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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第七十二話・病の元と抜け殻


「面白いな、お前」


小さな結界の箱の中で、半液状の魔物がユラユラと動いている。


「これは何をする魔物なんだ?」


僕はモリヒトを見上げた。


『何もいたしません』


え?、魔物なのに何もしないのか。


「聞いたことあります。 魔素を食べちゃうんで嫌われてるんですよ」


ガビーは知っているようだ。


「あんなおっきいのは初めて見ましたけど、こういう小さいのはたまに地底湖にいます」


「地底湖?」


「はい。 これ、水が好きらしいんです」


『ええ、水属性の魔物ですね』


お前、そうだったのか。




 そのまま小さな魔物の様子を見ながら、一晩を過ごした。


僕はまた小さなテント代わりの建物を造らされたけどね。


今回の旅で僕はモリヒトに土魔法で物を作ることを教えてもらっている。


石で出来た塀と建物、仕切りの壁、台と椅子。


竈は延焼防止などの火魔法が必要になるそうで、構造が複雑なのでモリヒトかガビーに任せた。


 夕食後、ガビーはとっくに寝入っていた頃。


魔物は結界の箱の中では大人しくフルフルしている。


「可愛い」


僕がニヤニヤしていたら、モリヒトがため息を吐く。


『アタト様は、あの大量の抜け殻もご覧になったのに、そう思われるのですか?』


「あはは。 そうだな、あれはキモかった。


でも、このちっこいやつの大集合だと思えばカワイイかな」


共食いは困るが、と僕は笑う。




 モリヒトがコホンと咳払いをした。


『病の原因では?』


あー、それか。


「モリヒト。 空気中の魔素が減るとエルフはどうなる?」


『魔素を体内で循環し、魔力を作ることが出来なくなります』


それはエルフに限らず、この世界の生き物全体に言えることだ。


「つまり病気に対する抵抗力が弱くなるんじゃないかな」


 ちょうど夏から秋に向かう季節にそれは発生した。


エルフたちが冬ごもりの準備に動き出した時期である。


「魔物の抜け殻が水に乗って森に入る。 魔力を感知出来ない抜け殻だから見落としたんだろう」


あの穴のように、どこかに溜まっていたのかも知れない。


魔素が減った森でエルフが行動し、病の元を持ち帰る。


村自体に結界は張られていても、出入りするモノに着いた病原菌を完全に除去出来ているかは分からない。


「本来なら病に抵抗出来るはずの魔素が足りない」


体内で循環する魔素が減って抵抗力が弱くなっていた。


「だから体が反応して熱が出たんじゃないかな」


元の世界での理屈を当て嵌めてみたけど、そんなに違わないと思う。




「抜け殻になっても魔素を求めて動いているし、こんなに強い気配を発しているんだから、敏感なエルフは影響を受けるんじゃないかな」


五年ほど前から森に魔獣が減ったというのも、モリヒトではなく、これの影響かも知れない。


『なるほど。 そうかも知れませんね』


もしかしたら、あの穴は元は地底湖だったんじゃないだろうか。


山の麓に湧き出る水は自然に湖や泉、川や地下水となって流れていく。


それに乗って多少の魔物は流れて行ったかも知れない。


ドワーフたちは地下でそれを見ているから、あながち間違っていないと思う。


「何があったか分からないけど、その流れが止まって、そこで魔物たちは留まった」


僕の予想で申し訳ないが、おそらく長い時間をかけて共食いしていたんじゃないかな。


そして、穴の中で大量に抜け殻が発生、地上に影響が出始めた。




 まずは、気配の元はコレで間違いないだろう。


魔力や魔素を吸収し、奪う魔物だ。


こんなに大量にいたら、そりゃ魔獣も怖がって逃げるし、魔素を求めて移動するよな。


『それで、これはどうなさるおつもりですか?』


小さな結界の中で揺れる魔物を指差す。


「そうだなあ。 一旦、これを持ち帰ってワルワさんに調べてもらおうと思う」


と言うと、モリヒトが嫌そうな顔をする。


最近、この顔を見ることが多い。


「もしかしたら、何かの役に立つような気がしてさ」


驚いた顔をするモリヒトを見て、最初の頃より表情が豊かになったなと思う。




 だけど、あの大量の抜け殻はどうにかしなくちゃならない。


これからも病の元になるからだ。


「何体か切れ端を取った後、撲滅しようか。


あ、でも、精霊王にお伺いを立てたほうがいいか?」


魔物や魔獣もこの世界の自然界のものだ。


人やエルフに害があるからと言って全滅させるわけにはいかない。


『一部を持ち帰るのでしょう?。 それならすぐに繁殖するので大丈夫です』


「そっか」


僕とモリヒトは穴をどうやって埋め、外に影響が出ないようにするかを一晩中話し合った。




 翌朝、ガビーの作る朝食を食べ、モリヒトが淹れてくれたコーヒーを飲む。


さて、行動開始だ。


昨日の穴はモリヒトが簡単に蓋をしてある。


そこを開けて、モリヒトが中から切れ端をいくつか採取した。


僕はそれを小さな結界の箱に別々に入れて保管。


ガビーに頼んで素材用の袋に入れてもらう。


「では、いくぞ」


ふぅっと息を吐き、集中する。


「神の慈悲をもって願う、この抜け殻を焼き尽くせ」


ちょっと恥ずかしい詠唱だけど、これ、司書さんからもらった本に書いてあったんだ。


何かカッコイイと思って覚えた。


昨夜、ここなら使って良いって許可が出たんだよ、ふふん。




 穴の底に向けた僕の手に何かが集まる。


「えっ」


自分で自分に驚いた。


今まで見たこともない真っ黒な炎が渦巻き、それが大きくなっていく。


熱くはない。


嫌悪感もない。


ただ僕は集中を切らさないよう気をつけながら、何とか冷静になろうとした。


けど、大きく成り過ぎて、思わず手を振ってしまう。


すると、その黒い炎は渦を巻いたまま落ちて行った。


「伏せろっ!」


僕が叫ぶと同時に、モリヒトは僕たちごと穴から離れる。


モリヒトの結界の中だから大丈夫だと思うが、予想外っていうのはあり得る。


ブワッと煙が穴から噴出し、


ドッカーンッ!


と、何かが爆発したような凄い音がした。


うへえ、こえええ。


モリヒトの結界内でも聞こえたのだから、相当すごい音だったのだろう。


砂煙が薄くなり、視野が開けた。


うん、なーんにも無い。


この周辺が元々何も無い荒地で良かったと思った。



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[一言] ・・・戦術兵器?神の慈悲って(目反らし
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