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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第七十一話・原因の追求をする


 あまり眠れないまま朝を迎えた。


「ふわああ。 良く寝たー」


ガビーはこの張り詰めた空気の中でも平常通りだ。


さすがドワーフは動じないな。


『アタト様、朝食はどうなさいますか』


モリヒトに訊かれて、


「コーヒーだけくれ」


と、答える。


どうせ何も入らない。


「えー、このハムはとっておきですよー」


ガビーがハムを焼きながら大声を出す。


「あはは、僕の分もガビーが食べてくれ」


緊張していた空気が少し緩む。


 僕はコーヒーの匂いを楽しんだ後、一口啜る。


ブラックのまま飲むと胃の中まで目覚める気がした。


気持ちが落ち着いて、目が冴えていく。


「よし、行こうか」


片づけが終わり、僕たちの痕跡を綺麗に消して立ち去る。




 この山には、小さな川はあるのにほとんど樹木が無い。


岩と土だらけの荒地が続いていた。


「魔素が感じられないな」


この世界の生き物は多少なりとも魔力を持っている。


空気中に魔素というものが存在し、それを取り込んで循環させて魔力にしているのだ。


『ええ。 エルフの森や魔獣の森には魔素が多いですが、何故かここには感じられませんね』


無いからといって、すぐに生物が死に絶えるかというと、そうでもない。


体内に、ある程度の魔力は保管されているからだ。


それが無くなる前に魔素のある場所に移動すれば大丈夫。


「前はここにも生物はいたのでしょうか」


ガビーの言葉に頷く。


「皆、移動したんだろうね」


タヌ子やトスの魔力に引き寄せられたのもその一部かな。




 僕たちは気配のするほうへと静かに歩いて行く。


エルフの森は下草が生い茂っていて歩きにくいが、こちらは傾斜があって歩きにくい。


かなり歩いたと思い、小高い場所から町のほうを振り返る。


石で造られた国境の壁が横に伸びているのが見え、その向こうに森が見えた。


森は二つに分かれていて、町に近い森が魔獣の森で、草原を挟んで深い緑の森がエルフの森だ。


僕たちがいる場所はその二つの森のちょうど中間、草原の延長上にある。


草原は山側が狭く、海へ向かうほど広がっていく。


「モリヒト。 これって、僕たちが釣り場にしてる海岸に続いてないか?」


『ふむ。 そうですね。 最初にタヌ子が逃げて来た場所でしょうか』


僕たちは塔に来て間もなく、食料を探しに出ていた時に森から逃げて来たタヌ子に出会った。


「あの時、森から魔獣が一直線に出て来たと思ったけど」


思っていたより森は広く、草原は狭かった。


「魔獣が何かに追われて、ここから真っ直ぐに走ったら」


ちょうどタヌ子が落ちて来た海岸に出るのではないだろうか。


『そのようですね』


じゃあ、魔獣たちはここで何らかの影響を受けたのか?。




 僕は荒地を見回す。


「モリヒト。 この辺りに何かない?。 結界とか隠蔽魔法とか」


魔物っていうのは普通の生物ではない。


なら、何なのか。


気配はあるのに姿が見えない。


「何かに擬態しているか、そもそも姿が無いのか」


ふいにモリヒトがしゃがみ込む。


『アタト様、ガビー、少し離れていてください』


「分かった」


僕とガビーはモリヒトから離れ、近くにあった大岩の傍へと移動した。


モリヒトが地面に置いた手から何かを発する。


『なるほど』


小さく呟く声が聞こえた。


 一瞬、モリヒトから魔法が放たれる。


ガラガラと地面の一部が崩れ、ぽっかりと穴が開いた。


既にモリヒトは地面から浮き上がって、穴を覗き込んでいる。




 一体、そこに何があるのか。


気になってうずうずしていると、しばらくしてようやくモリヒトがこちらに来た。


「あそこに何かあるんですか?!」


ガビーが待ちきれずに声を上げるが無視される。


『周りの土が崩れやすくなっていますので、空中を移動いたしましょう』


先日、荷物のように運ばれたのと同じ、結界魔法に包まれて空中を移動する。


そして、ぽっかりと開いた穴の上空で止まった。


『暗くて見えにくいですね』


モリヒトが光の玉を作って、穴に放り込んだ。


「ぐっ」


ガビーが口を抑える。


「魔物、なのか?」


『半液状態の生き物のようです』


穴の底には何かドロドロとしたモノが蠢いていた。




 気味が悪い、というより、気持ちが悪い。


何かが大量にいることは想像つくが、粘り気のある液体が、まるで生きているかのように波打っているだけにしか見えない。


「あれは巨大な一体なのか?」


モリヒトは首を横に振る。


『いいえ。 いくつかの集合体だと思います』


そう言うと風を飛ばして一端を切り、その切れ端を手元に引き寄せた。


ツルンとした半透明の物が震えている。


『ご覧ください。 切ってもそのまま分裂して新しい個体として生きています』


僕は触っても良いか訊いてから、それを手に乗せてもらう。


防御結界で身体を包んでいるので直接触っているわけではない。


フルフルと揺れる、まるで寒天かゼリーのお菓子のようだ。


「うまそう……」


おっと、聞かれると拙い。


モリヒトは眉を寄せているが、ガビーは気付いていないみたいで良かった。




「これは魔物なんだな?」


『ん-、そうですね。 魔物の抜け殻と申しましょうか』


僕は首を傾げる。


「抜け殻?」


『はい。 魔素が体内にありませんので』


そういえば、魔力を感じない。


ただ生き物の気配だけを濃く感じる。


これが魔素を吸えば魔物になるのか。


『お互いの魔素を食いつくしてしまったようですね』


つまり共食いか。


「じゃあ、これに魔石を与えたら魔物に戻るのか?」


核が無いなら与えてやればどうか。


『アタト様。 こんなものをどうされるのですか?』


「一個だけやらせて!」


僕はモリヒトに頼み込む。




 モリヒトはさっきの大岩の傍まで戻り、結界を解いた。


小さな魔石を一つ取り出して渡してくれる。


ここでならやっても良いらしい。


「ありがとう」


僕は手の上でウゴウゴする魔物の抜け殻を近くの地面に置く。


その傍に魔石を置くと小さく結界を張って透明な箱にした。


シュルッと触手のようなものが伸びて、魔石を取り込んで嬉しそうに揺れる。


ん?、嬉しそうっていうのが何となく伝わって来たな。


『魔物、になりましたね』


抜け殻じゃなくなったようだ。



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