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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第七十六話・小箱の中の魔物


 モリヒトにウゴウゴを見せた。


『あなたという方は』


頭を抱え、何故か呆れられたんだが、何か悪いことでもしたかな。


「飼っちゃダメなのか?」


モリヒトから返事がない。


「私は良いと思います!」


ガビーが大声で賛成してくれた。


有難いが、ここの決定権は、ほぼモリヒトにある。


『……まあ、良いでしょう。 箱から出さないようにしてくださいね』


「おう、ちゃんと躾けるよ」


こんな面白いヤツ、いないからな。


「良かったな、ウゴウゴ」


箱の上から撫でる。


「ウゴウゴって……」


僕の名付けセンスにガビーが苦笑してるけど、気にしない。




『それにしても、本当に大丈夫なのですか?。 それは魔物ですよ』


ちゃんと言うことを聞くのか、モリヒトは心配してるんだな。


「ああ、大丈夫だ。 コイツとは会話が成立している」


「はあ?」


ガビーが大声をあげ、モリヒトは目を剥いた。


『まさか』


えー、ホントだよー。


僕は箱の蓋をほんの少し開け、そこに指を一本だけ入れる。


ウゴウゴが触手を伸ばして、それに触れた。


【ワーイ】


「わーい、って喜んでる」


ガビーは顔が青くなってきた。


「わ、わたしには何も聞こえませんが」


うん。 ウゴウゴは口が無いからな。


「ウゴウゴ、こっちのドワーフのおねえさんはガビーさん。 あっちの精霊はモリヒトさんだ。


挨拶しな」


半液状の体をクネクネさせて、上下に動く。


【コンニチハ】


「こんにちは、って」


そして今度は左右に動く。


【ヨロシクネ】


「よろしくね、だってさ」


モリヒトが眉間に皺を寄せて、目を閉じた。




 僕はポカンとしていたガビーを手招きする。


「ここに指を入れてごらん」


「え」


「大丈夫。 食われたりしないし、魔力も吸われないと思うよ」


少なくとも僕はまだされてない。


【シナイシナイ、オナカイッパイ】


なるほど。 コイツは腹が減ると魔素や魔力を吸うのか。


「お腹がいっぱいだから魔力を吸ったりしないって言ってる」


興味はあるようで、恐る恐る近寄って来たガビーが指を箱に近付ける。


僕の指と並んで箱に入ったガビーの指に、ウゴウゴが触手を触れさせた。


「ひゃあっ」


悲鳴に近い声を上げながらも、ガビーは我慢して指を動かなさい。


【コンニチハ、オネーサン】


「何か聞こえないか?」


「い、いえ、な、な、んにも」


そっかー、残念。


ガビーはサッと手を引っ込める。


「でも、何か悪い気はしませんでした。 嫌われてはいないって分かります」


「そうか」


僕も指を戻して蓋をきちんと閉める。


良い子だと分かってもらえたようで嬉しい。




 それからしばらくの間、モリヒトは黙って家事をこなしていた。


夕食後、話があると言われて、ガビーと二人で食後のお茶を飲んで待つ。


『お待たせしました』


片付けが終わったモリヒトが、珍しく僕たちと一緒に囲炉裏の席に座る。


いつもなら僕が眠るまで立って見守っているか、光の玉に戻っている時間。


一方が壁の四角い囲炉裏、その三方に一人ずつ座った形だ。


僕の足元にはタヌ子が寝そべり、すぐ傍にはウゴウゴの入った箱が置いてある。




『先日のアタト様の魔法の件ですが』


あー、あの真っ黒な炎のヤツね。


『絶対に口外しないように。 ガビーさん、トスさんや親方にも言わないようにしてください』


「は、はい」


モリヒトの真剣な表情に、ガビーはウンウンと頷くしかない。


『それとアタト様は、しばらくの間は新しい魔法は使わないでください。 特に詠唱するものは』


「うん、分かった」


他に誰もいないだろうと軽い気持ちでやってしまった。


穴の中だったから良かったけど、あれが地表だったら、どこまで被害が及んでいたか分からない。


だけど。


「モリヒト、ひとつだけ教えて欲しい。


あれは何だったんだ?。 今まで見たこともない魔法だったけど」


あの詠唱に関しては、僕が司書さんから借りた本に載っていたものだ。


あの本は確か古い詠唱文集だった気がする。


文字の練習に使ってたものなんだが。




 モリヒトが何か迷っている感じがした。


「今は真実を話せないなら無理にとは言わない」


だけど、僕は当事者だ。


自分が加害者になってしまってから「知らなかった」では済まないと思う。


『あれは……そうですね。 まあ、ちゃんとした属性魔法です』


だから普通に出回っている本にも載っていた。


『問題は、その属性が、現在あまり使われていないことでしょうか』


「使われてない?。 その属性の者がいないってこと?」


『はい』とモリヒトは頷く。


特定の種族にしかない属性魔法らしい。


『彼らは百年ほど前から姿を見せなくなったので』


エルフ族の森からも、人族の里からも、ドワーフの地下街からも。


ふうん。 何だかかわいそうな話だな。


『ですから、アタト様がその魔法を使われるのはあまりお勧め出来ません』


見たことがない相手からしたら脅威に思われてしまうだろう。


僕も、自分で使っておいてなんだけど、こりゃ拙いと思った。


威力が強過ぎる。




「あのぉ、その種族でなくても使える魔法なんですよね?」


ガビーが恐る恐る訊く。


『そうですね。 魔物が使うことが多い属性魔法です』


「魔物?」


僕は首を傾げる。


確かに魔獣や魔魚でも魔法を使う個体はいた。


魔獣は火や土の属性魔法が多く、魔魚は水や風の魔法が多い印象だ。


『ええ。 魔物は魔力で出来ておりますので、魔法を使います』


そりゃそうか。


「もしかして、魔物と同じ魔法を使うから、その種族は嫌われていたんですか?」


ガビーが、彼らが姿を消した理由を予想する。


なるほど。


何か魔物の事件か事故があって、それをその種族のせいにしたのかな。


例えば、あの魔法を使える僕が、魔物であるウゴウゴを使って悪いことを考えてそうだ、とか言われちゃうんだろう。




 てか、何だかどこかで聞いた話だ。


「ネルさんが、僕が森に行くと何でも僕のせいにされたり、僕が呪いを掛けたみたいに思われるから近寄るなって言ってたな」


いつの時代でも、異世界でも、同じことが繰り返されている。


『アタト様のことは、わたくしが必ずお守りいたします』


え?、あ、うん。 モリヒト、ありがとう。



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― 新着の感想 ―
[一言] あ~、「アンリ・マユ」扱いか 何か悪い事が有ったらコイツのせいって扱われる 生贄役の(邪神の方では無い
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