒の家があった。




 それは家というより四角い塔のようでもあり、小さな要塞のようでもある。


「ずいぶん用心深い家だな」


石造りの頑丈そうな外装。


家の中の明かりが外に漏れないよう、窓も全て木戸で覆われていた。


『とにかく、その幼獣の気配が濃く残っていますので、こちらで間違いないかと』


付近には他に建物は無い。


 では訪ねよう。


初めてこの世界の人間に会うわけだから、ちょっと緊張する。


一応、エルフであることを隠すために深くフードをかぶっているし、モリヒトは光の玉に戻り姿を消した。


『声は聞こえますね?』


姿は見えなくてもモリヒトの声は僕にだけは聞こえる。


「ああ、大丈夫だ」


小さく返答して毛玉を抱き直す。




 キュッキュッ


やはり慣れた場所に戻って来たことが分かるのだろう。


今まで大人しかった毛玉が僕の腕から顔を上げて鳴き出した。


「分かった分かった。 もう少し待て」


夜も遅い時間であるし、怪しまれても仕方ない格好だ。


それでも、この毛玉を家の中に入れてやらないと、また他の魔獣の餌食になる可能性がある。


 覚悟を決めて扉を叩く。


「ごめんください。 夜分遅くにすみません」


何度か声を掛けるが返答はない。


こんなゴツイ扉では中まで聞こえないのかも知れないな。


扉の周りを見回すとノッカーのような金具で壁を叩く物がある。


「これかな?」


僕は首を傾げながら、それを叩いてみた。


カンカンカン


しばらくして、中から気配がした。




「どちら様かな?」


扉の向こうから声がする。


「夜分遅くにすみません。 この子を知りませんか?」


扉に小さな窓があることに気付き、そこへ見えるように毛玉を持ち上げる。


七歳の子供の身長では少々届かない位置にあるが、どうだろうか。


ガチャガチャと音がして扉が開く。


「驚いた、お前さん。 その子を見つけてくれたのかい」


恰幅のいい白髭の老人が出て来た。




 玄関の外で会話をする。


「はい。 昼間、大きな魔獣に追いかけられていたのを偶然見つけました。


でも小さいし毛皮もキレイだから、誰かのおうちで飼われてるんじゃないかと思って」


なるべく子供らしい話し方を意識する。


「ああ。 飼っている訳じゃないが面倒はみているんじゃ。


キミは一人かね?」


夜遅くに子供が一人だし、不審がられてるな。


「はい、先ほど町に来たばかりで。 この子で間違いないですか?」


僕は毛玉を高く持ち上げる。


ミャンミャン


猫のような甘えた声。


「あ、ああ。 助かったよ、探していたんだ」


僕はその老人に毛玉を押し付ける。


「良かった。 では僕はこれで」


強く警戒しているのがビシビシと伝わってくるので、これ以上の会話は無理だろう。




 背を向けて歩き出そうとすると、中から違う人の声が聞こえてきた。


「ワルワさん、どうしたんですか?」


はっきりとは分からないが若い男性のようだ。


「おや、タヌキくんが見つかったんですね。 良かったー」


ああ、毛玉はやっぱりタヌキで良かったのか。


「キミ、ありがとう!。 お礼をしなきゃ。 とりあえず中に入って」


僕はその男性を見てビクッとした。


まさか……。


「遠慮しないで。 こんな時間に一人で来るなんて偉いねえ」


腕を掴まれ、家の中へと引き込まれた。


 先に対応した老人は西洋人ぽい見た目だが、この若い男性は黒髪黒目の、どうみても東洋人。


「キミ、名前は?」


固まっている僕にその男性が話し掛けてくる。


「ぼ、僕はアタトです」


「俺はヨシロー、差也さなり 善郎よしろうというんだ」


うわあ、日本人確定だ。



ヨシローの素性について気になる方は、こちらをご一読ください。


「信じる者たちへ 〜俺は辺境の異世界人〜」



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