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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第七十五話・調査のその後に


 ガビーは夕食前に戻って来ていた。


トスは無事だったが、漁師のお爺さんは寝込んでいたそうで、ワルワさんの薬を飲み始めたところだった。


「アタト様の所で飲んだ薬草茶も飲ませてみようと思ってるって」


「そうか、良かった」


間に合ったようだ。


今度、トスには有り余る魔力を他者に渡す方法も教えたほうがいいだろう。


僕もまだ知らないけどな。




 夜遅くにモリヒトが戻って来た。


『遅くなって申し訳ありません』


いや、別に謝る必要はないよ。


「お疲れ様。 何かあった?」


モリヒトは疲れた顔でため息を吐いた。


『ネル様にお渡しして、すぐ戻るつもりでしたが』


どうやら長老とネルさんに捕まっていたらしい。


僕は自然と笑みが浮かんだ。


そうか。 長老はお元気そうだな。


『アタト様のことを色々訊かれまして』


精霊は嘘を吐くことが出来ない。


モリヒトは、きっと僕の嫌な話もしたのだろう。


僕にはあの二人に隠すようなことは何も無いから平気だ。


「僕のことを気遣ってくれて、ありがとう。 モリヒト」


僕はその夜、久しぶりに心から安心して眠ることが出来た。




 翌朝、朝食を頂いてから塔へと帰る。


「お世話になりました。 ではまた」


次はまた三十日後に来る予定である。


「こちらこそ、ありがとう。 本当に助かったよ」


ワルワさんがいつもより多めにチーズや山羊乳などお土産に持たせてくれた。


玄関の外に出たところで、馬がやって来るのが見える。


どうやらティモシーさんのようだ。




「良かった、間に合った」


馬から飛び降りると、僕の前に跪く。


「え?」


僕が戸惑っていると、ティモシーさんは頭を下げたまま、


「今回の件、誠にありがとうございます。


解熱の薬草も、狩人が足りずに放置されていた森の狩りも、さらには国境門の外での活躍。


この御恩、教会関係者一同、決して忘れません」


と、正式な礼を取る。


「そ、そんなこと。 大袈裟ですよ、ティモシーさん」


僕は慌てて顔を上げてもらう。


ワルワさんたちも何事かと傍にやって来た。




 息を切らせているティモシーさんに、ガビーが水筒を差し出す。


「どうしたの、ティモシー」


ヨシローはティモシーさんが水筒から一口飲んだ後、話し掛ける。


「国境警備隊から領主様に連絡があった。 アタトくん一行が無事に戻って来たと。


それに、病の元も消してくれたそうだね」


ああ、あの爆発の件か。


国境門では何も言われなかったから大丈夫だと思っていたけど、ご領主には報告がいったようだ。


「えーっと、それは、モリヒトのお蔭でして」


詳しいことはヨシローに調査報告書の写しをお願いしたので、それを読んでくれるようにお願いした。


「本当にたいしたことはしていませんから」


僕たちはその場から逃げるように立ち去った。


あー、ビックリした。




 森を抜け、塔に戻って来た。


モリヒトが隠蔽の結界を解く。


「なんだこりゃ」


石塀の内側の庭に、何故かドワーフたちが酒盛りをしている。


「なんだ、お前ら!」


子供の声では迫力は無いが、僕は精一杯の大声を出す。


「おー、アタト。 戻ったか」


赤い顔をしたドワーフの親方が酒瓶を振り上げる。


「親父!、何してんだよ」


父親の工房主に、娘のガビーが慌てて駆け寄った。


「何って、お前たちを心配して待っておったんじゃ」


どうやら、このドワーフたちはガビーの工房の職人たちらしい。


 ガビーからの手紙を受け取り、慌ててやって来たが遅かった。


「森の異変には気付いていたが、ワシらには実害はないと放っておいた。


じゃが、エルフや人もいなくなれば我らも生活が危うくなることに気付いたんじゃ」


何か手助けしたいと待っていたらしい。


『結界があるので身動き出来なかったのでしょう』


それにしても。


「だからって宴会はないよな」


僕は呆れた。


「僕たちはこうして無事に戻りましたので、お引き取りを」


モリヒトに頼んで地下道への穴を開け、ドワーフたちを放り込む。


ついでに散らかっているゴミも一緒に押し込んで穴を塞いだ。


はー、やれやれだ。




 地下の部屋に戻ると、ガビーとモリヒトが掃除を始める。


僕とタヌ子は邪魔になるそうなので、一階で待つことになった。


「さて」


僕は自分の荷物から小さな結界の箱を取り出す。


「よお、元気にしてるか?」


僕が最初に魔石を与えて復活させたヤツである。


「魔物かあ」


生物として存在せず、魔力を持って初めて生存する物。


元の世界でいうところの妖怪とか化け物ってとこか。


まあ実在すれば、たが。


「魔素を吸うのはこの世界じゃ当たり前だよな」


魔素を体内に取り込み、魔力にして消費するのは普通の人間や獣でも同じこと。


種族や体格によって、体に溜める量や放出する方法が異なるだけ。


だけど、こいつは際限なく吸い尽くし、増殖する。


そこが厄介だ。




 今は結界の箱の中で小さくなっている。


「僕の言うことを聞くなら箱から出してやっても良いけど」


言葉を理解してくれるだろうか。


 タヌ子が僕の膝に顎を乗せて来たので撫でてやる。


ずいぶんと大きくなったもんだ。


「そういえば、タヌ子は僕の魔力を与えて育てたんだよな」


結界の小箱の中を僕の魔力で満たす。


少しずつでいいから僕に慣れてくれたら面白いな。


そう思った。


 何やらウゴウゴと動き出す。


「うん?、少し大きくなったのかな」


小箱の中の魔力が失くなったので、魔力を追加しようと蓋を少しずらした。


触手が伸びて来て、箱に入れようとしていた僕の指に触れる。


【アリガト】


え……。


「お前、僕が分かるの?」


【アイ】


おそらく言葉ではなく、僕に直接伝えているんだろう。


指を触手から離すと聞こえなくなった。


ただただ嬉しそうに揺れている。


面白いな、お前。


僕は箱をポンッと叩いた。




 コレは待遇を考えないと。


「確か、ヨシローが『スライム』とか言ってたな」


なんか聞いたことある名前だ。


箱の中で平たい丸になって、ウゴウゴと蠢いている。


「名前、いるかな?」


僕に名付けのセンスはないが、とりあえず。


「ウゴウゴ、で良いか」


今日からこれをウゴウゴと呼ぶことにする。


タヌ子がウニャーンと鳴いた。



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[一言] 二匹目が居たら「ルーガ」やな(棒
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